白い花の記憶②
白い花の記憶がある。
2月の終わりから3月にかけて咲く、大好きな花。
白い梅の花に続いて、
私の中で春を告げるのは、白木蓮と拳の花だ。
物心ついた頃、私はよく、
幼稚園の下にある神社の、人気のない境内で遊んでいた。
まだ寒さの残るその場所で、この時期になると、
どこからともなく、なんとも言えない良い香りが漂ってくる。
澄んだ空気の中に、ふわりと混ざるやさしい香り。
その匂いを感じるたび、私は何度もあたりを見渡した。
そして気づく。
地面に、大きな白い花が落ちている。
自分の顔ほどもあるその花は、
水気を含んだ、ぽってりとした花びらをしていた。
厚みがあって、しっかりとしているのに、
どこかしおしおとした、儚さもある。
けれど、周りを見渡しても、
その花が咲いている場所が見つからない。
不思議に思って母に尋ねると、
それが木蓮という花だと教えてくれた。
そして、顔を上げて「ほら、あそこ」と指さした先。
ひょろりと伸びた高い木の先に、
ぽつりぽつりと、大きな白い花が咲いていた。
—ああ、これか。
幼い私は、こんな高い場所に花が咲くなんて思ってもいなくて、
ずっと地面ばかりを探していたのだ。
白木蓮の花は、
ほんのりクリーム色を帯びたやさしい白。
そして、あの忘れられない香り。
それ以来、私はこの花が好きになった。
似た花でいえば、拳の花も好きだ。
白木蓮よりも小さくて、花びらが多く、
たおやかでやわらかい印象をしている。
幼い頃の私は、この二つを同じ花だと思っていた。
けれど、後になって、まったく別の木で、違う花だと知った。
拳の花もまた、この3月の時期に満開を迎える。
淡い空に向かって、
静かに伸びていくその姿は、とても優美だ。
亡くなった叔母は、この花が好きだったという。
花の話を直接したことはなかったけれど、母からそう聞いた。
なぜだか、その気持ちが少しわかる気がした。
きっと、似たものを好きになる人だったのだと思う。
私の記憶の中には、いつも白い花がある。
物心ついた頃から、変わらずずっと。
白木蓮も、拳の花も、
まだ浅い春に咲いて、空へと伸びていく。
そのたおやかな姿を見ていると、
やがて訪れるあたたかな季節を、静かに思う。
少しずつ昼が長くなっていくこの時期が、
私はとても好きだ。
※2026年3月23日 note記事より