【特集記事】家は「資産」から「砦」へ
中東情勢、為替、エネルギー危機。外部リスクに翻弄されない「自律型の家」という選択
朝、スマートフォンを開けば、中東情勢の緊迫化や乱高下する為替、先の見えない物価高騰のニュースばかりが目に飛び込んできます。遠い海の向こうの出来事が、私たちのささやかな日常をいとも簡単に揺さぶる時代になってしまいました。
一人の建築士として日々図面に向かう中で、私にはどうしても拭えない思いがあります。
「家を建てるという人生で最も尊い決断が、世界情勢という見えない波に晒されたままで本当にいいのだろうか」
これからの時代に必要なのは、ただ見栄えの良い家や、流行りの間取りを取り入れた家ではないのかもしれません。外部のあらゆるリスクをそっと遮断し、いつの時代も家族の安寧と健康を守り抜く、シェルターのような「自律型の家」。
国内でまかなえる建材を軸に、環境に無理がなく、住む人にとって本当にメリットのある素材を一つひとつ丁寧に選んでいく。それが、不確実な時代において家族を守る、一番確かな方法だと私は行き着きました。
私なりの「これからの家づくりのあるべき姿」について、どうか少しだけお付き合いいただけませんか。
1|「海の向こうの争い」に、家族の温もりを預けない
今の日本の家づくりは、驚くほどたくさんの「石油製品」で構成されています。特に家の性能を左右する断熱材。壁の中には、石油から作られた発泡系のプラスチック素材がたっぷりと詰め込まれているのが一般的です。
でも、ひとたび遠い国で紛争が起きれば、こうした建材はあっという間に手に入らなくなり、価格は理不尽に跳ね上がります。現代の建築において、すべての石油由来の素材を「完全なゼロ」にすることは現実的ではないかもしれません。それでも、「限りなくゼロに近づける選択」を重ねていくことが、結果として強くて優しい家づくりに繋がります。
だから私は、家の要である断熱材において、石油由来への依存を極力なくしました。例えば、新聞紙をリサイクルした「セルロースファイバー」や、木の端材などから作られる「木質繊維断熱材」。そして、国内で安定して生産・受給が可能な「ロックウール(鉱物由来)」です。
私がこれらの自然由来の素材に惹かれるのは、地政学リスクと無縁なだけでなく、家そのものが深呼吸するように湿気をコントロールし、結露を防いでくれる素晴らしい力を持っているからです。国内でまかなえる、環境に良くて性能も高い素材を選ぶ。この当たり前のような選択が、国際情勢の荒波からご家族の「冬の暖かさ」と「夏の涼しさ」を守る、確かな防衛策になるのです。
2|構造から窓まで。日本の木で建てる「本当の意味」
少し専門的なお話をさせてください。今の住宅の柱やはりには、「集成材」と呼ばれる木材がよく使われています。薄い板を接着剤で強力に貼り合わせたものですが、私はあえて「接着剤を使用する集成材の廃止」という道を選びました。接着剤もまた、海外からの輸入に依存した化学合成物質であり、何十年と暮らす家族の健康に見えない不安を落としかねないからです。
代わりに私が選んだのは、接着剤を一切使わない「一本木(無垢材)」。私が拠点とするこの地域が誇る「八溝杉(やみぞすぎ)」です。日本の厳しい四季を耐え抜いた八溝杉の強さと、深呼吸したくなるような清々しい空気。この自然の力にこそ、家族の日常を委ねたいと考えました。
そしてもう一つ、私が基本仕様としているのが「国産材の木製サッシ(窓)と木製玄関ドア」です。現在、日本の窓の多くはアルミや樹脂(プラスチック)で作られています。しかし、アルミの製造には莫大な輸入エネルギーが必要であり、樹脂はまさに石油そのものです。
家の熱が一番逃げやすい「窓やドア」を、断熱性に圧倒的に優れる国産の木材に置き換える。これは、為替や輸入リスクをゼロにする「ウッドマイレージ」の観点からも、最も理にかなった最強のリスクヘッジです。何より、毎日手で触れる窓やドアが本物の木であることの温もりは、ご家族の心に深い安らぎを与えてくれます。
3|インフラの奴隷にならない「オフグリッド」という自由
毎月届く電気代の請求書を見るたびに、無意識に節約のストレスを感じていませんか? エネルギーを外部の電力網や海外の化石燃料に依存している状態は、常に「暮らしのコスト」を他人に握られているのと同じです。
私が目指すのは、その見えない重圧からご家族を解放すること。太陽の光をエネルギーに変えて大容量の蓄電池に貯め、さらにV2H(Vehicle to Home)システムを導入して、電気自動車を「走る蓄電池」として家と繋ぎます。
これらを組み合わせることで、もし公共のインフラが災害で途絶えたり、エネルギー危機で電気代が暴騰したりしても、「うちの家はいつも通りだね」と家族で笑い合える「自律型」の暮らしが実現します。停電した夜でも、あたたかいご飯を食べ、明るいリビングで子どもたちが安心して眠りにつける。家そのものが独立した小さな発電所になれば、日々のニュースに心をすり減らすこともなくなります。私自身、図面を引きながら、そんな心穏やかで自由な暮らしをこそ、今の時代にご提案したいと強く思うようになりました。
4|カタログの数値より「確実に直せること」を選ぶ理由
家づくりは、鍵を受け取って終わりではありません。そこから50年、60年と続く、長い暮らしのスタートです。
住宅の性能を追求するあまり、今の業界では「海外製の高性能な換気システム」を導入するケースが非常に増えています。また、SNSで見かけるデザイン性の高い海外製の水栓(蛇口)なども大人気です。確かにカタログに並ぶ数値やデザインは素晴らしく、憧れるお気持ちはプロとして痛いほどわかります。
しかし、私はあえて「国内製造・国内規格」の設備に強くこだわっています。どんなに高性能な機械でも、何十年という暮らしの中では必ずメンテナンスが必要になるからです。
もし真冬に換気システムが故障したとき、国際情勢の混乱で「部品が海を渡ってくるまで数ヶ月かかります」と言われたら。水栓の小さな部品が壊れただけで「日本の配管規格と合わないため、数週間お水が使えません」と言われたら。私は、ご家族にそんな不便と不安を強いる設計はしたくありません。万が一故障しても、国内の規格ですぐに部品が手に入り、地元の職人がサッと直せること。それこそが、何十年先も続く安心を約束する「最強の保険」だと信じています。
5|「レジリエンス」という名の、目に見えない深い優しさ
困難な状況や予期せぬショックに直面しても、ポキッと折れてしまうのではなく、しなやかに耐え抜き、すぐに元の平穏な生活を取り戻す力。建築の世界ではそれを「レジリエンス(しなやかな強さ)」と呼びますが、私はこれを、住まいが持つ「目に見えない深い優しさ」だと捉えています。
これから本当に必要とされるのは、最新の流行を取り入れただけの見栄えが良い箱ではなく、こうした目に見えない強さを持った住まいです。
・環境に配慮した断熱材と木製サッシが生む、猛暑や極寒から命を守る性能。
・化学合成物質を極限まで排した、心身が安らぐ清浄な空気。
・巨大地震を受け止める、地元・八溝杉のたくましい構造。
・世界情勢の変化による経済的ダメージを吸収してくれる、エネルギーの自立。
どんな予測不能な時代が来ても、決して揺らぐことなく家族をすっぽりと包み込み、明日へ向かう活力を静かに養える「砦」のような場所。それこそが、不確実な時代を生きるご家族へ向けた、私ができる本当の優しさなのだと思います。
おわりに
「世界がどうなっても、この家があるから大丈夫」
あなたとご家族がそう心から安心し、深く息を吸い込めること。それが、私が建築士として一番に願っていることです。
100%は難しくても、外部リスクや石油への依存を「限りなくゼロ」に近づける努力は、絶対に無駄にはなりません。国内の素晴らしい建材を組み合わせ、ご家族にとって本当にメリットのある住まいを見つけていく過程は、とても豊かで楽しいものです。
もし、あなたが日々のニュースに少しでも不安を感じていたり、これからの家づくりに迷いを持っていたりするなら。
まずは、その率直な思いを聞かせてくれませんか。
一緒に悩み、考え、あなたのご家族にとっての「一番確かな答え」を探していく。そんな存在になれたら、これほど嬉しいことはありません。