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独学で鳥の剥製を頑張るあなたへ。

2026.05.30 11:00

こんにちは。鳥類担当こりんです。


個人で鳥の剥製標本を製作されている方は、どれぐらいいらっしゃるでしょうか。

またそのなかで、剥製技術を教えてくれるワークショップや施設・団体が物理的に遠く、独学で必死に頑張っている方はどれほどいらっしゃいますでしょうか。

私もその中のひとりでしたし、今もそうです。

このブログが、ひとりぼっちで鳥に向き合うあなたの、ちいさな応援になれば幸いです。


【献体が集まらない】

鳥の剥製は、哺乳類や爬虫類などの剥製とはまた違った難しさがあります。皮の薄さ、羽の流れ、針金を通す足の細さなど……。

哺乳類・爬虫類・魚類はあんこ(胴芯)の形がダイレクトに見た目に出ますが、鳥の場合はあんこの形がそれを覆う羽の流れにどう影響を与えるか、独学なら作って確かめていくしかありません。

でも、手元に来る献体は少ない。そうではありませんか?

博物館や観察館、剥製専門店でもない限り、献体は集まらないのが通例です。

私も、1年間新規の献体がひとつもない、ということもザラで、基本は自分で探して見つけて拾う、運が良ければ他の人が見つけたよと送ってくれる、入手ルートはそんなところです。

そして、それならば、少ない献体で上手くなるしかない。独学者に残された道は、これだけ。

でも、剥製ってやっぱりたくさん数をこなさないといけないんでしょう?

私はそんなことはないと思います。ただ考えなしに数をこなすことよりも、大切なことはあります。


【剥製士である前に、観察者であれ】

一見、献体数の多い博物館や観察館、剥製社のほうのほうが有利に見えますよね。

では反対に、独学で、個人でやっている人の強みはなんでしょうか?

答えは、「好きなポーズを作れる」ということ。

博物館や観察館では、業務上必要な形を求められたり、保管スペースの問題で仮剥製しか作れなかったりします。剥製社も然りです。

でも、私たちは自由です。

どんなにスペースを取るポーズを作ったとしても、怒る人はいません。

ならば、「その鳥が、最もそのその鳥らしくあるポーズ」「自分の観察経験のなかで印象に残った瞬間」を作っていきましょう。

そのためには、まず手を動かす?違います。

「野鳥観察」から始めるんです。古い言い方をすると、「半年ROMれ」といったところです。

実際には鳥は1年の間に見られる種類も成長具合も行動も変わるので、最低2年はROMってほしいところ。

写真を撮るのもいいでしょう。どんなに下手でも、簡単に絵におこしておくのもいいと思います。

2年も観察すれば、あら不思議、「この鳥って他の鳥と違ってこういうポーズするよな」とか、「いまの枝への止まり方かっこよかったなあ!」とか、小さな気づきや印象に残る瞬間が増え始めます。

そうやって心の中に、その鳥らしいポーズ、素敵な瞬間のアルバムを作りましょう。

観察しにくい鳥は、画像検索をしたりYouTubeなどを見たりするのもおすすめですよ。

狩りをするササゴイ

失敗だった上にあまり見ない大胆な飛び込みでしたが、これはこれで剥製のポーズの候補としては面白いんじゃないかと思っています。


【剥製を作る前の瞑想時間】

作りたいポーズができた。よし、取り掛かろう!

ちょっと待ってください。作り始めたらなんとかなると思っていませんか?試行錯誤していいほどの献体数があるんでしょうか?

手を動かす前に、野鳥観察と並行して行うこと。それは、「イメージトレーニング」です。

でも、そもそも何をどうイメージしたらいいのかわかりませんよね。

そこでおすすめなのが、Instagram。アカウントのない人は作りましょう。

「Taxidermy」で検索すれば、海外の方が上げてくださっている剥製の制作投稿やリール動画がたくさん出てきます。

もちろん一から十まで全編とはいかないものの、重要なところをつぎはぎして動画を作ってくださっているので、たくさん見ていきましょう。羽の乾かし方や整え方、針の刺し方などいっぱい参考になりますよ。英語ができれば、質問することもできます。

漫然と見るのはいけません。「なんでこのアンコはこんな窪みがあるんだろう?」「なんで針金をこの角度で刺すんだろう?」細かいことに気をつけ、疑問をどんどん出していってください。

そして、考えます。いろんな動画を見ながら頭の中でたくさん考えると、「アンコの窪みは翼の上腕骨に巻いた脱脂綿をおさめるポケットになっているんだな」「この角度で針金を刺さないと翼を広げた時に翼を支えきれないんだな」と、気づくことができます。

このインプットと長い思考が、次のステップへの足掛かりになります。

交流はできませんが、YouTubeでも剥製の制作動画を上げてくださっている人がいるので、そちらも覗いてみてください。文明っていいね!


【焦らずに取り掛かってみよう】

ここまでに長い長い時間をかけて、ようやく剥製作りに取り掛かってみましょう。

剥製の作り方については割愛します。みなさんご存知だと思いますし……。

最初はうまくいかないものです。イメージよりもぜんぜんうまくいかなくて、焦ったりもするでしょう。でもまずは、焦る気持ちをおさえて、目の前の一羽の命に向き合ってください。

その鳥はどんなふうに生きてきたんだろう。どう死んだんだろう。苦しまなかったかな。たくさんのことを考えて、愛着を持って作ってください。

できた剥製が不恰好でも、結局剥製の形にならなくて部分標本になってしまったとしても、大丈夫です。……ここで、何も考えずに次の献体に着手しなければ。

いったん休憩しましょう。我々は献体数も多くないし、ノルマもありません。

いったん休んで、自分の剥製作り、どこが難しかったかな、なんであんな形になっちゃったかな、とひとつずつ考えていきます。

総排泄孔のまわりを切り離すのに失敗しちゃったな、腰を剥くのが難しかったな、義眼の角度が合ってなかったかも。次列風切が浮いてきちゃうのはなんでだったかな、重心がうまくとれなかったのはどうしてだろう。

たくさん考えたら、また「イメージトレーニング」の部分に戻って、疑問を解決して、それらを上手に解決する未来が思い描けたら、ようやく次の献体に進みます。

命のひとつひとつに対して愛着と執念を持って記憶・制作することができるのも、献体数の少ない個人勢のもてる強みかもしれません。


【たくさん作れないから、別ルートを考える】

ある剥製社さんに義眼を買いに出向いた時、こう言われました。

「まず1000体作りなさい。」

思いました。いや無理ですよ、と。

剥製社と違ってこっちは得られる献体は少ないんやから。正直、悔しかったです。お前には無理だと言われているみたいで(実際そういう意味だった可能性もありますが)。

だから、献体が少なくても上手くなるために、別ルートを探しました。

それが、先ほど示した「たくさんインプットしてとにかく考える」方法です。私には剥製の疑問を解決してくれる先人は本当にただの一人もいなかったので、正真正銘の「自分で切り拓いた道」です。王道なんかじゃなくて藪の中の獣道ですけど……。

必要なのは、いつだって全力でやること。手を動かす中で試行錯誤すればいいというやり方が許されない私たちは、ひとつひとつの命に丁寧に魂を込めて向き合っていきましょう。

「技術が足りなくてできない、悔しい」という気持ちを大切にしましょう。「面倒だからやらない、やりたくない、知ろうとしない」は論外です。分からないことがあれば、誰でも、私にでもいいです、質問をしてください。

扱っているのは命だということを、忘れないでいたいものです。


【寄せられたお悩み】

ここからは、実際に私のところに寄せられた剥製のお悩みを紹介していくコーナーです。


・最初に切開した長さが、縫う時に確認すると範囲が広がって長くなっている

鳥あるあるです。鳥は皮膚が薄く少しの力で裂けやすいため、知らず知らずのうちに広がってしまっています。タチが悪いのは、真っ直ぐ裂けるのではなくてどちらかの脚の方向に向けて裂けていくんですよね……。

解決策はふたつ提示できます。まずひとつはパワープレー。

背中まで裂けるということがないのであれば、最後に縫う長さが長くなるだけ、と考えることです。状態によっては非常に皮膚の裂けやすい子もいるので、諦めの境地に達するのも手です。

ふたつめは、切開した下端よりも下側(おしり側)にむけて剥く時に、切開線の下端を指でしっかりつまんで、これ以上切開面が広がらないように気をつけながら剥皮する方法です。下端を紙ではさんで、それを小さなダブルクリップで挟んで作業してもよいと思います。

まずは大きめの鳥(ヒヨドリやカラスなど)から裂かずに剥皮するのを練習していきましょう。


・羽が変な方向に向く、ひっくり返る

こちらも体羽あるあるです。原因はいくつかありますが、一番多いのは羽を乾かす際に変な癖がついてしまう場合、次に多いのはあんこの形が合っていないせいで、羽があらぬ方向を向く場合です。

羽を乾かす際に変な癖がついてしまう場合ですが、ドライヤーで羽を乾燥する際、いろんな方向から風を当ててしまっていませんか。また、野鳥の乾燥に歯ブラシを使ってしまっていませんか。可能な限りドライヤーホルダーなどを使ってドライヤーを固定し、頭から尾羽の方に風が流れるようにして乾燥作業をしてください。その際用いるのは先の尖ったピンセット一本で、頭の先から順々に、羽一枚ずつを持ち上げて羽枝を広げていってあげてください。

……それでも変な癖のつく羽はいます。一箇所からごそっと抜かなければ仕上がりが破綻しないことが多いので、体羽1〜2枚であれば根本から抜いてしまっても大丈夫です。

次にあんこの形が合っていない場合ですが、あんこの形を見直す必要があります。鳥の皮膚は肉に完全に沿っているわけではなくて、たとえば首の後ろなどは皮膚の「たまり」になっています。首を長く伸ばした時にそこの皮膚が伸びます。その皮膚のたまりをつくる空間が胴芯と首のあんこの間に十分にあるかどうかや、逆に肉にぴったりつく部分(太ももなど)にあんこがしっかり入っているかを確認して、改善点があればあんこを作り直してみてください。


・長く冷凍していたせいで皮が裂けやすい

長く冷凍しちゃうこと、ありますよね。向き合う時間がとれない、考えてたら時間が経ってた、人によって理由はさまざまです。

まず、生きている鳥と、死んだばかりの鳥の皮膚は、水分を多く含んでいて「もちもち」です。冷凍庫に入れる時間が長くなると、水分が抜け皮膚は薄紙のように「ペラペラ」になっていきます。

重要なのは、「水分を戻してあげること」。長いこと冷凍庫にいた子は剥製にする前に冷蔵庫に移して一晩ゆっくり解凍することにして、その際に目の周り・脚・お腹の皮膚の周りに濡らした脱脂綿を巻いておきましょう。

状態の悪い個体でなければ、凍ったまま石鹸水にどぼんと浸けて皮膚までしっかり濡らして、羽が濡れたまま冷蔵庫に入れてゆっくり解凍してあげると、全体的に水分が戻って皮膚が裂けにくくなりますよ。


・次列風切、体羽が落ち着かない

次列風切が落ち着かないのは、多くの場合は翼の中の針金に巻いた脱脂綿と胴芯が干渉し合って羽が跳ね上がってしまっている状態です。上腕骨の部分には脱脂綿を巻かないか、胴芯の方に脱脂綿の収まる空間をつくってあげると解決します。

他には翼に通した針金を胴芯に接続するその位置が合っていない場合です。いちど針金を抜いて自然に翼をたたんでみせ、接続部を見極めて胴芯に印をつけます。針金を通し直してあげると、次列風切が自然に落ち着くようになっていると思います。

体羽に関しては先述の項(羽が変な方向に向く、ひっくり返る)を参考にしていただいた上でさらに申し上げると、あんこの形が合っていると実は、体羽を整える作業というのはほとんどありません。

台座に固定し、顔の位置を決めてから頭から尾羽に向かってドライヤーの弱風を流すと、自然に羽が整います。羽が最も自然に広がる角度をドライヤーで探し、風を止めた後、乱れているところを直してあげるだけです。もし羽が浮いてきてしまったり、沈み込んでしまったりしたら、沈み込んだ箇所には羽の下に小さく切った脱脂綿を入れて羽を持ち上げてあげ、浮いてきた箇所のある場合は、体全体に糸や脱脂綿を巻いて羽を押さえてあげると、乾燥した時に破綻のない美しい仕上がりになります。


・総排泄孔の剥皮が難しい

剥皮は文字通り「剥がす」作業ですが、明確に「切り離す」必要があるのが総排泄孔まわりの作業です。特に慣れていないと、排泄孔そのものを切り取ってしまう大惨事になったりします。しかも、内臓がやや自己融解していたりすると、余計にその境界は不明なものになっていきます。

ここが目印!ということが言えないので、対症療法的ですが解決策を置いておきます。

まず直腸を引き出し、明らかに腸と言える部分を鉗子(ハサミみたいな形のものを挟んで固定する器具です)で挟み、その外側(総排泄孔がわ)を切ります。いったんこれで置いておいて、胴体を剥き切ってしまいましょう。胴を剥き終わったら、総排泄孔に戻ってきて、尻の穴ではない内側の腸組織を少しずつ切り落としていきます。……いかがでしょうか。


・義眼の購入方法がわからない

義眼の選び方、購入先については以前、記事にまとめました。未読の方はこちらをご覧ください。

とはいえ海外のショップサイトってわかりづらい……そう思いませんか。実はそれ、結構先入観だったりします。特に初心者におすすめしたい「Taxidermy by.」のサイトはわかりやすく、カートにどんどん放りこんで合計金額を確認し、決済するだけ。ZOZOTOWNやAmazonなどと一緒です。

McKenzieなどは商品重量によってあとから送料連絡が来て、それから決済(その間にちょっとだけメールのやり取りが発生する)という少しだけ複雑なシステムですが、こちらも理解してしまえばあまり問題はありません。

よく手元に来る鳥種の義眼や、いつか剥製を作ってみたい子の義眼などをまとめて買っていくといいと思います。

ただし、為替レートのチェックは忘れずに。ウィジェットで最新のレートを表示してくれるスマホアプリなどがあるので、常にチェックして、円高ドル安に傾いたタイミングで買いましょう。「Taxidermy by.」は定期的に20%オフのセールを開催しているので、それを利用するのもありですよ。


・翼標本を作ってしばらくすると、羽に脂が染み出してくる

もしかして、「髄抜き」をせずに作成していませんか。

鶏の手羽元を食べる機会があったら、いちど骨を割ってみてください。たくさんの脂と一緒に骨髄が出てくるはずです。もうお分かりかと思いますが、鳥の骨の中にはたくさんの脂が詰まっています。そして、作成後しばらくして染み出してくる脂の正体は、たいていこれです。

必要なのは、骨髄を抜いてあげること。骨の両端2箇所にピンバイスなどで穴を開け、一方の穴からシリンジで水を勢いよく流し込んで髄を抜きます。水だけが出てくるようになったらOKです。スズメサイズなら問題にならないことも多いですが、ヒヨドリやキジバトあたりからは面倒がらずに抜くようにしましょう。


・標本ラベルに何を書けばいいかわからない

剥製につける標本タグには、表裏にわたって以下の項目を記録しておきます。

管理番号(あれば)、種名、性別、年齢、拾得日、拾得場所(ここまで表)

自然翼長、尾長、跗蹠長、露出嘴峰長、体重、平板翼長、全長、翼開長(ここまで裏)

必要に応じて拾得者や標本作成者の名前も追加してください。


もし、疑問に思ったことがありましたら、周りで剥製をやっている人(もちろん私でもいいです)に訊いてみましょう。

私は、「剥製を作る」という技術は特権階級のものだとは思っていません。剥製を作る技術は誰にでも習得可能で、普遍的なものであるべきだと思っています。

しかし現状、日本語で書かれたマニュアルは入手困難か、あっても古いものが多いです。剥製を教えてくれる機関やワークショップに、みんなが行けるわけではありません。

英語のマニュアルはいくつかありますが、気をつけるべき小さなポイントまで網羅しているわけではありません。疑問があっても、ひとりでは解決できないことも多いでしょう。

なので、こんな獣道からですが、私は自分の持っているものを少しでも発信できたらと思っています。

再度になりますが、「数を作る」ができない私たちにも、上手くなる道はきっとあります。

今日も手元に来た鳥の命に感謝をして、丁寧に向き合っていきましょう。

それでは、また。