「忠臣蔵」2(1958)
はいとりくが答えると、子供たちが揃ってそばに座り、お父上、お土産をたくさんもらってきますから、お留守番をお願いしますと長女が挨拶する。
体を起こして子供らを見た内蔵助は、笑顔で頷いて見せる。
そこにおたかがやってきて、ご挨拶は済みましたか?おかごが待っていますよとりくたちに聞くと、横になっていた内蔵助に羽織を着せてやりながら抱きつき、体を労わりましょうぞと言いながら泣き出したので、りくももらい泣きしてしまう。
内蔵助は黙ったまま、母の手を触り、立ち上がったおたかは、さあ参りましょうと全員に声をかける。
子供達と整列していたりきは、兄が送ろう、さあ、御挨拶せいと長男力が声をかけると、長女と下の2人は揃って、さようならと挨拶し、おたか、りくとともに屋敷を後にする。
長女が振り返り、兄上、さようならというと、見送る力は、体に気をつけるのだぞと答える。
幼い弟たちも、さようなら!と言いながら、母りくと祖母おたかとともに遠ざかってゆく。
屋敷の座敷が見えるところで、幼い弟が父上!と呼びかけるが、座敷の内蔵助は、母おたかからかけてもらった羽織を畳んでさすりながら、子供達の残した手毬をじっと見て悲しんでいるだけだった。
そんな中、下男の岡助に化けて潜入していたこと山岡平八郎(千葉敏郎)は、仏壇に残された内蔵助の名が入った位牌を見つけ顔をこわばらせていた。
岡助はその後、料亭「一力」に忍び込んで、おるいと合流すると、内蔵助は?と聞く。
浮き橋太夫の身請けがすみ、ことさらに深酒をされていますとおるいが教える。
内蔵助はそなたの言う通り、江戸へ下る、妻子とも離別して、世を欺こうとしているんだと岡助は伝えると、小刀を取り出したので、大石を殺せと言うのですか?とおるいは驚く。
そして、私には…、私には殺せませんと言うおるいは、一旦受け取った小刀を突き返す。
すると岡助は、浮橋の二の舞か?と呆れたので、おるいは、あなたにはわかりません、ただ私が仕損じましたら、千坂の殿様へ大石を見る目は殿様の勝ちでしたとお伝えくださいと言い、そのまま刀を持って去ろうとしたので、今の言葉は?と岡助が聞くと、お伝えになればわかりますとおるいは答える。
浮橋の部屋でうたた寝をしていた内蔵助の元に来たおるいは、浮様、位お茶を持って参じましたと御簾越しに声をかけるが、返事がないので、そのまま内蔵助の背後に近づき、小刀で突こうとするが、寝返りを打った内蔵助の手から手毬が転がり出て、浮、そのまりをとっておけと内蔵助が目を瞑ったまま言うので、はい、でもこの鞠は?と浮橋になりすましたおるいが答えると、末の娘のじゃ、どれ、茶をもらうとしようかと言いながら内蔵助は起き上がり、るい、そちは、この京の土地を江戸よりも良い所と良く言うておったの?と聞きながら茶碗を手に取ったので、おるいははいと答える。
茶を飲んだ内蔵助は、女の幸せというには良い夫を持って、可愛い子供に囲まれて暮らすことじゃ、るいにできるかな?としみじみと言うので、浮様におできになれば、るいとて手鞠の音が分かりましょうとおるいは答えるが、どうした?震えておるの?ああ、そろそろ出かけるとしようかと内蔵助は答える。
「一力」の店の前には力がかごを待たせて待機していた。
その様子を千坂の配下の浪人2人が様子を窺っていた。
部屋で待ち受けていた岡助は、しくじったな?と戻ってきたおるいに聞く。
おるいは黙って、預かった小刀を返そうとするが、それを掴んだ岡助が部屋から飛び出そうとするのを、あなたには、あなたには斬れません!と言いながら手を掴み、離そうとしなかった。
すると岡助は、俺は大石には惚れておらんと嫌味を言うと、いけません!犬死にするだけです、あなたの敵ではない、やめてくださいとおるいは制止するが、離せと突き放して岡助は飛び出してゆく。
「一力」の面では、出発した駕籠を追って、千坂の配下の浪人たちが姿を現すが、力を始め、待ち受けていた赤穂の元藩士たちによって、岡助もその場で斬り殺される。
力はかごにすでに乗っていた内蔵助の側に来ると、父上、やはり岡平にございますと伝え、内蔵助は、千坂兵部の差金じゃと答える。
「一力」の中には、内蔵助から譲り受けた手毬を手に持ったおるいが物思いに耽っていた。
江戸では上杉綱憲が、兵部、朝の大学にはやはり跡目相続のお許しが無かったのう、広い見せしめじゃと千坂に話していたが、私めには誠に遺憾のことと存じます、柳沢殿、もう少し分別をお持ちになられても宜しきと残念でありませんと兵部は答える。
そちが幕政に携わるとすればいかがいたす?と綱憲が聞くと、もとより一万石を持って差し許しますと兵部が答えると、本所父上の御身辺の危険も、それによって幾分緩和されると言うのか?と綱憲が問いただすと、それもございましょうが、内匠頭の事件は予想外に柳沢市政への反発となっておりますと兵部が答えたので、もう良い!父上の御身辺をよく守るようにと綱憲は機嫌を損じて命じる。
内蔵助は同志たちを集め、苦肉の策とは申せ、拙者の乱行の数々の浪費、何卒お許しを願いたいと謝罪していた。
何を仰られます、ご家族とあれほどまでにしてお別れになった御心中、お察し申し上げますと答えたのは赤垣源蔵(勝新太郎)だった。
各々方にも、骨肉と今生の別れをせねばならぬ日が迫っておる、今日よりは、この同志こそ兄弟ですぞと牟岐平右衛門が言い渡す。
それに引換え、これをご覧くださいと堀部安兵衛が取り出した血判状は、白紙が目立つもので、昨年、江戸においての太夫のご処置を罵ったことが残機に絶えませんと言う。
大学様、跡目請い許し差し止めと聞くや、72名何かと口実をつけては取り戻しに参りましたと牟岐が説明する。
それを聞いた内蔵助は、残りは47名か…と呟く。
力が、父上、かねて用意の討ち入りの道具、出して宜しゅうございますか?と内蔵助に聞くので、うんと答えると、開けいと力が命じ、部屋に用意してあった木箱の蓋を開けさせる。
内蔵助は同志たちの前で、舞を披露する。
早便によりますとこの通り、5班に分けて、江戸に下がって参りますが、最も多人数は太夫の一行ですと、岡野金右衛門が堀部弥兵衛に説明していた。
無事に着いてくれればよいがの~、どうじゃ岡野、吉良の守りは?と弥兵衛は案ずる。
はっ、幻獣を極めております、しかも吉良の邸内が改造され、その後の模様はわかりませんと岡野は答える。
う~ん、赤垣と勝田が見えんが?と弥兵衛が聞くと、その頃、赤垣は塩山伊左衛門(竜崎一郎)の家に行っており、塩山は、まき、そちは向こうへ行っておれと内儀を遠ざけようとしたので、また兄弟喧嘩ですか?とまき(朝雲照代)は呆れる。
赤垣は、いや、今日は大丈夫ですと快活に答えたので、マキは坐を外す。
源蔵、江戸の市民たちがなんと言ってるか知ってるか?赤穂の浪人らは腰抜けばかりと塩山が話し始めたので、兄上、もうその話はやめていただきたいですなと言いながら、盃を渡す。
どうしても本心を明かさんのか?と塩山は迫る。
いや本心も何も、第一、吉良が御主君に討たれたのであって仇討ちの理屈が立ちませんと赤垣は主張するので、おれは血肉を分けた兄弟だぞと塩山は睨みつける。
例え血肉を分けた兄弟でも、理屈の合わんことはやむを得んでしょうと赤垣は答える。
源蔵!貴様はそれでも200石の扶持を御主君からいただいた侍か!と言いながら塩山が体を押してきたので、兄上、いつになく狼藉をなさいますな?と赤垣が注意すると、黙れ!と塩山は余計に興奮したので、そうお怒りになるからお体に触るんですと赤垣が宥めると、ええい、今日限りそなたとは縁を切る!と塩山が言うので、驚きながらも赤垣は、やむを得ませんと答える。
それを聞いた塩山は、出ていけ!と玄関口を指さしたので、赤垣は、はあ、ご健勝で…、ごめんと言うと、お銚子を一本持ったまま帰って行く。
一方、勝田新左衛門(川崎敬三)は、実家に帰り、義父大竹重兵衛(志村喬)に、わしに会うたからと言って逃げることはないと言われ、手を掴んで屋敷内に連れ込まれながら、このような無様な形をしておりましたと無沙汰を詫びていた。
そこに姿を見てた妻八重(浦路洋子)も、まあ、貴方様!と勝田を見て驚く。
勝田を座敷に引っ張り込んだ重兵衛は、今どこにおる?と聞くと、相変わらずの老々の身とて+と勝田が答えると、さだめし浪士の方々は御苦労を重ねておられるであろう、立派でござる、新左、敵はいつ討つ?…と続け様に聞いてくる。
敵討ちなど、毛頭そのようなことなど考えてはおりませんと勝田が否定すると、何を言うか新左!そなたはわしが選んだ婿じゃ、この親父になぜ隠し事をする?わしはそなたの汚れた衣服を見るたびにこの通り礼を言うと重兵衛が頭を下げてきたので、父上、今日はこれにて失礼仕る!と勝田が帰ろうとするので、八重が、お待ちください、せめて子供に…と割り込んできたので、大事な話じゃ、退け!と娘を押し退けると、これ新左、何故隠す?この親父の死ぬ前に本心を教えてくれと重兵衛は勝田の手を掴んで迫る。
仇など、それはご無理というものです!と勝田は繰り返すと、何~!と激怒した重兵衛は、勝田を突き飛ばし、2度とこの敷居を跨ぐな!と勝田を追い払う。
「近藤家御用人 垣見五郎兵衛様御一行」と看板に書かれた本陣宿前
この看板、よもや偽りではあるまいな!と言いながら、数名連れの旅侍の1人が主人らしき男の首根っこを抑え追求していた。
そこに、おい、手荒なことは致すなと目上らしき侍が声をかけながら近づくが、その人物こそ、垣見五郎兵衛(二代目中村鴈治郎)本人だった。
しかしながらと、今主人を追求していた侍が垣見の名を書いた看板を指差す。
座敷内では、表の異変を察知した力が、大変なことが起こりましたと座敷で待機していた大石内蔵助に伝達したので、何!と内蔵助も驚く。
垣見五郎兵衛(二代目中村鴈治郎)が、わしが自ら検分しよう、案内しろと平伏した宿の者に命じる。
座敷では偽装がバレると察し、狼狽して立ち上が離、斬って捨てねば我々の大望が!と熱り立つ同志たちに、あ、待て、方々!それほどまで考えなき方々、待たれいと内蔵助が必死に押し留める。
斬れば、天下のお尋ね者、大望などと想いもよらぬぞ!と内蔵助が叱責すると、しかし太夫、今となっては絶体絶命!斬るより他に…と血気盛んな同志が詰め寄るので、待て!と内蔵助派生する。
そこに垣見一行が案内されてやって来る。
垣見は部下たちを廊下に残し、1人座敷に入る。
座敷内では、同志たちが別室に隠れる。
内蔵助と対峙した垣見五郎兵衛は、拙者は垣見五郎兵衛と申す者と自ら名乗る、故あってお尋ね申すが、貴殿がこの宿に垣見五郎兵衛と申さるるか?と問いただすと、さよう…と内蔵助が答えたので、何!と垣見は驚く。
隣の部屋では、力や同志たちが刀に手をかけ、2人の会話を聞いていた。
我らはご覧お通り、大切な御道具の輸送の途中…と内蔵助が説明すると、何、大切な御用!と垣見は驚木、その御用を承ろうと迫る。
この度、凛能院の宮ご慶次お祝いのため、この駅より御進物の品、お届け申す道中と内蔵助は堂々と答える。
しからば、あれなる長持の内、改め申すぞと言うや、垣見は立ち上がり、荷物を改め申そうと近づこうとしたので、待たれい!と止めた内蔵助、改めとは言葉がすぎるぞ!と叱責すると、う~ん、何を申す!と垣見の方も興奮しだす。
隣室の同志たちの緊迫した動きを察する垣見だったが、突然、我が名を騙って現れ、当方を偽物扱いするからには仔細があろう、その訳を承りましょうと内蔵助が言うので、これは慮外な、偽物は拙者だと申すのか?と垣見が問いただすと、近衛家の用人垣見五郎兵衛、2人はござらん!と内蔵助は動じなかった。
ならば尋ねる、まことに貴殿が垣見五郎兵衛ならば、近衛家の道中手形を持っているはず、どうじゃ?手元にあるかな?拝見いたそうと、改めて座った垣見が言う。
すると内蔵助は、手形がなくて道中ができようか…と目を合わさず答えたので、ならば一応拝見いたそう、さ、どうじゃ?出されい!と垣見が迫るので、御念の入ったこと…と言いながら、内蔵助は袂から巻物を取り出し、とくとご覧あれと披露する。
それは、浅野家の家紋の入った布に包んだ刀だったので、それを見た垣見は、浅野!と呟いたので、内蔵助は緊張する。
障子が開いて、廊下にいた部下たちが覗き込んだことに気づいた垣見は、無礼者!出い!と叱ったので、家来は恐縮して障子を閉める。
まごうことなき近衛家の恩手形…、不遜にもお名前を騙りましたる段、ひらに、ひらに!お許しくださりますように…と垣見は謝罪してきたので、内蔵助も動揺するが、いやいや、よくよくのご事情があってのことと、重々お察しもうす、武士は相身互い…、落ちぶれてこそ、人の情けはありがたいもの…と答え、垣見の顔を見る。
この上はせめてもの罪滅ぼし、これは手前が偽造いたしましたる近衛家の御手形、何卒お納めくださりまするようにと言いながら、垣見は自分の手形を内蔵助に手渡す。
垣見殿!と感激した内蔵助に、心置きなく御道中、めでたく、この度の御用をお勤めなさるよう、心からお祈り申し上げまするぞと垣見は告げる。
感無量の内蔵助を前に、ごめんと言って立ち上がった垣見は部屋を出て行ったので、隣室で警戒していた同志たちは安堵する。
内蔵助も、涙ながらに立ち去る垣見に首を垂れる。
岡平は殺されたと申すか?と江戸に戻ったおるいから聞く兵部に、はい、間違いなく斬られたものと思いますとおるいは答える。
なるほど…、岡平からは、9月10日の頼りが最後じゃと兵部は言う。
その日が山岡様の殺された夜です、その一時前に、るいが殺されるところでございました、私は御家老に大石の見方について負けたとお言伝を頼みました、その私が生き残り、山岡様が死にましたと、おるいは説明する。
大石はその後どうしておる?と兵部が聞くと、山科の仮住まいを払った後は、皆目行方がわかりません、てっきり江戸だと思い、旅を急いで追いかけて参りましたが、それらしいものは見当たりませんでしたとおるいは言う。
そちより早くは江戸に入るまいと兵部は推測し、そちの見た目で、大石の気持ちは仇を討つか?山岡の手紙には討つ意思はなかろうと書いてある、そちは討つ意思がありと書いてよこしたのう?と兵部は聞く。
すると急におるいが泣き出したので、どうした?伊達者の大石に心を捉えられたのか?と兵部が指摘すると、御家老様が山岡様と同じことを仰られますと哀しそうにおるいが言うので、いやいや、今のは戯れとしておけと兵部は苦笑しながら慌てて言い訳する。
涙ながらにおるいは、たった一つだけ…、これだけは間違いのないことを大石から受け取りましたと言うので、何じゃ?と聞くと、大石は3月14日に死んでおりますと打ち明ける。
死んでおる…と兵部が繰り返すと、何か一つの目的のために、それでなければ女と酒ばかりの中で、どうしてあの澄んだ目と姿を保つことができましょうか?恐ろしいほど美しい姿でしたとおるいは打ち明ける。
兵部はその言葉を聞き、るい、よくそこまで見極めたと褒める。
私はこれでお暇をいただきとう…とおるいが感極まって言い出すと、ならん、ならんと兵部は拒否する。
もし大石と同じ目的に人があるとすれば、おそらくはその方も、あの目と姿を持っていると思いますとおるいは付け加える。
るい、そなたは明日より、吉良殿の屋敷へ行ってくれと兵部は頼む。
私が吉良様のお屋敷ですって?とおるいは驚く。
そなたより他に、赤穂からの間者を見極めるものはないと兵部は指摘するが、おるいは、お許しくださいませと頭を下げる。
岡野が米問屋の暖簾を潜って外の様子を見ている中、さあ上がれと出迎えた堀部安兵衛から声をかけられた旅人姿の男に、神崎!と階段を上がってきた前原伊助(伊沢一郎)も声をかけてきたので、前原!と二階の部屋前で町人姿の元赤穂藩士神崎与五郎(舟木洋一)は再会を喜ぶ。
よく無事で着かれたな、良くこんな吉良邸と目と鼻の先に店があったもんだ、御苦心お察しもうす、それにしても岡野の番頭ぶりにも全く感心致した…と神崎は感激したように語りかける。
残るは太夫の組だけだと、それもおっつけ参られると思うと安兵衛が神崎に教え、さあと部屋に案内する。
その頃、吉良邸の前に店を開いていた蕎麦屋の主人にべけた杉野十平次(伊達三郎)が、どこを見ているんだ!と吉良邸の侍に首筋を掴まれ、旦那、あっしは何もそんな…と言い訳していた。
どこの生まれだ!と聞かれた杉野は、江戸でございます、江戸!と答えていたが信用されなかった。
そんな騒ぎに気づいた堀部安兵衛は、表が少しおかしいようだと仲間に知らせる。
窓を少し開け外を見た神崎が、夜泣き蕎麦屋だと言うので、見てくると前原伊助が飛び出してゆく。
お待ちくださいませ、こいつは私の弟みたいな奴で、ご勘弁くださいとイスけが詫びると、お前は何だ?と聞かれたので、こお前で商いをやっております米問屋の弥兵衛と言うもので、お許しくださいと伊助が詫びると、この男を引き受けると言うのか?と吉良の用心棒が聞くので、へえと伊助が答えると、この男の二の腕に間違いがあったら、貴様の店を立退にさせるぞと脅してきたので、どうぞ決してさようなことは…、良し、早う行けと門前から2人とも追い払われる。
ありがとうございます、どうも申し訳ございませんと謝りながら、
米問屋の2階では、なんとかして改造した吉良屋敷の図面を手に入れたいんだと安兵衛が神崎に話していたが、そこに戻ってきた伊助が、杉野が危うく吉良の館に連れ込まれるところだったと報告する。
杉野はうどん屋になっているのだと安兵衛が神崎に教えると、そうかと神崎は驚く。
そこに、出前を持ってきた杉野が上がってきたので、神崎は駆け寄り、杉野!貴様が殴られるところを見てたぞと言いながら再会に咽び泣く。
よく無事についてくれたな、まあ、とにかくわしのうどんでも食ってくれと杉野は勧める。
米問屋にこんばんわとやってきたのは、大工の娘・お鈴(若尾文子)で、岡野は、ああ、いらっしゃいと愛想よく出迎える。
吉良が折れちゃって…、どれにしようかしらとお鈴は串の種類を迷い始める。
お鈴さんのですか?と岡野が聞くと頷くので、う~っと、こんなのいかがでか?と岡野が選んだものを見せると、いやよ、こんな子供っぽいのとお鈴は拒否する。
されじゃあ…と岡野が別のを探し始めると、ねえ、金さん、今晩1人なの?とお鈴は突然聞いてくる。
ええと答えると、今何してた?とお鈴は重ねて聞いてくる。
いいえ、別に…と岡野が答えると、金さんはここでこうやってず~っと暮らすつもり?とお鈴が聞くので、ええ、まあ、そのつもりですけど…と岡野が答えると、そう…、ああ、そうすりゃ嬉しいわ、だってそうすりゃこうして毎日会えるもの…などとお鈴が言うので、あの~、串は?と岡野は聞き返す。
2階から降りてきた伊助は、岡野が娘の相手をしていたので行き場を失う。
ねえ、金さんの在所はどちら?とお鈴が聞くので、国ですか?国は…と岡野が考えていると、西でしょう?ええ、まあ、西と言えば西ですけど…と誤魔化すと、当たった!私、金さんおことだったらなんでもわかるのよとお鈴ははしゃぎだす。
何でも?と岡野が驚くと、硬くて真面目で心に大きな望みを持ってることや、当たった?いつまでも人に使われてないで、いつかお店を持とうとかとお鈴は自分の考えを披露するので、なんでもよくわかりますねと岡野は調子を合わせる。
本当によくわかるでしょう?と言いながら、お鈴は岡野の手を取ったので、2人は一瞬気まずい雰囲気になる。
2階に上がってきた伊助が、あれではいかんと嘆いたので、どうした?と安兵衛が聞くと、堀部、俺は岡野を見るたびに言ってるんだが、お前からも言ってくれと伊助は頼む。
そこに上がってきた岡野は、神崎!と呼びかけてきたので、岡野!と神崎も喜び、よく無事に来られたな~と岡野は感激する。
おい岡野、貴公は鈴さんからまだ絵図面をもらってないのか?今、手に入れられなければ取り返しのつかぬことになると安兵衛が聞く。
岡野は、わかってます、あの娘は貴公に思いこがれてるのだ、貴公の出方一つであの絵図面は手に入るのだと安兵衛は説得する。
しかし岡野は、堀部、わしは女を騙すことはできんと即答する。
しかし、改造した吉良の絵図面はどうしても必要なんだと安兵衛は訴え、伊助も、あんなにお前を好いているではないか、大事の前の少事!大石様を見ろ、あの苦しみに耐えてこられたではないかと言葉を添える。
女を騙して…、俺にはどうしてもできんという岡野の言葉を聞いていた神崎が、表の気配を感じ、窓を開けて外を見ると、吉良の屋敷に駕籠が入るぞ!と言う。
吉良屋敷に来たのは息子の上杉綱憲と千坂兵部で、父上、御元気で何よりですと綱憲が挨拶する。
歳をとるとだんだん寒さが身に答えてきての、早いものでもう11月じゃと吉良は答える。
岡野、大石様の山科の別れは、側で見る目も涙だったぞと神崎が教える。
それで絵も岡野は、神崎、生娘の恋心を踏み躙ってまで俺は…、もう言わないでくれと答える。
吉良の前で兵部は、どうやら大石が江戸に入ったように思われますと報告する。
大石?ああ、赤穂の城代家老大石か?と吉良はすでに関心が薄れたように答える。
はあ…と兵部が答えると、そのような奴に怯えることもなかろうと吉良は吐き捨てる。
兵部、警戒は厳にしておけよと綱憲が指示したので、はっ、もとより!主だった赤穂の浪人どもにも見張りはつけてありますと兵部は答える。
その頃、堀部の家の前にやってきた浪人者を、門から飛び出した弥兵衛が捕まえ、待て!この堀部の家に何の用がある?と聞く。
侍は、ここは通りでござろう?としらばっくれるので、通りにしても朝から行ったり来たり、一体、今、何時だと思う?用があるなら入れ!というと、弥兵衛は浪人ものを屋敷に引き入れようとするが、浪人は抵抗する。
江戸
これで野党や右衛門七を除いて46名、全部江戸に着きましたと安兵衛が内蔵助に報告していた。
これほど太夫のご安着が一同の意気を上げるとは想像できませんでしたと聞いた内蔵助は、吉良の屋敷の模様は?と聞き返す。
その後だいぶん改築したようで、邸内奥の様子は未だわかりませんと安兵衛が答える。
警護の様子は?と内蔵助が確認すると、上杉家からの相当の剣客、10名ほど寝ずの番をしております、その中には清水一角、小林平八郎、和久半太夫などなる者がおりますと吉田忠左衛門が報告する。
拙者の家の前も吉良の患者がウロウロしておりましての、昨年太夫のおっしゃられた通り、瑤泉院様お屋敷も危のうございまするぞと弥兵衛が答える。
父上の江戸に入られたことは?と力が聞くと、吉良方ではまだ気が付いておりますないと思いますが、江戸の市民たちはようやく赤穂浪士のことを腰抜けだと罵り出し、顔見知りの私などは犬侍だなどと言っておりますと安兵衛が悔しげに言う。
金子は?と内蔵助が聞くと、なんとか繋いでおりますが…と伊助が答えると、もはやお互いの間の不和、秘密の漏れは?と内蔵助が聞いたので、その点、一度命を賭けての誓い、全体ご心配ご無用ですと赤垣源蔵が答える。
帰するところ、討入までに我々がどうしてもしておかなければならんことは、吉良家の絵図面を手に入れることです、それから吉良自身の顔をみしっておくことですと弥兵衛が指摘する。
吉良自身の顔を見知っておるものは、我々同志の中には1人もおりませんからの~と弥兵衛が案ずると、おいよ、吉良の顔なればこの内蔵助が存じておると答える。
それを聞いた同志たちは、太夫が!と驚くが、奇しくも3年前、先君のお供をして二条城に参った時、幕府のお使いとして、その姿も烏帽子代も未だにこの目に残っておると内蔵助は言う。
四十七名中、太夫1人がお知りになっているとは、誠に不思議なことでございますと赤垣が言う。
これだけの員数が江戸におっては、何かのことについて気づかれると思います、もはや悠長なことはできません、何卒今年いっぱいのうちにと弥兵衛が願い出ると、右衛門七が母を背負って旅に間に合ってくれると良いと思いますと力が指摘する。
その右衛門七は母を前に、母上、申し訳ございませんが、もう売るものとてございませんと伝えると、そなたに絆されて私は江戸のいでるのではなかったんです、ここへ母を置いて、そなた1人が少しも早う、母は…と言うので、母上、つまらぬご労苦おやめくださいと右衛門七は止める。
何を言うのです、死ぬ事は易い、それではそなたに迷惑がかかりますと母は言う。
困り抜いたよもし血は刀を持って出かけようとするので、どこに行くのです?と母が止めると、まだ刀が残っておりますと右衛門七が売るつもりで言うと、右衛門七、そなた、そなた無腰になるつもりですか?この一振りはお父上の形見ですよ、今のうちにここを逃れてください、あとは母がなんとでもします、このお金があれば一日くらいの上は凌げるでしょうと、母は懐から僅かな金を出して右衛門七に手渡す。
申し訳ございません、母上、ご無事で!江戸の住まいが定りますれば必ずお迎えに参じますと涙ながらに右衛門七は言うと、右衛門七、よく今日まで胸に秘めた大事をこの母にも言わずにいましたねと母は称賛し、母は今生の別れと思っておりますと伝えたので、ええ!と右衛門七は驚く。
早う、お行き…、早う、お行き、行かぬか!と母は自らの心を殺して急かすので、右衛門七は、母上!と突っ伏して泣き崩れる。
おるい!と屋敷で読んだ兵部は、今日こそ、大石が江戸へ出ておるかがわかるのじゃと愉快そうに笑うので、と申しますと?とおるいが聞くと、赤穂浪人どもは吉良様を御当家国元の米沢へ御匿い申すことを最も忘れておると兵部は指摘する。
吉良の殿様が米沢へ御出になるためには御上のお許しがいりましょう?とおるいが言うと、もとよりそうじゃ、吉良家出入りの者たちに、吉良様米沢へお移りと触れさせたのじゃと兵部は教える。
その偽行列に赤穂の浪人たちを斬り込ませるお考えですか?とおるいが聞くと、うん、そうじゃ!と兵部は答え、愉快そうに高笑いする。
しかし、おるいが怪訝そうな顔になったので、浮かぬ顔をしておるな?鹿を救うためにはやむを得ぬことじゃと兵部は言う。
どこから上野が米沢へ行くと言う噂が出た?と、同志たちの集まりで、吉田忠左衛門が問いただすと、吉良家出入りの商人からです、しかも出発は今日と言うことですと安兵衛が答える。
万一これが事実とすれば、今日をおいては吉良を討つことはもはやできなくなりますと伊助も内蔵助に進言する。
太夫!と安兵衛も内蔵助に決断を迫る。
千坂の屋敷では、大石以下江戸に居れば必ず行列を狙うに違いない、米沢までは足が伸びると兵部がおるいに話していた。
それに対し、おるいは、御家老様、それは浅はかなお考えでございます、もし大石が江戸にいたとしても、そのような策に乗ってむざむざと犬死にするはずがございませんと言い返したので、その方、そこまで大石を買うのか?と兵部は驚く。
内蔵助は、贅沢に慣れた年寄りが、そう易々と雪国へ行くはずがないと推理していた。
しかしながらこれが命の安否に関わるとなれば別でございましょうと原惣右衛門(葛木香一)が反論する。
原殿、貴公までがそう思われますか?と内蔵助が聞くと、太夫、それでも千坂の策だと申されるのですか?と安兵衛が迫った時、下から前原伊助が階段を駆け上がってきて、吉良の行列が、吉良の行列がただいま門を出ましたと内蔵助に報告したので、集まった同志たちは動揺する。
太夫、どうなされる?と吉田が聞き、安兵衛も太夫!と迫り、がなんできなくなった弥兵衛が、一刻の猶予もならん、ごめん!と言うと刀を手に立ち上がろうとする。
同志たちが階段を降り始めると、方々、待たれい!と呼び止めた内蔵助は、今更待てとは何事でござる!と息巻く堀部弥兵衛や他の同志に対し、軽挙は慎め!と叱りつける。
そんな中、清水一角ら用心棒たちは、籠の行列に帯同しながら、襲撃を警戒していた。
千坂の屋敷にいた兵部は、気になる、気になる、るいの言うことが誠か、わしの言うことが誠かと迷い、参れ!とるいに命じ、出かけていた。
町人に紛れて吉良の駕籠の合列を見守っていた赤穂の同志たちも緊張していた。
深編笠姿で観察していた内蔵助が、空駕籠だな…と気づく。
おるいを従え、行列を待ち構えていた兵部がどうじゃ?と聞くと、駆け寄った一角が何事もありませんと報告する。
おるいは得意そうに微笑みながら駕籠の行列の背後に目をやると、編笠の浪人を見つけ、あっ!と驚いた顔になったので、大石か?と兵部が聞くと、清水、あの男をつけろ!っ場合によっては斬れ!と命じたので、おるいは驚くが、一角は配下の者たちとともに編笠の浪人を囲み、待て!と言うなり抜刀する。
振る舞いと承知の上か?と編笠の浪人は言うが、問答無用で一角の家来たちが斬りかかる。
編笠の浪人は扇子で応戦していたが、野次馬たちに紛れていた杉野十平次たちは、手助けしようもなかった。
孤軍奮闘する編笠姿の内蔵助だったが、吉良様の家来だ!と野次馬の中から声が上がったので、一角たちはやむなく退散して行く。
内蔵助は、自分に駆け寄ろうとする同志たちに、わざと声を上げて威嚇しながら近寄らせまいとする。
千坂の屋敷に戻った兵部は、おるいと一角を前に、敵を討つ所存に違いない、吉良様外出を極力避け、間者の究明を怠るなと命じる。
銭湯の湯船の中では、バカにしてやがらあ、俺はこないだ吉良の屋敷で赤穂の間者と間違えられてよ、何とかって侍に嫌ってほど突き飛ばされてこの有様だと、額のタンコブを指しながら町人金太(潮万太郎)が他の入浴者に愚痴をこぼしていた。
そういやあよ、去年はね、赤穂の浪人が吉良の屋敷仇討ちするって評判だったけど、なんのことはねえやと町人源吉(坊屋三郎)も呆れたように話し出す。
大石内蔵助って大した野郎だって聞いてたが、これじゃ大石じゃなく軽石だよ、だらしがねえやと金太は言う。
赤穂は5万3千石、侍はたくさんいるが、主人になりたいってやつは1人もいねえ、情けなかったよ、赤の他人の俺たちだってその気持ちはちゃんと思ってるんだけどなと町人松造(月田昌也)も話に加わる。
だけどよ、門の前をちょっとうろうろしただけでも張り飛ばされてこの体たらくだとまた金太が嘆いてみせ、赤穂の連中も手が出ねえのかも知れねえなと言うので、だけどよ、誰か仇を打つやつはいねえもんかな?と悔しがると、おる!余人は知らず、1人でも仇討ちやったやつはおるぞ!と振り向いて怒鳴ってきたのは、先ほどから後ろ向きで湯船に浸かっていた大竹重兵衛だった。
大石内蔵助ですか?と金助が揶揄うように聞き、倅の力ですかい?と源吉が聞き、堀部安兵衛ですかい?しかし奴は運が落ちましたねと松造が聞くと、違う、違うと重兵衛が言うのでじゃあ、あっしのこの昆布の仇を討つやつは誰ですと金太が聞くと、勝田新左衛門!と重兵衛が答えたので、源吉は笑い出し、そんなやつは聞いたことないよとバカにする。
すると重兵衛は、バカもん!勝田はわしの娘を遣わした婿じゃと重兵衛が言い返したので、その婿さんって言うのは一体どこにいるんです?と金太が聞くと、お前のとこの長屋におると重兵衛が教えたので、あっしの長屋?そんな…、あ!、あ~、あの汚ねえ乞食みてえな侍!と金太が笑いだすと、馬鹿者!乞食とは何だ、乞食とは!と重兵衛は怒り出す。
あんな弱々しい奴…と金太が嘲ると、見とれ、勝田は必ず仇を取る!と重兵衛が言い返す湯船の騒ぎを、着替え室で聞いたのがその勝田で、いたたまれなくなり、なりすぐさま立ち去る。
上野を上杉家に引き取ることは余も賛成じゃが、ここしばらく折を見ねばなるまいと柳沢出羽守が話していたので、その理由と申しますのは?と訪問した千坂兵部が聞くと、上様にお目にかかりし際、誰の入れ知恵か内匠頭に切腹を命じ、5万3千石を取り消したは早まったこと、赤穂の浪人どもは今どうしておるかなどとお話があっての、その挙句、このわしにまでご忠告があったと出羽守は明かす。
何と仰られましたか?と客が聞くと、上様の名を使って勝手な真似をするなと出羽守が教えたので、多門伝八郎が大目付始め御老中をそそのかしたのではございますまいか?と兵部は推測する。
うん、あの男をお役御免にしたいとは思うが、どこか底光のする奴での、いずれにしてもこの願いは今はダメじゃと出羽守は言う。
その頃、役所にいた多門伝八郎は、元はその経過し住居証書…、これは何じゃ?と書状を見て聞く。
町方奉行所より、赤穂浪人の動き探査の伺い署で…と部下の同心が答えると、捨ておけと命じたので、しかしながら!と同心は抵抗するが、捨ておけと言うのじゃ、不穏の動きも見えんのに何を取り締まると言うのじゃ?千坂あたりがうろうろと街方に取り入ってのことだろうと多門は声を荒げる。
赤穂の同志たちの会合では、決行の日まで今日の会合を持って最後としますと吉田が挨拶する。
内入は何日でござるか?と岡野が聞くと、10日以内、吉良の在宅を確かめた上でと内蔵助は答え、確定の上は各自分担の職に合わせ直ちに知らせる、その日まで役目以外の者は外出せぬことと安兵衛が伝える。
事の成就がなるかならぬかの瀬戸際、命に賭けて秘密を守っていただきたいと伊助が同志たちに依頼する。
そんな中、右衛門七がとうとう見えませんと力が伝えるが、その直後、皆様、遅れて申し訳ありませんと当の右衛門七が姿を見せたので、右衛門七、良く来た!10日以内に討ち入りだと力が教える。
今日はどこから来たのか?と力が聞くと、神奈川の宿から駆け続けて参りましたと与茂七が答えたので、母上はどうした?と内蔵助が聞くと、宿賃が払えず、母はそのまま神奈川の宿へ人質として止まっていただきましたと右衛門七は打ち明ける。
内蔵助もその言葉に同情するが、岡野は前に出ると、右衛門七、討ち入りまでに必ず母に合わせてやるぞと言葉をかけると、別れはすでにすみました、母も覚悟の上の事、決してご心配なさらないでくださいと右衛門七が言うので、岡野、これはわしの母上の形見じゃが、これを是非右衛門七の母に届けてやってくれぬか?と内蔵助は自分が来ていた羽織を脱いで、それに懐から出した財布を添えて頼む。
その温情を見て右衛門七は泣き崩れ、岡野は、太夫、絵図面は必ずもらって参りますと約束する。
岡野はその後の夜、お鈴を屋形船に誘い、2人きりになる。
お鈴は嬉しそうに、話があるってどんな話?ねえ、早く聞かせて!とねだってくる。
ええ、今話します、おすずさん、私はお鈴さんに欲しいものがあると岡野は打ち明けると、欲しいものって何?何でもあげる、ね、何?とお鈴は無邪気に答える。
お鈴さん、吉良の屋敷の絵図面を見せて欲しいと岡野が打ち明けると、何ですって!とお鈴は驚いたので、見るだけだ、見たら時期に返すと岡野は言う。
絵図面を?と戸惑うお鈴に、この通りだ、頼む!と岡野は頭を下げる。
あの絵図面はそんに威欲しがるの?あんたも視野…ととお鈴は岡野の正体に気づき始める。
おすずさん、返事は?聞いて…、聞いてくれますか?くれませんか?と岡野は迫る。
金さん、その前に私にも聞きたいことはありますとお鈴は言うので、何を?と岡野が聞くと、金さん!とお鈴は呼びかけ、あんた私を、少しでも好いてくれるんですか?それとも絵図面を手に入れる方便にだけ私を使うんですか?と問い詰める。
そんな…と岡野が戸惑うと、どっち?言ってちょうだい、どっちなの?とお鈴は迫る。
追い詰められた岡野は、好きだ…、この世で一番好きだと答えてしまう。
本当?本当なのね?としな誰か買ってきたお鈴に、好きでなければ今日まで悩みはしない、私もお鈴さんが好きだ、好きだからこそ、こんなに…と岡野は語りかけるが、もう何も言わないで、それだけ聞けば私は嬉しい…と言いながらお鈴は岡野の胸に抱きつき、私は本望、金さん…と夢中になるが、岡野の目は虚だった。
お鈴は自宅に戻ると、「本所松坂町 吉良様屋敷図面」を探し出し、懐に入れて持ち出そうとした時、父の大工・政五郎(見明凡太朗)にばったり出会したので、あら、お父っあん、2階で休んでたんじゃなかったのと驚く。
すれ違おうとした時、お鈴の手を掴んだ政五郎は、洋箪笥から何を持ち出したんだ?と聞く。
お金よとお鈴が答えると、嘘つけ!金に不自由さした事ねえぞ、見せろ!と政五郎は迫る。
手を引っ張ろうとする政五郎に、いや、いや、後生だから堪忍して!とお鈴は泣きつく。
出せ!出せ!とお鈴を押した政五郎は、家人たちが何事かと様子を見にきたので、何でもねえ、2回へ上がって引っ込んでろ!立ち聞きなんかしたら承知しねえぞ!と叱りつける。
お鈴が袂から取り出した絵図面を奪い取った政五郎は、それを見て驚き、お鈴を睨みつける。
岡野は、お鈴との打ち合わせの裏木戸で、不安げに待ち構えていた。
お鈴は罪の大きさに気づき、許して!と言うと泣き出す。
おめえ、男の正体を知ってるのか?誰だかわかってるか?と政五郎は聞く。
はいとお鈴がな見ながら答えると、損保手に絵図面を渡してやり、名前は聞いたか?と政五郎は確認する。
いいえとお鈴が答えると、早く行ってこい!と政五郎はお鈴の体を押しやる。
家の裏から出てきたお鈴は、絵図面を岡野の懐に急いで押し込むと、そのまま無言で抱きつく。
ありがとう鈴ちゃん、心に決めた妻だと岡野はお鈴の方に手を回して優しく礼を言い、だけど、これが一生の別れだと言い聞かす。
せめて、目責め、本当のお名前聞かせてとお鈴が頼むので、頷いた岡野は、実は…と言いかけた時、お鈴!余計なことを尋ねるんじゃねえ!と裏木戸の内側から叱る政五郎の声が聞こえてくる。
政五郎さん!と岡野が呼びかけると、俺は吉良様のお出入りだよ、金さん、この世の名前なんかどうでも良うがす、どうせ、儚い縁の2人なんだ、その代わり、来世ではきっと添い遂げてやっておくんなさい、お願いしますよと政五郎が兵を挟んで頼むと、心得ましたと言う岡野の返事が聞こえる。
きっとだね?と政五郎が念を押すので、はいと岡野が答えると、ありがとう、人目につかないうちに早く行きなさいと政五郎は言葉をかける。
はっと答えた岡野は、お鈴ちゃんと呼びかけ、お鈴は金さんと呼びかけながら、2人は離れてゆく。
来世は…、来世はきっとだと岡野は言い残して去る。
その姿を見送ったお鈴は、裏木戸から中に入り、そこに立っていた政五郎のむねに、お父っあんと言いながら飛びつき泣き出す。
清水一鶴はおるいと一緒に外出していた。
大野の後ろ姿を見かけた一角は、待て!何をうろうろしているか?貴様!と詰問したので、振り向いた岡野は、ええ、私は今、友達の所に行こうと思いまして、えっして怪しいもんじゃございません…と冷静に答える。
嘘言え、貴様はただの町人ではないな?と一角が怪しんだので、いえ、とんでもございません、私は小間物屋の…と言い訳するが、やった物を見せろ!と一角が岡野の懐に手を伸ばしたので、何も持っちゃおりません、この通りでございますと岡野は主張するが、バカ言うな!と怒鳴った一角は岡野の顔を張り倒す。
倒れ込んだ岡野を引っ張り起こした一角は、貴様、ことによったら赤穂の回しもんだな?と岡野の胸ぐらを掴んだまま問い詰める。
何をご無体な、私はさようなものではございませんと岡野は否定するが、だまれ!と一角は威嚇し、おるい殿と呼びかけるが、おるいは屋敷の中に入ってしまったので、おるい殿と呼びかけながら手を離した一角は、岡野が離れていくので、貴様、逃げるか!と迫ってくる。
旦那、あっしは本当に怪しいもんじゃございませんと岡野は必死に弁解する。
何?白状せいと言いながら、岡野をまた投げつけるが、白状せいと言われましても、本当に何も知りませんと岡野は否定し続ける。
再び岡野を路上に突き倒し、足蹴にした一角だったが、岡野は、何卒、何卒お許しくださいと口から血を出しながら怖がる素振りを見せる。
立て!と一角は明治、やし金地連れ込もうとするが、そこに駆けつけてきたのがお鈴で、金さんは私の夫になる人です、勘違いなさらないでくださいといながら、一角に縋り付く。
一角は驚き、お前の亭主かと言うと、おすずがハイと頷いたので、こんなところでウロウロするな!と岡野を怒鳴りつけ、屋敷に戻っていく。
お鈴は、金さんと言って岡野の手をとると、その場から離れるが、悄然とした岡野は、お鈴ちゃん、ありがとうと礼を言う。
お鈴は首を横に振り、良く良く我慢してくれたとお鈴は岡野に感謝し、岡野の口の血を袖口で拭ってやる。
兵部からの紹介状を出して吉良に接近したおるいは、その紹介状を読んだ吉良から、そちは茶を嗜むかと問われ、ほんの少しばかり…と答える。
誹諧はどうじゃ?と聞かれると、不躾にござりまするとおるい答える。
すると、14日に参らぬか、なかなか匂うぞと吉良が言うので、ない、ご用もござりますれば、これで失礼致しますとおるいは暇乞いをする。
一方、岡野が持ち込んだ吉良邸の絵図面を見た赤垣源蔵は、これさえあれば千人力だ!と喜び、岡野良くやってくれたと感謝するが、岡野の右手に巻かれた包帯に気づいた内蔵助が、うん?その傷はどうした?と気づく。
いえ、義のため、お鈴さんも、そなたの気持ちを許してくれるであろうと吉田が話しかけると、何を言われまするか、鈴はわたしのつまです、妻が夫のために尽くすのは当然のこと…と岡野は言い返したので、その場にいた者たちは驚く。
そも言葉を聞いて微笑んだ内蔵助は、この内蔵助が仲人をした時の引き出物じゃと言いながら印籠を差し出したので、岡野は感激しながら受け取る。
吉良の屋敷では、出入りの植木職人らが捕まり、貴様、これでも口を割らんか、赤穂の回し者!と罵倒しながら、一角の子分たちに傷めけられていた。
全く見に覚えのないことでございますと、拷問された職人たちは叫ぶだけだった。
屋敷内を歩いていたおるいは、そんな情け容赦ない吉良側の残虐ぶりを見て顔を顰め、その場にいた一角に、罪もないこの方たちをなぜこのような酷い目に遭わせるのでしょうか?とおるいは聞くが、山岡が殺された、あいつと俺とは幼馴染だった、相手はあくまでも仇だと一角は言う。
山岡様はご自分…とおるいは言いかけるが、あまりに大きな拷問の叫び声にかき消されてしまう。
しかし大石の宿が分かって何よりだった、大石が宿にいたら連れ出してもらおうと一角はおるいに頼む。
おるいの表情は強張っていた。
その後、一角と共に屋敷を出たおるいも終始俯きがちだった。
宿の縁側で書状を読んでいた内蔵助に、女中が、垣見様、お客様でございますと知らせに来たので、何気なく振り向いた途端、読んでいた書状を後ろ手で隠すと、おお、るい殿…と気づく。
正座したおるいは、しばらくでございましたと挨拶したので、千坂殿の御用向きは?と油断なく睨みつけながら内蔵助が聞く。
宿の外には清水一角が待ち構えていた。
あなた様の居所を確かめ、仇討ちの証拠を集めよとのことでございますと打ち明ける。
あの折、そなたは、懐剣を背後に隠したの?と「一力」での暗殺未遂のことを聞くと、貴方様は今何か、後ろへ隠しておいでですね?とおるいも言い返す。
刀に賭けても受け取るか?と内蔵助が聞くと、窓側の障子を閉め、その場に正座したおるいは、あなた様はじめ皆様が、命を賭してお発ちになったその美しさが、私の胸にひしひしと響いてまいりますと言いながら泣き出す。
何と言う尊いお姿でしょう、それに引き換え上杉様、吉良様の醜いほどのお振舞い、いつまで続く物でございましょう、私もそのうちの1人でした…とおるいは涙ながらに訴える。
外では一角が、おるいと内蔵助が外に出てくるのが遅すぎるのに苛立っていた。
私は、貴方様の尊さに触れ、つくづく犬が嫌になりましたとおるいは自分の身分を明かすと、証拠の品もお荷物も、お身体でさえ、ここでは危のうございますと泣きながら忠告する。
吉良様は今年いっぱい御在府、14日は茶湯の会とて、屋敷の者どもは酒宴にござりますとおるいは教える。
それを聞いた内蔵助は、るい殿、そなた死ぬ気か?と問いかける。
いいえ、死ぬる気なら、貴方様に斬りつけ、斬りつけて殺されますとおるいは答える。
それを聞き安堵した内蔵助は、おお、そなた、あの鞠はどうした?と聞くと、捨てましたとおるいは答え他ので、捨てた?と内蔵助は怪訝そうな表情になる。
立ち上がったおるいは、障子どのところで振り返り、何卒御本望を遂げ遊ばすようにと頭を下げると帰ってゆく。
外で待っていた一角は、近づいてきた大高源五に、赤穂の浪人だな?大石の所へ行くのか?と問いかける。
源五は、何を?何を人違い!というが、黙れ!と一角は一喝する。
源五が逃げようとしたので、待て!問いかけ、刀を抜いてゆく手を塞いだので、源五も抜刀した対峙する。
2人が斬り結んだ時、宿から出てきたおるいがその斬り合いに気づき、源五を庇うようにおやめくださいと前に立ち塞がるが、勢い余った一角の刃に斬られてしまう。
一角は驚き、るい殿、るい殿と呼びかけながら、おるいの体を抱き止めるが、その間、源五は逃げ去ってしまう。
騒ぎに気づいた内蔵助も、縁側に出て外の様子を見やる。
そこに今逃げてきた源五が来たので、今表で女に出会わなかったかと内蔵助が聞くと、何者かがわからぬ女が私を庇って、只今清水に斬られましたと言うので、何!と驚いた内蔵助は刀を持って出て行こうとしたので、太夫、14日の吉良の屋敷の茶の会間違いございませんと、それを止めた源五は報告する。
一角は、るい殿!と死にかけたおるいを呼びかけていたが、宿でも内蔵助が、るい殿!礼を言うぞ…と、茶会の情報の正確さへの感謝を口走っていた。
一角は、おのれ大石め…と悔しがるが、死にかけたおるいは、大石はどこを探してもいません、一時前、宿替え…と言いながら息絶える。
一角は、倒れたおるいに、るい殿!と呼びかける。
宿では源五の前で刀の鞘を畳に立てた内蔵助が、14日に決行すると決意する。
雪が降り頻る14日
杉!杉!と呼ばれて出てきた塩山家の下女お杉(若松和子)が、あら、源蔵様と驚くと、知らせに奥へ向かったので、おい、どこ行くんだ、ほら待て!と赤垣源蔵は呼び止める。
お杉、お客様かい?と塩山の妻まきが聞くと、源蔵様でございますとお杉は知らせる。
まあ、源蔵殿?と驚いたまきは、旦那様がお留守なら奥様におめりかかりたいってとお杉が言うので、本当にうちの旦那様にどうしてあんなグズの飲んだ蔵の兄弟ができたんでしょうね?とまきも呆れたように言う。
ねえ、源蔵さまになんて申しましょうか?とお杉が聞くので、そうね~、あいにくの雪で、持病の癪が起こり、伏せっておりますとでも言っておくれとまきは指示する。
でもそれじゃあ、お見舞いをってされたら…と、お杉は言い返すと、そうだね~とまきは考え込んだので、ねえ、いかがいたしましょうか?」とお杉は困り果てる。
それじゃあ、私、寝るから大急ぎでお床のべておくれとまきは頼む。
はいと答えてお杉が立ち上がると、あ、お杉、お杉!と呼び止め、それからね、旦那様は誤用で遅くなるから」おかえりは多分、夜になるだろうって言ってねとまきが注文したので、早く追い返しておしまいとまきは付け加える。
火鉢を前に1人待っていた源蔵の前に茶を持ってきたお杉は、奥様はあいにくの雪で、持病の癪が出て伏せっていでおられますと打ち合わせ通り説明すると、また嘘を言うと源蔵が見抜いたので、あら!嘘だとお思いだったら行ってご覧になれば良いのに…とお杉が膨れたので、良い良い、寒さの折からずいぶん体に気をつけるよう申し上げてくれ、幸いここに薬がある、これを差し上げてくれと言って、源蔵はお杉に渡したので、印籠ごとですか?とお杉は不思議がる。
そうだと源蔵が言うので、はいと言って受け取ったお杉は困惑するが、どうした?と源蔵が聞くと、それが、あの~、旦那様は御用のご都合でお帰りは夜になるとのことですが…とお杉は申し訳なさそうにまた嘘をつく。
すると源蔵は、何、夜に?と驚き、ええとお杉が頷くと、それはまずいと悩み出した源蔵は、部屋の隅の衣紋掛けにかけてあった兄、塩山伊左衛門の着物を見て、杉、これを床の間の方に持って来いと命じる。
あら?お召しになるんですか?とお杉が聞くと、着るのではない、ちょっと用があるのだと源蔵は言う。
仮病を使って布団の中にいたまきは様子を伺っていた、
お杉が、衣紋掛けを床の間の方へ移動させ、これで良うございますか?と尋ねると、これをと源蔵は持参した酒とっくりと渡したので、どうなさるんで?とお杉が困惑すると、そこに置けと衣紋掛けの前に置かせ、お前はしばらく下がれと命じる。
お杉は着てらっしゃらないでくださいよと注意して対座する。
部屋に一人きりになった源蔵は、衣紋掛けにかけてある塩山伊左衛門の着物の前に進み出ると正座し、さて兄上、それがし幼少期より中垣家に参り、長年のご厚情、片時も忘れたことはございません、本日お暇乞いに参りましたるところ、生憎のご不在、源蔵力なく戻ります、晩年のご寿命を過ぎて後、戦果においてお目にかかり、これまでの御礼申し述べる存念にござりますると涙ながらにひれ伏す、そこに入ってきたお杉は、まあ源蔵様、泣いてらっしゃるんでございますか?と問いかける。
うん?バカ、泣くもんか、あんまり寒いから水っぱなが目から出たんだと源蔵はとぼけ、立ち上がって火鉢に手を当てるふりをする。
ご冗談ばっかり、でも、どこか遠方立ちになるんですか?とお杉が聞くと、うん、まあ、遠い所へと源蔵は答える。
で、お帰りはいつに?とお杉が聞くと、そうだな〜、来年の7月は新盆だから、それまでにはぜひ帰ってくるつもりだと源蔵は答える。
それを聞いたお杉は、まあ演技でもない、仏様みたいと苦笑する。
仏か…、フン、そん時は饅頭や団子が嫌いだから酒にしてくれよと現像が冗談めかしていうので、お杉は面白そうに笑い出す。
お前にも色々世話になったな、お前も早く良い亭主を持てと源蔵が揶揄うので、大きなお世話でございますとお杉も言い返す。
だけど、お前じゃ成り手がなかろうと源蔵はからかい、刀を手に取って帰ってゆく。
布団の上に座ったまきが、もう帰ったかい?と戻ってきたお杉に聞くと、この癪の薬を源蔵様が…と言って、お杉は印籠を手渡すので、ええ?とまきは驚く。
印籠のままくださいました、なんだかいつもと様子が違って、とっても寂しそうですとお杉は伝える。
塩谷の家を出て、降り頻る雪の通りに出た源蔵は、笠を片手で頭の上に覆い、寂しげに歩き出す。
瑤泉院は、久々にやってきた内蔵助を見て、おお、内蔵助か、江戸下向と聞くにつけ、今日は見えるか、明日は見えるかと、今日の今日の日をただひたすら待ち侘びておりましたぞと喜ぶ。
内蔵助は平伏し、勿体無いお言葉にございますと頭を下げる。
顔をあげた内蔵助の顔をまじまじと見た瑤泉院は、心なしかやつれて見えますの〜と言葉をかけ、内蔵助様、この大雪をしての訪れはいよいよ…と戸田局も語りかけると、戸田殿ときつい眼差しで相手を見た内蔵助は、今度、ちと遠い所へ罷り発ちまするので、今日をおいてはお伺いする折もあるまいと存じ…と答えたので、遠い所とは?と戸田は聞き返す。
いや実は、さる西国筋の大名に仕官をすることが決まりましたので、お暇乞いに参上…と内蔵助は言う。
何?仕官…、内蔵助様、それは真でござりまするか?と戸田局は聞きただす。
真か?とは?と内蔵助は惚ける。
大学様の取り立ても退けられた今、亡き殿のご無念をお晴らし申す心もなく、おのれ1人だけ仕官なさるとは…と、それをお尋ね申しているのでございますと戸田局は答える。
内蔵助と呼ばれた内蔵助が、は!と畏まると、妾の頼りとするは、天に餅にもそなたただ1人、どうか腹蔵なく打ち明けてたもれと瑤泉院は頼むが、は、お言葉ではござりまするが、腹蔵なくと多されましても…と内蔵助は当惑した素振りを見せるだけだった。
内匠頭様、ご切腹のみぎり、そなたのみ短歌を通じてのお言葉、そなたよも忘れは致すまい、その折、お言付け遊ばされた御最後の短歌に今後恨みをお晴らし申す心はないと申すのか?ないか?ないか!ないと言われるのか!と瑤泉院は責める。
内蔵助は苦渋の表情を浮かべ、毛頭ござりませぬと頭を下げる。
それを聞いて涙ぐんだ瑤泉院は、ではもう何も申すまい、ただそなたを深く頼まれた内匠頭様が御いたわしい!と泣き出す。
それに合わせ、戸田局や他の女中たちも一斉に泣き出す。
すっくと立ち上がった瑤泉院は、さらばじゃ、寒さのみぎり、そなたのみぎり、体を厭いまするようにと瑤泉院は告げ、戸田局に、内蔵助にあれをと指示して下がる。
女中たちも一斉に部屋から退出するが、隣室で茶を立ていた腰元・紅梅(小野道子)はまだその場に残って、内蔵助の様子を伺っていた。
その後、仏壇に手を合わせていた内蔵助の前にやってきた戸田局は、内蔵助様、これは奥方様が貴方様の寒がりを覚えておいで遊ばして、内蔵助が来たら遣わすのじゃと仰られ、手ずからお縫い遊ばされた縮緬の頭巾ですと言って渡すと、内蔵助様、もはやあなた様と私の2人だけ、どうぞ、ご本心を!と頼むが、戸田殿、本心が2つも3つもあるものかと笑って言い残し、どれ、お暇を…と言いながら立ち上がりかけ、おお、今のお怒りで、とんと失念致したと言い出した内蔵助は、これはこの度の東下りの折、したためましたる歌日記、瑤泉院様、お怒りの鎮まるのを待って、何卒ご披露くだされと言いながら、袂から出した帛紗を戸田局に手渡そうとするが、受け取る気配がないので、苦笑しながら仏壇に備える。
ではどうしても仇討ちの御所存は?と重ねて戸田局が聞くと、ごめんくだされとだけ答える。
その瑤泉院に、点てた茶を出していたのが紅梅だったが、帰り際、瑤泉院からもらった頭巾を被った内蔵助は、戸田殿、油断のならぬ世の中、戸締り、火の元、その他、良く良くお気をつけなされよ、ごめんと言い残して雪の中を帰って行く。
その言葉を聞いた戸田局は、その意味に気づいて驚く。
塩山家に帰ってきた塩山伊左衛門は、留守に源蔵が来たというではないかとと聞くと、まきがあ…、はいと答えたので、そちは会ったのであろう?どんな様子であった、元気だったか?と聞くと、はい…、あの〜、私はあいにくの腹痛で…と答えたので、病気とあれば致し方がないと伊左衛門は諦めるが、杉!と呼び、これはどうしたんだ?と右衛門かけが床の間の近くに置いてあることを聞くと、はい、源蔵様が、遠いところを旅立ちなさるとかで、旦那様にお暇されるんだと申されて、お酒を…とお杉が説明すると、何?暇乞いに…、そして酒を?して、なんか変わった様子はなかったか?と疑念を感じた伊左衛門が聞くと、はい、なんですか、内手おいでになるようでしたけど…とお杉が教えると、泣いて?と伊左衛門は不思議がる。
それで、泣いてらっしゃるのか?って聞きますと、寒いから目から水っぱなが出るんだなんておっしゃって、なんだかいつもより変でございましたとお杉は報告する。
それを聞いた伊左衛門は、う〜ん…、源蔵が泣いたか…、今日は何日だ?と聞くと、あの〜、14日でございますとまきが答える。
それを聞いた伊左衛門は、なぜお前は源蔵に会ってやらなかった!とまきを責める。
一方、雪の中、外出から帰宅した大竹重兵衛に、娘の八重が、父上、勝田が参っておりますと伝える。
うん、新左が参ったか?で、まだ尾羽打ち枯らしておるか?と重兵衛が聞くと、立派な身なりでございますと八重が答えたので、う〜ん、別れに来たか…、で、仇討ちの話は出なかったか?と聞くと、いいえ、この度、仙台様にお召し抱えにおなり遊ばしたようでございますと八戸は教える。
うん?仙台様?と重兵衛は、顔がこわばったまま刀を抜いて居間に向かう。
父上、ご健勝のほど…と勝田新左衛門は平伏して出迎える。
仙台公に召し抱えられたと言うが、本当か?と重兵衛が聞くと、はっ、いずれ八重は、落ち着き次第迎えに参りますが、今日はご挨拶に…と勝田が答えると、黙らっしゃい!わしがそのような立派な衣服を見て喜ぶと思うか?と重兵衛は叱る。
主君の恩も忘れ、仇も討たず、二君にまみゆる汚主に用はない!今日限り離縁致す!と重兵衛は言い放つ。
まあ、父上、なんと言うこと仰せられますか!と八戸が飛んでくるが、重兵衛は帰れ!出てけ!と怒鳴りつける。
勝田は項垂れ、ぜひもござりませぬと答え、一礼してそのまま家を出て行く。
あなた!と後を追った八重は、これは支度金だと勝田から渡された帛紗の包みを受け取り、このような大金を?と驚く。
一足先に仙台に行く、万一ということもあると勝田が言うので、あなた、せめて一目子供にお会いになってと八重はせがむが、今にいた重兵衛は、涙ながらに、八重!そのような不忠な武士、腰抜け武士に言うな!と叱りつける。
八重は布団に寝かせていたまだ乳飲み子を抱き上げ、坊や、父上ですよと声をかける。
その我が子を抱いた勝田に、父の言葉はどうぞ御案じなさいませぬようにと八重は言う。
勝田は、八重、坊やのことは頼んだぞと託す。
それを聞いた八重は、いつもの貴方とは違いますね?どうなされたのでございますと聞く。
居間では、勝田の訪問の意味に気付いていた重兵衛が涙に暮れていた。
瑤泉院邸では、夜中、仏壇に向けて足音隠しの布を敷いた曲者がその上を伝って近づき、内蔵助の残した歌日記を盗もうとした瞬間、その手を押さえた戸田局が、紅梅、何をするのじゃ?と聞きただす。
紅梅は戸田を押し退け逃げようとしたので、戸田局は、曲者!と声を上げる。
懐刀を手にした女中たちが集結する。
逃げかけていた紅梅に出くわした女中たちは、彼女が吉良の間者だったことに気づき斬りかかる。
奥の間に追い詰められ、もはや逃げ切れぬと悟った紅梅は、自ら懐刀を自らの胸に刺して自害する。
その足元には、紅梅の手から落とした内蔵助の歌日記が転がっていた。
それを拾い上げ中を読んだ戸田局は驚愕する。
その夜、蕎麦屋の二階に集結した47士に、出来上がった蕎麦が下から次々に運ばれて行く。
へい!これで47人前上がり〜と店員が声を上げる。
衣装替えを済ましていた同志たちに向かい、内蔵助は覚え書を記した巻物を広げて披露していた。
右の上硬く相守るべきこと、もし不幸にして上野討ち漏らした場合は屋敷に火をかけ一同割腹のこと!と書かれていた。
47士は全員、首を垂れて承知する。
瑤泉院は、奥方様!と戸田局が差し出した内蔵助の歌日記を確認した途端、ああ、仇討ちの連判状じゃ!と知り、驚愕する。
なんと言う浅はかな…、内蔵助の口も、行き届いた用心も、少しも察することができなかった!と瑤泉院は、自らの不明を恥じる。
あの紅梅を成敗することができましたのも、実は内蔵助様のおかげでございますと戸田局も詫びる。
ああ、何としよう!内蔵助、内蔵助!許してたもう!と瑤泉院は泣き崩れる。
一同、出発!と内蔵助が号令をかけ、自ら先頭に立って、蕎麦屋を後にしたので、異変に気付いた蕎麦屋は逃げ出す。
店を出る際、蕎麦賃を台の上に置いて行く。
雪の残る道を小走りで吉良邸の前まで到達した内蔵助は、浪士の半分を屋敷の裏手に回す。
内蔵助は門前で陣太鼓を打ち鳴らし始める。
大槌で門を打ち破る者、縄梯子を使って塀によじ登る者、かねて打ち合わせ通りに浪士たちは屋敷内に侵入を計る。
裏門に来た力も、表から聞こえてきた陣太鼓を合図に、かかれ!と命じ、裏門も破り始める。
寝ていた清水一角は起き上がり、まさしく山鹿流陣太鼓、赤穂の者ども討ち行ったな!と気づき、自ら刀を手に起きると、方々、出会え!と絶叫する。
雨戸に次々と撃ちこまれる矢に、女中たちは悲鳴をあげて逃げ惑い、起き抜けの用心棒たちもあたふたしていた。
雨戸が破られ、屋敷内に浪士たちが侵入すると、たちまち斬り合いが始まる。
浅野の家臣、ただいま推参!と名乗りを上げたのは堀部安兵衛だった。
狙うは上野介、ただ1人!は向かうものは斬る、逃げるものは逃がす!女子供は逃げろ!と安兵衛は呼びかける。
女中たちは門から外に逃げ出すが、男は出るなと浪士たちが足止めをする。
弱輩ながら矢頭右衛門七も健闘していた。
岡野金右衛門も槍で敵を倒していた。
敵方の清水一鶴もよく応戦していたし、老いた堀部弥平も戦っていたが、敵方から力負けしようとしていたので安兵衛が駆けつけて助太刀し、父上お怪我は?と聞くと、親不幸ものめが!楽しんでおるのじゃと弥平は叱り、行け!と息子を励ます。
しかしその直後、また敵に襲われた弥平を助けた安兵衛は、馬鹿!と罵られ、ごめん!と詫びる。
大石力も敵を斬り倒していた。
一角に力負けしていた赤垣源蔵に加勢するため近づいた岡野が、吉良を探せ!と声をかける。
槍を構えた岡野を見た一角は、貴様だったのか!といつぞやの夜に痛めつけた相手を思い出す。
岡野金右衛門、相手をするぞ!と岡野も槍を構え、名乗りをあげる。
一角は岡野の槍を交わし、小刀も抜いて、岡野に手傷を負わすと二刀流になる。
岡野も刀を抜いて片手一本で対峙する。
橋の上に後ずさった岡野は、追い登ってきた一角を片手の刀で斬り捨てる。
吉良邸の門前では、見つかりませんと、片岡源吾衛門が内蔵助に報告していた。
赤垣源蔵も槍で敵を突きまくっていた。
吉良の寝所の布団をめくった力は、中に吉良がいないことに気づき、逃げたぞと仲間に知らせる。
岡野は合流した力に、見当たりませんと報告する。
吉良はまだ見つからんか?と矢頭右衛門七が同志に聞くと、まだ見つからんと言う。
まだ見つからんか?どこに逃げたかわからん!と、他の浪士たちも焦りだす。
表で内蔵助を警護していた吉田忠左衛門も、まだか!と焦るが、内蔵助も苛立ち始めていた。
そんな中、裏手の炭小屋に隠れていた白い寝巻き姿の男が発見される。
吉良発見を知らせる呼子の音を聞いた内蔵助は、すぐさまその方向へ向かう。
屋敷内の浪士たちも一斉に呼子の音源に走り向かう。
白寝巻きの老人を見た内蔵助は、吉良殿!と確認する。
吉良は無言で縮こまっていた
内匠頭様の御無念を晴らさんと、大石内蔵助はじめ47名、各推参!いざご障害をと言うと刀を渡そうとする、しかし吉良が逃げ出そうとしたので、御免!と言うなり、内蔵助が吉良の胸を突き刺す。
それを確認した浪士たちから、やった〜と声が上がり、すぐに本懐を遂げた感激で泣き崩れる。
銭湯に浸かっていた大竹重兵衛は、大変だ、大変だと着替え部屋に駆け込んできた金太の声に気づく。
どうしたんだよ?と源吉が聞くと、赤穂の浪士がやった、とうとうやったんだよ、昨夜、吉良の屋敷に乱入して吉良の首を取ったそうだと金太は教える。
すると裸で飛び出してきた重兵衛が金太の両耳を掴んで、痛がる金太に、その浪士の中に勝田が、婿養子の新左がいたか?しかと返答いたせ!と聞いてきたので、耳がちぎれる!と金太は抵抗するが、耳などどうでも良い、いたのか、いないのか!と重兵衛が詰め寄ったので、そんなこと分かりませんよと金太は答える。
源吉はそんな興奮状態の重兵衛に背後から着物を着せてやるが、金太を押し退けた重兵衛はその源吉に、新左衛門はいたか?いないか!と問い詰めたので、俺は知らないよと源吉が驚いて答えると、馬鹿者!とまた重兵衛から突き飛ばされたので、呆れた源吉は、ご隠居、落ち着きなせえよと注意する。
先頭の前では瓦版売り(上田寛)が、ええ、これはこの世にも珍しき次第をご覧あれ!播州赤穂の浪士40余名、昨夜、吉良の屋敷に乱入し、守備よく敵を仕留めたり!と口上を述べていたが、そこに飛び出してきた重兵衛が、瓦版を掴み取って読み始める。
それは際もんですよと瓦版売りがいうと、分かっとる!またしても、分かっとると重兵衛が言うと、気に入った名前があれば残らず買って遣わすと重兵衛は答え、内容を確認する。
一瞬、新左衛門の名前を見つけたと思い込み喜ぶ重兵衛だったが、ご隠居、それは裏でございますと瓦版売りは注意すると、慌てるな、馬鹿たれと憎まれ口を叩きながら、何だ?大石内蔵助、いやさすが大石殿あっぱれでござる、恐れ入りましたと瓦版を拝み始めた重兵衛に、ありました?と源吉が背後から聞くと、控えろ!と叱りつけ、瓦版に書かれた老師の名前を読み始めるが、なかなか新左衛門の名前は出てこないので、ありませんね、ご隠居と源吉が悔しがる。
やがて、勝田新左衛門!と言う文字に気づいた重兵衛は、あった!あった!あった〜!と感極まって叫ぶと、瓦版を放り投げる。
ご隠居!と瓦版売りは呼びかけるが、走り去る重兵衛が投げてきた財布を受け取る。
知らせを受けた千坂兵部は、負けた!と悔しがっていた。
その時、廊下から出かけようとする家臣たちの足音が聞こえたので、待て、待て!どこに参るか?と廊下に出て問いただすと、赤穂の浪人どもを…というので、ならん!ならん!浅野家の二の舞を踏むだけじゃと兵部は涙ながらに諌める。
塩山家では、塩山伊左衛門が出かけようとしていたので、あなた、お体に触ります!お杉、お杉!とまきが塩山の手を握って必死に留めてた。
塩山は、赤穂義士の中には弟がきっといる!行って見届けて参る!と、駆けつけたお杉に訴える。
でも旦那様、万一おいでにならない時は?とお杉が聞くと、弟は兄の目に狂いはない!行け、行け!と塩山は指示し、杉…と出かけようとしたお杉を呼び止める
はい?とお杉が戻ってくると、見届けた際は、飲んだくれの源蔵様がいらっしゃいましたと、大声を上げて帰ってこいと涙ながらに頼む。
瓦版片手に自宅に戻ってきた重兵衛は、出迎えた娘に、八重!勝田がおったぞ!新左がいたぞ!と瓦版を見せながら教える。
事情に気づいた八重は、おめでとうございます、おめでとうございますと言いながら、その場に泣き崩れる。
道を歩いてきた浪士の一団を野次馬に混じって見ていたお杉は、源蔵に気づいて駆け寄ると、列から離れた源蔵の方からお杉を押し戻し、兄上によろしく…と言いながら帛紗包みを手渡すと、すぐに列に帰って行く。
お鈴もまた、行列を眺めていたが、岡野の姿を見つけると、あなた!と呼びかける、列を離れて近づいた岡野が、鈴、喜んでくれ、そちの力で御主君の仇見事討ち取ったぞというので、あなたとお鈴は抱きつこうとするが、これは大石殿よりと言いながら、岡野は何かを手渡すと、長生きせいよ、あの世でそなたの幸せを祈っておるぞと言い残し、列に戻って行く。
行列の前に立ち塞がった馬上の人物は、それに参るは何者なるか?と問いただす。
お膝元も弁えず、奇異な衣装を身につけ、御府内に入らんとする奇怪な者ども!おのれ、両国橋を1人も通すこと相ならん!と馬上の多門伝八郎は言い渡す。
銭湯を歩いていた岡野や赤垣は討って取れと立ち向かおうとするが、それを待て!ととめた内蔵助は、馬上の人物が多門伝八郎だと気づき狼狽する。
多門の方も、おお、大石殿か?岡野もおるな?と気づき、見事!年月の鬱憤をあ晴らしなされ、さぞ満足であろうと呼びかける。
会釈した内蔵助は、昨夜吉良殿の屋敷に推参、首尾よく本会を遂げ、只今、主君の菩提所なる高輪泉岳寺に引き上げる途中にて、何卒武士のお情けを持ってこの橋をお渡しくださるようと頭を下げる。
さりながら公私は別、当両国橋は江戸城に通ずる用賀にならば、武装しての通過はまかりならん、深川より永代の橋を渡り、芝高輪に向かわれれば別にお咎めはござらぬぞと助言する。
それを嬉しそうに聞いた内蔵助、ありがたきお言葉、しからばごめんと挨拶し、後退組より首引け!と命じ、列を反転し、道順を変更して進み始める。
戻ってきた浪士たちの行列を見送る野次馬の中に、駕籠から降り立った瑤泉院と戸田局の姿もあった。
それに気づいた赤垣は恐縮し立ち止まり、内蔵助が瑤泉院と相見えるが、一礼してそのまま行進を続行する。
後に続く浪士たちも、皆瑤泉院に一礼して通り過ぎる。
過ぎ去った列を見送った瑤泉院と戸田局は、地面に伏して泣きながら感謝の気持ちを表す。
赤穂浪士の一行は永代橋に差し掛かっていた。
終