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一号館一○一教室

ドラマ『ウルトラQ 地底超特急西へ』

2026.04.18 07:39

そこには
リニア新幹線の未来図が!?


789時限目◎その他



堀間ロクなな


 リニア新幹線は最大の障壁となっていた静岡工区が年内(2026年)の着工に向かって動きだし、当初計画より大幅に遅れて、2030年代後半の品川・名古屋間の開業をめざして急ピッチで進んでいくという。これほどの規模のインフラ・プロジェクトは「今世紀最大」のみならず、「日本列島最後」となるのかもしれない。



 その未来図を予見したかのようなテレビ・ドラマが存在する。いまからちょうど60年前、1966年(昭和41年)にTBS系列で放映されて、われわれの世代を虜にした円谷プロによる空想特撮シリーズ『ウルトラQ』の第10話『地底超特急西へ』がそれだ。



 東京と北九州を結ぶ世界最速の超特急「いなづま号」が公開試運転の日を迎えた。最高時速450キロを誇り、全行程の五分の四は地下トンネルで、中央指令室の管理のもとに電子頭脳が運行にあたるというシステムは、現実のリニア新幹線とかなりオーバーラップするものだろう。その動力源は明らかにされていないものの、先頭の機関車には回転式のジェットエンジンが装着されているから、やはり空中に浮かぶことでスピードを獲得しているようだ。東海道新幹線の開通(1964)からいまだ2年目のタイミングでつくられたドラマとしては、まことに驚嘆すべき構想力といわざるをえないだろう。



 この「いなづま号」に『ウルトラQ』シリーズのヒロイン、新聞社のカメラマンをつとめる江戸川由利子(桜井浩子)がライバル会社の記者連中たちとともに取材のため乗り込む。のみならず、由利子と知りあいのイタチ少年も好奇心に駆られて忍び入ってくるのだが、かれは駅の構内で靴みがきをなりわいとし、大人顔負けのべらんめい調を口にする江戸っ子という、とっくに絶滅した人物設定となっている。こうして眺めると、科学技術や社会システムの未来予測はできても、人間個々の生活や性格の変化についてはよほど予見が難しいものらしい。



 「いなづま号」に乗り込んだ者は他にもいた。某研究所が秘密裏に開発した人工生命体M1号で、高圧ボンベから取り出すとiPS細胞よろしく分化・増殖して、たちどころに人間と同程度の知能を持つ生きものに成長するというもの。これが突発的なアクシデントによって持ち込まれて、車内でゴリラまがいの類人猿と化したのだが、知能は幼児並みでしかなかったのは、AI(人工知能)に依存したあげく知的退行をきたした人類のメタファーなのかもしれない。そのM1号はイタチ少年とふたりで機関車を占拠して、電子頭脳の運転を狂わせてしまった結果、地底の超特急列車は暴走をはじめ……。



 ことここにおよんで、中央指令室は先頭の機関車と後続の客車の切り離しを乗務員に命じ、由利子や記者たちの安全を確保したうえで、北九州の終点に設置した車止めで暴走を食い止めることに決める。ひとつ間違えれば大惨事を引き起こしかねない危険があるにもかかわらず、「いなづま号」を待ち受ける都市にはひとの気配がなくてひっそりと静まり返っているのは将来の人口減少社会ニッポンの光景か。中央指令室では、シリーズ主役の万城目淳(佐原健二)がイタチ少年の救出の可能性を質したところ、室長は80%の確率だとしてこう応じた。



 「われわれの血と汗が生みだした80億7000万円の機関車の運命もかかっております!」



 だが、室長の言葉とは裏腹に「いなづま号」は車止めで停止するどころか、それを発射台にして天上に舞い上がっていき、ついには地球の衛星軌道へ立ち至って、星々のきらめきのなかで周回をはじめるのだった……。この荒唐無稽な光景は、原案では気絶したイタチ少年の白日夢という設定だったようだが、ともあれ、科学技術がひたすらスピードを追求していった果てに「無用の長物」へと辿りつく愚かさを描いてあまりあるラストシーンといえるだろう。



 さて、現実のリニア新幹線では、工事実施計画の大幅な変更にともなって総工費(品川・名古屋間)が当初見込みの倍の約11兆円にふくらむとされている。その結末が『ウルトラQ』の予見した「無用の長物」に終わることのないよう願うばかりである。