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「宇田川源流」【日本報道検証】 実り無き米中首脳会談の意味するもの

2026.05.20 22:00

「宇田川源流」【日本報道検証】 実り無き米中首脳会談の意味するもの


 毎週火曜日と木曜日は、「日本報道検証」として、まあニュース解説というか、またはそれに関連するトリビアの披露とか、報道に関する内容を言ってみたり、または、報道に関する感想や社会的な問題点、日本人の文化性から見た内容を書き込んでいる。実際に、宇田川が何を感じているかということが共有できれば良いと思っているので、よろしくお願いいたます。

 さて今回は、5月14日・15日に北京で行われた米中首脳会談について、その内容を検証し、そのうえで、その内容から見える日本の問題を見てみたいと思います。

さて、この会談は世界で注目されていました。私がいつもここで記載している「21世紀型冷戦」の両巨頭が直接会談するのですから、注目されないはずがありません。当然にメディアは不毛な「勝ち負け」をつけたがるのですが、実際はどうなのでしょうか。

まずは、この会談で決まったことを見てみましょう。

・ 「建設的・戦略的な安定関係」の構築:両国関係の新たな枠組み(パラダイム)として、この関係性を目指していく方針で一致しました。中国側はこれを「協力を主とする積極的な安定」「節度ある競争」「意見の相違の管理」と定義しています。

・ ホルムズ海峡の開放:中東情勢の緊張が続く中、ホルムズ海峡の開放を維持すべきだという認識で一致しました。

・ イランへの軍事支援否定:トランプ大統領の明かし方によると、習主席は「イランに軍事支援は行わない」と明確に述べたとされています。

・ 対話枠組みの活用・新設:政治・外交、および軍同士の意思疎通ルートをさらに活用すること、ならびにAI(人工知能)に関する対話の枠組みを設けることで一致しました。

・ 経済・貿易での休戦と協議継続:関税についてはいったん「休戦」とし、貿易拡大や摩擦解消に向け、対等な協議を継続していく勢いを維持することで合意しました。

 この他に、習近平国家主席が台湾問題を「米中関係で最重要の問題」とし、「誤って処理すれば両国が衝突する恐れがある」とトランプ大統領を直接強く牽制したという報道がありますが、その剣に関しては全く合意がされていなかったということになります。この他にも、ウクライナの件やイスラエルの件、アフリカの資源の件や、南米の漁業の件、宇宙開発の件など、両国の間にある問題は様々あるはずですが、これらの他の課題は全て棚上げされたということになります。

<参考記事>

トランプ氏訪中、乏しい成果 構造問題・対立点は置き去り、中国ペース目立つ

5/15(金) 20:28配信 産経新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/fa876496fe7508b83893cfff341d2518f9c79a93

<以上参考記事>

 実際に何の成果もないのが今回の米中首脳会談であったということになります。ではなぜそのようになったのでしょうか。

アメリカは明確なホルムズ海峡防衛に中国を出すことはできず、ウクライナに関しても話し合いはなかった。一方中国は台湾に関してアメリカの介入を否定できず、台湾問題がディールの材料になった。これは双方とも国内が安定しておらず思い切った主張ができなかった事が一つの理由であろうと考えます。

アメリカに関して言えば、トランプ大統領は「海峡開放で一致した」と成果をアピールしていますが、中国が中東に独自の艦隊を派遣して米国主導のシーレーン防衛に参加するという具体的な軍事的関与の約束は一切ありません。アメリカはイランへの先制攻撃により、国際社会や国連からの反発に直面し、中東での孤立感を深めていました。中国に「イランへの軍事支援を止める」と言わせるのが精一杯で、米国の肩代わりをさせるような実効的なディールは成立していません。また、ロシアとの関係悪化を恐れる中国側への配慮や、米中双方の優先順位(米国は中東・中国は台湾)のズレから、ウクライナ問題は実質的に実のある議論を避けられ、棚上げ状態となりました。

これは会談当時のトランプ大統領の支持率は36%前後と低迷しており、燃料価格の高騰に伴うインフレ再燃リスクに国内の不満が高まっていました。中東戦線の拡大は自身の支持基盤からの離反を招くため、トランプ大統領はこれ以上の戦争(台湾有事など)を何としても避けたいのが本音です。そのため、中国に対して全面的な経済戦争(2025年のような激しい関税合戦)を仕掛ける余裕はなく、中国から「巨額の対米投資・製品購入」という目に見える経済的果実を国内向けに持ち帰ることが最優先となり、外交的な大勝負に出る力を欠いていました。

一方、中国の事情はどうでしょうか。

習主席は「台湾問題は最重要のレッドライン」と強く警告したものの、トランプ大統領から「軍事介入しない」という言質を勝ち取ることはできませんでした。トランプ大統領は訪中直前に140億ドルの台湾向け武器売却の承認を意図的に遅らせ、会談後に「近く決断する」と含みを持たせています。これはまさに、台湾への安全保障供与が「中国から経済的・外交的譲歩(ボーイング機200機購入や農産物買い付けなど)を引き出すためのビジネス的なディール(取引)の材料」として扱われている実態を裏付けています。

同時に、レッドラインを言ってしまったということは、逆に言えば、そこまでは台湾に介入しても中国とアメリカは衝突しないということを中国側から表明してしまったということになります。

中国国内は長引く不動産不況や需要の低迷、株価対策に追われており、これ以上の米国による経済的締め付け(デカップリング)に耐えられる状態ではありません。さらに、中国軍(人民解放軍)のトップである国防相経験者2人に死刑判決が下されるなど、軍内部の大規模な粛清(排除)による組織の動揺が続いていました。軍の体制が足元で不安定な中、習政権にとって最悪のシナリオは「米国を過度に刺激し、台湾有事を今すぐ誘発してしまうこと」です。そのため、表面上は強く台湾問題を警告しつつも、実際には「建設的・戦略的な安定関係」というマイルドな言葉で決定的な衝突を回避し、時間稼ぎを優先せざるを得ませんでした。

今回の会談の結果(表面的な「友好演出」と「決定的な合意の不在」)から推測すると、近未来の米中関係は「決定的な衝突(戦争・全面禁輸)は避けつつも、実質的な対立と包囲網の形成がじわじわと進む『管理された冷戦(局所的ディール期)』」へ移行していくと推測されます。

この米中の近未来像は、日本にとって大きなリスクを孕んでいます。トランプ大統領は訪中直後、エアフォースワンから日本の高市首相に電話会談を行って内容を共有しましたが、米国が中東情勢や自国のビジネス実利を最優先し、安全保障上の最重要課題(台湾問題やシーレーン防衛)で日本を「頭越し」にして中国と二国間ディールを成立させてしまう懸念が強まっています。近未来の米中関係は、「握手をしながら、水面下で足を踏み合う関係」です。お互いに国内の致命的な弱み(米国のインフレ、中国の経済・軍不況)を抱えているため、表立って殴り合う体力はありません。しかし、構造的な不信感(台湾・先端技術)が解消されたわけではないため、「次の決定的衝突までの時間を、経済取引という麻酔で引き延ばしている状態」が続くことになります。