【社長必見】新しい発明を思いついたとき、補正・分割出願・新規出願のどれを選ぶべきか?
「先生、出願した後にもっと良いアイデアが出てきました。」
これは、中小企業の社長様や開発担当者様から非常によくいただくご相談です。
例えば、
- 試作品を作ってみたら改良案が見つかった
- 展示会の準備中に別のアイデアが出てきた
- 顧客からの要望で新しい機能を追加した
というケースです。
このような場合、
「今の出願を修正すればいいのですか?」
と質問されることが少なくありません。
しかし、特許法では、
- 手続補正
- 分割出願
- 新規出願
という異なる制度があり、選択を間違えると権利化できるはずの発明が守れなくなることがあります。
まず結論
社長様が最初に確認すべきポイントは一つです。
「新しい発明が、最初の出願書類に記載されているか?」
です。
次の図をご覧ください。
実は、この判断がその後の戦略を大きく左右します。
手続補正とは?
手続補正とは、出願した内容を修正する制度です。
ただし、自由に追加できるわけではありません。
例えば、 出願時に
が記載されていた場合、
補正によって
に限定することは可能です。
しかし
のように、新しい技術内容を追加することは原則としてできません。
これを「新規事項追加の禁止」といいます。
家に例えるなら、
補正は「間取り変更」です。
最初の土地の範囲内で変更はできますが、隣の土地を買って家を広げることはできません。
手続補正のメリット
- 費用が比較的少ない
- 出願日を維持できる
- 審査対応として利用できる
手続補正のデメリット
- 新しい技術内容は追加できない
- 補正の範囲や時期に厳しい制限がある
分割出願とは?
分割出願は、もともとの出願に記載されている発明の一部を独立した出願にする制度です。
例えば、
が記載されている場合、
として独立させることができます。
イメージは次のとおりです。
最大のメリット
親出願の出願日を引き継げることです。
これは非常に大きなメリットです。
出願日が早いほど、他社に対して有利になるからです。
分割出願のメリット
- 親出願の出願日を維持できる
- 権利を複数に分けられる
- 特許網を構築しやすい
分割出願のデメリット
- 別途費用がかかる
- もともとの出願に記載が必要
新規出願とは?
新しい発明であれば、新しく出願する方法です。
最もシンプルですが、出願日は新しくなります。
新規出願のメリット
- 全く新しい技術も保護できる
- 内容の制約が少ない
新規出願のデメリット
- 出願日が新しくなる
- 公開済み情報との関係に注意が必要
社長様が特に注意すべきこと
出願前に、
- 展示会で発表した
- ホームページに掲載した
- SNSで紹介した
- カタログを配布した
という場合には注意が必要です。
新規出願をしようとしても、新規性を失ってしまう可能性があります。
3つの制度の違いを比較すると
【事例①】補正で追加できると思ったら「新規事項」と判断された
ある会社では、部品Aと部品Bとからなる製品について特許出願を行いました。
出願後の試作段階で、
「この部品(部品C)を追加すると性能が大幅に向上する」
ことが分かりました。
社長は、
「それなら補正で追加すればいいのでは?」
と考えました。
しかし、最初に提出した明細書には、その部品について全く記載されていませんでした。
イメージ図
それでも、この会社は、社長のご指示に基づき、部品Cを追加する内容の補正を行いました。
すると、
特許庁は、
「部品Cは出願時の書類に記載されていない」
として、
新規事項の追加
と判断しました。
その結果、 補正内容を削除せざるを得なくなりました。
結果
権利化できた特許
本当に守りたかった発明
つまり、
一番重要な改良部分を特許にできませんでした。
社長へのメッセージ
出願後に思いついた発明は、
「補正で足せばよい」
とは限りません。
最初の明細書に書かれていなければ、
新規出願を検討しなければならない場合があります。
【事例②】分割出願を活用して権利範囲を広げた
別の会社では、 新型装置について出願を行いました。
出願時の明細書には、
が記載されていました。
ところが審査段階で、
発明Cは、発明Aとも発明Bとも技術的な関連性が弱く、
一つの特許として認められない可能性が出てきました。
社長は、発明Aが特許できればよいと思っていたので、
「ではB、Cを削除しましょう」
と考えました。
しかし、それでは発明B,Cの権利を失います。
そこで、
分割出願
を選択しました。
イメージ図
↓
結果
もし補正だけなら
になっていました。
しかし分割出願によって
を取得できました。
社長へのメッセージ
分割出願は
「権利を削る制度」
ではありません。
むしろ
複数の権利に増やす制度
です。
特許網を構築するときの重要な武器になります。
出願日を引き継げるメリットとは?
社長様からよくある質問です。
「出願日が同じって、そんなに大事ですか?」
実は非常に重要です。
タイムチャート
分割出願は2025年10月に行っています。
しかし法律上は
として扱われます。
一方で新規出願だと、
となります。
新規出願は2025年10月に行っています。
その出願日は、2025年10月の実際に出願した日です。
比較イメージ
出願日の有利さ比較
親出願の出願日を維持できるかどうかの比較
つまり分割出願は、
「後から出願するのに、昔の出願日を使える」
という非常に強力な制度です。
だからこそ、
今回のように
「親出願とは少し違う発明を思いついた」
という場合、
- 単純に補正するのか、
- 分割出願するのか、
- 新規出願するのかで、
将来の特許価値が大きく変わることがあります。
この部分は、社長様だけで判断するのではなく、早めに弁理士へ相談することをおすすめします。特に出願公開前は選択肢が多く残されているため、知財戦略上とても重要なタイミングです。
まとめ
出願後に新しい発明を思いついた場合、 「とりあえず補正しておけばよい」 とは限りません。
発明の内容によって、
- 補正が適切な場合
- 分割出願が有利な場合
- 新規出願が必要な場合
があります。
特に、出願公開前の段階は選択肢が多く残されている非常に重要な時期です。
判断を誤ると、せっかくの発明を十分に守れなくなることもあります。
もし、
- 今の出願とは少し違う発明を思いついた
- 改良技術が完成した
- 展示会前に権利化を検討したい
という場合は、お早めにご相談ください。
発明の内容を確認したうえで、
「補正」「分割出願」「新規出願」のどれが最も有利か
を一緒に検討させていただきます。