Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

陳腐化した知への依存

2019.03.13 06:13

PDF版はこちら

 国連世界観光機関(UNWTO)は、観光教育に優れた高等教育機関を評価する国際認証「TedQual(テッドコール)」を設定している。観光学に関わる教育や研究を引っ張る各国の大学等に与えられるものだが、日本で取得しているのはわずか2校に留まる。国内で「観光」を大学名や学部名に冠する教育機関数は決して少なくないが、残念ながら国際機関の認証基準に値するような優れた取り組みはなされていないということのようだ。100項目以上の厳しい選考基準をクリアせねばならない「難関」とはいえ、海外では70を超える大学が取得済みである。観光立国推進を図るこの国の観光教育機関における現状としては、何とも頼りない。


 ツーリズムに関する調査研究を当法人が担うにあたって、様々な「観光学」に関わる教科書や論文に触れてきたが、よく言えばこれほどまでに学際的、素直に表現すれば学問体系が確立されていない分野であるとはこれまで全く認識していなかった。さながら、様々な学問の寄せ集めのように感じる。この世界の「中の人」について調べてみると、観光学を「ど真ん中」で学んで来たような、いわゆる研究者教員は多数派に及ばず、ツーリズムの実務経験を持つ「観光学者」が自身の経験に紐付いた狭い見識を背景にして、「とうの昔に陳腐化した知」を披露している様子に出くわすことが想像以上に多い。アウトプットに物足りなさを醸し出していようとも、そうした人が「偉い人」として教育機関で幅を利かせているものだから、周りは誰も何も言わないし言えない。そんな「昔話」に付き合わされる学生は不幸だ。


 「ツーリズム業界の新規事業には革新的要素がない」との業界誌記事を今回抜粋して掲載した。この特徴は産業界に限らず、アカデミック分野から目新しい学説がなかなか伝わってこない点にも類似性がみられる。どうにも古い見識に捉われているようで、そもそもここ数年のIT系スタートアップ企業によるツーリズムへの「侵攻」の潮流や、変質した消費者ニーズに対する、理解やその対応策をどれほどの研究者が考えているのだろうかと思う。産学連携という言葉が登場して久しいものの、いまだツーリズムの世界においては、企業から大学への期待値が高まることはなく、その逆もしかり。だから、地元・別府の行政や経済界と一体となって、観光教育に力を入れている立命館アジア太平洋大学の動きは、それはやたらといい意味で目立つ。メディアを賑わす種々の取り組みを見ているだけでも、「TedQual」の取得は納得できるほどだ。


 高度専門職業人がどう転んでも不足しているツーリズムにおいて、それを養成する専門職大学院のさらなる設置が待たれる。そのための最大の課題は教員数の不足だが、あまりにも保守的で革新性に乏しいツーリズムの産業界・教育分野に一石を投じるような人材が登場し、持続可能性を第一に考えたアウトプットの登場が実現しないものだろうか。「賞味期限」を過ぎたような知ではなく、真の産学連携を可能とする、知識や考え方がアップデートされた知見を備えた実務家教員の登場が待たれる。




TOPIC:A

企業人が大学で教える「実務家教員」のニーズが拡大
2018年10月号 月間事業構想より抜粋

複雑化した社会課題に対応するためには、実務家教員からの学びが重要だ。しかし、企業人がそのまま教壇に立てばよいという訳ではない。実務家教員は、実務経験・教育指導力・研究能力という3つを習得する必要がある。




TOPIC:B

頼りないツーリズム産業
2019.03.11(月)TRAVEL JOURNALより抜粋

ニューヨークで設立されたツーリズム関連情報を取り扱うサイトが、「私が見つけたツーリズム産業の21の不都合な真実」というユニークな記事を発表していることに気づいた。論調は皮肉交じりの冗談という雰囲気だが、本気の気配もあり興味深い。ポイントだけ紹介する。(2)ツーリズムの発展にツーリズム産業自体の寄与はほとんどない。(3)ツーリズム産業界は変化を嫌う。にもかかわらずエアビーのような抗えない変化には自分たちのおかげだと主張。(4)ツーリズム業界の新規事業にはほとんど革新的要素がない。創造的なものは業界周辺の小企業が開拓。(20)ごく少数の例外を覗き、旅行やホスピタリティーの教育機関では若い人に古臭い仕事のやり方しか教えていない。生徒のほうが新しい潮流を知っている。 これは違うというものもあるし、欧米中心の見方もあって、すべて正しく面白いわけではない。また、読者によっては腹立たしく感じる部分もあるかもしれないが、日本のメディアではなかなか見られないもので、こうした自己批判的視点が業界紙で流されるところは見習ってよい気もする。