「宇田川源流」【日本報道検証】 イランの和平交渉はどのようになっているのか?
「宇田川源流」【日本報道検証】 イランの和平交渉はどのようになっているのか?
毎週火曜日と木曜日は、「日本報道検証」として、まあニュース解説というか、またはそれに関連するトリビアの披露とか、報道に関する内容を言ってみたり、または、報道に関する感想や社会的な問題点、日本人の文化性から見た内容を書き込んでいる。実際に、宇田川が何を感じているかということが共有できれば良いと思っているので、よろしくお願いいたます。
さて今回は、アメリカとイランでどうしても食い違ってしまう「イラン戦争の和平交渉」についてみてみましょう。今回は私のところに入ってきている情報をもとに、様々なことを書いてみたいと思います。
そもそも、日本の報道ではあまりよくわかっていないことが多いようで、「大統領」とか「宗教的指導者」とか、そういったことが非常に多く出てきていて、誰がどの役割だかよくわかっていないように感じます。
そもそも、イランはイランイスラム革命までは王国でしたが、イスラム革命で、イスラム教の宗教的な支配というようなことを行うようになったのです。その事から、「イスラム教的宗教指導者」が国家のすべての権力を持っていて、大統領が元首ではありません。当然に、イスラムの外交権も、また、イスラム革命防衛隊の指揮権なども全て宗教的指導者が持っているということになります。つまり、大統領や外務大臣と交渉をしてもイスラム革命防衛隊は、宗教指導者の命令がなければ戦いをやめることがないということになります。ある意味で、昭和初期の軍縮会議の後に起きた「統帥権干犯問題」と同じようなことが起きており、ペゼシュキアン大統領は、国内において革命防衛隊などから「越権行為」「アメリカに妥協した」などと攻められているということになります。そのことから、和平になったとしても、その後また革命防衛隊によって否定されるということになるのでしょう。
トランプ政権はやっとそのことが見えてきたようで、「モジタバ師と会う」と言っていますが、そのモジタバ師は、現在「話すことのできる状況にあるのか、危篤状態が続いているのかも不明」というのが正しい状況です。一方和平ができそうでできなくなる原因である革命防衛隊に対して、アメリカは沿岸部で攻撃をするなどが行われています。
日本のニュースでは、このようなイランの政治や軍に対する指揮権の問題などが全く報じられていないので、日本でニュースだけを見ている人々は、まったく何が起きているのかわからないとか、トランプ政権の交渉がうまくいっていないように錯覚してしまいますが、実際は日本の報道が的を得た真実を報道していないだけなのです。では、そのような中で、今後どのようになるのでしょうか。
<参考記事>
なぜイランはいまだ降伏しないのか…指導者層が次々殺されたボロボロのイランを動かす「71歳の黒幕」
5/26(火) 7:15配信 プレジデントオンライン
https://news.yahoo.co.jp/articles/ec24c43c5a4e62ffec99b478f9cb71485a79d284
<以上参考記事>
イランの和平交渉において、米中首脳会談において中国がアメリカにクレームを言わなかったのに対して中ロ首脳会談ではアメリカを非難するという矛盾した対応を中国がとっています。このことからイランは独自に、またはロシアと協力するということで中国をあてにできなくなったという見方が出ています。つまり、中国の外交姿勢をどのように理解するかが重要になります。
中国は伝統的に中東問題において「反米」を掲げながらも、実際には国益を最優先する現実主義外交を行っています。そのため、米中首脳会談では対米関係の安定化を優先してイラン問題で強い対決姿勢を示さず、一方で中ロ首脳会談ではロシアとの戦略協調を演出するためにアメリカ批判を行うことは十分にあり得る行動です。
イランから見れば、このような中国の対応は決して頼もしいものではありません。中国はイラン産原油の最大級の購入国であり、経済的には極めて重要な存在ですが、軍事的にイランを守る意思は見せていません。実際、中国は中東でアメリカ軍との直接対決を避け続けており、台湾問題や南シナ海問題を抱える中で、イランのために対米衝突を引き起こすとは考えにくい状況です。
その結果、イラン国内では「中国は経済パートナーではあるが安全保障の保証人ではない」という認識が強まる可能性があります。
特にこの認識を強く持つのが革命防衛隊です。
革命防衛隊はもともと中国を同盟国とは考えておらず、むしろ自力による抑止力構築を重視してきました。彼らにとって重要なのは、中国やロシアが助けてくれることではなく、「アメリカが攻撃した場合にどれだけ高い代償を払わせられるか」という点です。
そのため、中国への期待が低下した場合、革命防衛隊は逆にミサイル戦力、無人機戦力、サイバー戦能力、地域代理勢力との連携をさらに重視する可能性があります。
一方でロシアとの関係はやや複雑です。
ロシアはイランとの軍事協力を深めていますが、現在のロシア自身が長期的な戦略負担を抱えています。そのため、イラン国内でも「ロシアは重要なパートナーだが、最終的には自国の利益を優先する」という冷静な見方が存在します。
実際、イランは歴史的にロシアへの警戒感も根強く持っています。十九世紀にはロシア帝国との戦争で領土を失い、二十世紀にもソ連の干渉を受けた経験があります。そのため、革命防衛隊がロシアと協力を強化するとしても、それは対等な戦略協力であって、全面的に依存する形にはなりにくいでしょう。
この状況が和平交渉に与える影響は興味深いものがあります。
通常であれば、中国やロシアという後ろ盾が強ければ強いほどイランは強硬姿勢を取りやすくなります。しかし逆に、中国が距離を取り、ロシアも限定的支援しかできないとなれば、イラン指導部は制裁解除や経済再建の必要性をより強く意識するようになります。
特に現在のイラン経済はインフレ、通貨安、若年失業率の高さなど多くの問題を抱えています。国民生活の改善を求める声も強く、政府としては一定の外交的成果が必要になります。
そのため、大統領や外務省系統はむしろ交渉継続に積極的になる可能性があります。
しかし同時に革命防衛隊は、交渉が進むほど自らの影響力が低下することを警戒します。
革命防衛隊は軍事組織であるだけでなく巨大な経済組織でもあります。制裁下経済の中で形成された独自の経済ネットワークを持っているため、急激な対米和解は必ずしも歓迎しません。
したがって今後のイランでは、「外交による制裁解除を目指す政府」と「抑止力維持を重視する革命防衛隊」の間で微妙な均衡が続くと考えられます。
中国を当てにできないという認識が強まれば、革命防衛隊はより自主防衛路線へ傾き、政府はより現実的な外交路線へ傾く可能性があります。結果として、イラン全体としては全面対決よりも限定的な妥協を模索しながらも、軍事的な圧力手段は決して手放さないという二重戦略が強まるでしょう。
つまり、中国の曖昧な態度はイランを完全な強硬路線へ向かわせるというよりも、むしろ「外では交渉を続けながら、内では革命防衛隊を中心に抑止力を強化する」という現在の傾向をさらに強める方向に作用すると考えられます。そしてその結果、米国との関係は全面的な和解でも全面的な対決でもない、不安定ながら管理された緊張状態が続く可能性が高いと思われます。
一方、ロシアは財政的にウクライナとの戦争を継続することも危ういと伝えられており、その中でイランとの軍事的提携を強化していますが、イランの戦争に関与できるような外交力や軍事力はありません。そのような中でイランの政治的な立場の人々は和平を行いたいが、革命防衛隊がそれを許さず、国内が分断されているのではないか、昭和初期の統帥権干犯問題と同じような状況になっているのではないかという見方が出ています。
ただし、昭和初期の日本の統帥権干犯問題と完全に同じと見るよりも、「類似点もあるが重要な違いもある」と考えた方が実態に近いでしょう。
昭和初期の日本では、軍部が天皇の統帥権を根拠として政党内閣や議会の統制から事実上独立し、やがて満州事変や日中戦争などで現地軍の行動が政府の外交方針を追い越していきました。その結果、外交と軍事が別々の方向へ進み、最終的には政治指導部が軍部を統制できなくなりました。
一方、イランの場合も、大統領や外務省が外交交渉を進める一方で、革命防衛隊が独自の軍事的影響力を持っているという意味では似た構図があります。特に革命防衛隊は軍隊であるだけでなく、情報機関、経済組織、政治勢力としても巨大な力を持っています。石油、建設、物流、通信など広範な分野に影響力を持ち、国家の中の国家とも呼ばれる存在です。
しかし決定的な違いがあります。
昭和初期の日本軍は制度上、内閣から相当程度独立していましたが、イランの革命防衛隊は最高指導者に直属しています。つまり革命防衛隊は勝手に存在しているのではなく、体制そのものの中核なのです。
そのため、現在のイランで見られる対立は「政府対軍部」というより、「体制内の現実派と強硬派の綱引き」と表現した方が正確でしょう。
現在のイランでは、経済状況を考えれば和平や制裁緩和を望む勢力が確実に存在します。政府官僚、外務省、経済界、都市部の中間層などは、アメリカとの一定の妥協によって経済再建を進めたいと考える傾向があります。
一方で革命防衛隊や保守強硬派は、アメリカとの和解によって革命体制そのものが弱体化することを警戒しています。
革命防衛隊にとっては、アメリカとの対立は単なる外交問題ではありません。それは革命の正統性や組織の存在意義とも結び付いています。もし完全な和平が成立し、西側との関係正常化が進めば、革命防衛隊が持つ特別な政治的・経済的地位は相対的に低下する可能性があります。
そのため革命防衛隊は必ずしも戦争を望んでいるわけではありませんが、「緊張の管理された維持」を好む傾向があります。
ここでロシアの問題が関係してきます。
仮にロシアが十分な支援能力を失いつつあるとすれば、革命防衛隊にとっても計算は変わります。
これまでであれば、中国、ロシア、イランという枠組みの中でアメリカに対抗できるという期待がありました。しかし中国は経済利益を優先し、ロシアも自国の戦争で余力を消耗しているとなれば、最終的に頼れるのは自国の軍事力だけという現実が見えてきます。
その場合、革命防衛隊の内部でも意見が分かれる可能性があります。
一部は「だからこそ核開発やミサイル開発を加速すべきだ」と主張するでしょう。
一方で別の勢力は「後ろ盾が弱まった今こそ体制維持のために妥協が必要だ」と考える可能性があります。
実際には革命防衛隊も単一組織ではなく、多様な派閥や利害関係を抱えています。外から見るほど一枚岩ではありません。
したがって現在のイランを「和平派と革命防衛隊の対立」と単純化するよりも、「政府内の現実派」「宗教指導部」「革命防衛隊内部の各派閥」「経済界」「地方保守層」などが複雑に駆け引きをしている状態と見る方が適切です。
ただし、あなたが指摘された昭和初期との類似点が全くないわけではありません。
外交的合理性から見れば妥協した方が有利であっても、安全保障組織やイデオロギー組織が強い発言力を持つため、国家全体として柔軟な方向転換が難しくなるという現象は確かに共通しています。
現在のイランは、かつての日本のように軍部が完全に暴走している段階ではありません。しかし「外交的現実」と「革命体制の理念」の間で深刻な緊張関係を抱えていることは事実であり、その矛盾が今後の米国との和平交渉を左右する最大の要因の一つになっていると考えられます。
さらに言えば、中国の距離感とロシアの余力低下が続けば続くほど、イラン指導部は「革命の純粋性を守るのか、それとも体制を守るために現実的妥協を選ぶのか」という選択を迫られることになります。その選択は単なる外交問題ではなく、1979年のイラン革命以来続いてきたイスラム共和国のあり方そのものを問う問題になっていく可能性があります。
日本の昭和初期と、イラン、今は何となく似ているということで、ある意味で参考になるのではないかと考えられるのです。