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「Die Tranenflut」Adam Wurtz

2019.03.11 09:51

こちらの絵本は戦後ハンガリーを代表する絵本作家のひとりAdam Wurtz(アダム・ヴュルツ)の絵本「Die Tranenflut」(ドイツ語版)です。

アダム・ヴュルツはハンガリー、ブダペストのイラストレーター絵本作家で、国内外で数々の賞を受賞しており1971年にはブラティスラヴァ世界絵本原画展で受賞(plaque)もしております。

絵本自体とは関係のない、ちょっとしたことなのですけれど、ヨーロッパでは珍しくハンガリー人の名前は、日本と同じで姓→名の順番なのですね。

ですのでハンガリーで出版されているWurtzの作品は「Würtz Ádám」と記載されています。

ですが、このドイツ語版ではファーストネーム(名)が先にくるようにと入れ替えて表記されています。ハンガリー国外で活動するハンガリー人はこのようにしていることが多くあるそうです。

実はこの絵本は日本語にもなっていて、ヴュルツの唯一の日本語に翻訳されている絵本だと思うのですが、名前の表記はアダム・ヴュルツになっていますね…。日本は姓→名の順番なのでハンガリーの名前そのままで良いとも思うのですが、西洋風の名前の人はみな名は先、と言う固定観念が日本では強いので、わかりやすいように(?)そうしたのかもしれません。

絵本以外の話が長くなってしまいました。

さて、この絵本「Die Tranenflut」は「なみだのこうずい」という題で日本語にもなっています(絶版)。日本語版も一緒に入荷していたのですが、先にそちらのみ売れてしまいましたので、もし日本語版をご希望の方がいましたら該当の商品ページより再入荷連絡の登録をお願いいたします。

お話はある街を襲った飢饉の話です。

ひどい飢饉の年、飢えに苦しむ人々の耳に財宝の伝説が入ってきます。

その情報は確かなようで、財宝さえあれば、もう飢えに苦しむことはないと、浮かれた街の人々は財宝を取りに行くために皆で大きな船を作り、送り出すのでした。

希望に溢れていた町の人々ですが、なかなか船は戻ってきません。

船が戻ってきたらファンファーレを鳴らす役の見張りの塔に立つ男は、来る日も来る日も水平線を眺めています。

ある日、あまりにもお腹が空いたので、男は海の方ではなく陸の方に目をやると(うさぎの一匹でもいやしないかと思って)、遠くからひとりの老人が歩いてくるのが見えました。

老人は大きな袋を持ち、しくしくと泣いているようです。やがて門の所まで来くると、おいおい泣いている声まで、よく聞こえるのです….。

泣いている訳を尋ねると、中へ入れてくれたら話すと言います。

仕方なく中へ入れると、老人は持っていた袋の口を開けます。袋の中を見た門番は、たちまち老人と同じように泣き出してしまうのです。

老人は街の中へ入っていき、街の人々はみな、その袋の中を見て泣き出し、しかもその涙はとめどなく流れ、止まらずに、街を飲み込む洪水となっていくのです…。

このお話の、袋を覗き込んだものたちの涙が止まらなくなる、というところはグリム童話にでもあるような、古い物語の型を感じさせる部分ですね。とても怖くて面白いです。最後はハッピーエンドになっているのですが、その部分は現代的と感じられるので、そうした古い部分と新らしい部分が混ざったお話になっていると思います。

これはヴュルツの絵にも言えることで、その色使いは大胆でとても洗練された印象を与えつつも、その線からは素朴な部分も残しているように感じられる、不思議な魅力を持った絵を見せてくれます。

日本でいうと堀内誠一さんなどが近い感覚を持っているかも知れません。

アダム・ヴュルツの絵本は本書の他にも、ハンガリーのものを含めて幾つかございますので、オンラインストアでもぜひご覧いただけたらと思います。


アダム・ヴュルツの当店の在庫はこちらです。