この字幕が好き!『ドリーミング村上春樹』
東京は花散らしの雨が降っています。「花散らしの雨」という響きが好きで、チャンスがあると、ついつい使ってしまいます。
翻訳者というのは、誤解を恐れずに言えば、言葉の変態です。いや、誤解も何も、そのまんまですけれど。「言葉の変態」とは友人の言葉ですが、本当にそうだなと思います。「その違い、どうでもよくない?」と言われそうなところに、延々とこだわる。自分が納得できるまで、「何か違う、もっとピッタリの表現があるはず」と言葉を探し続けます。
それが世界共通だと認識させてくれる映画がこちら。『ドリーミング村上春樹』。デンマークのドキュメンタリーで、村上春樹の小説をデンマーク語に訳し続ける翻訳家メッテ・ホルムさんを追います。巨大なかえるくんも登場し、不思議な味わいの作品です。
私は有料配信で見たのですが、メッテさんのセリフ1つ1つが深く刺さる……というか、じわっとしみ入りました。遠く離れた日本という国に居場所を見つけ、『ノルウェーの森』に夢中になり、自分で訳したいと強く願ったメッテさん。村上作品を好きな理由を「"私の心"に近いから」と言います。私はハルキストではないけれど、こういう感覚はすごくよく分かります。自分の生まれ育った場所ではない、まったく違う場所の文化に、自分の心が近いと感じる。翻訳者というのは多かれ少なかれ、そんな経験をしているのではないかと思います。
私が大好きな字幕の1つがこちら。
旅は複数の人生を
経験する機会なの
さらに、この字幕も。
CO2の排出量が増えて
旅ができなくなったら
本を読めばいい
手軽に旅ができる
翻訳者でなくても、映画や本や旅が好きな人なら、共感できるんじゃないかな。私はもう共感しすぎて、ふふっと笑ってしまいました。メッテさんが村上ワールドをデンマーク語で再現しようと格闘する姿にも、親近感が湧きました。
字幕がまたいいんです。デンマーク語はまったく分かりませんが、字幕が心に直接スッと入ってきて、映画の世界に心地よく浸れました。吉川美奈子さんの字幕です。
この作品は仕事絡みで知って見たのですが、見て本当によかった。何度も見返したくなります。『風の歌を聴け』も読み返したくなり、Kindleに入れました。今読むと、また違うかな。どう感じるのか楽しみです。