「宇田川源流」【日本報道検証】 中朝首脳会談で両首脳の考えは何か
「宇田川源流」【日本報道検証】 中朝首脳会談で両首脳の考えは何か
毎週火曜日と木曜日は、「日本報道検証」として、まあニュース解説というか、またはそれに関連するトリビアの披露とか、報道に関する内容を言ってみたり、または、報道に関する感想や社会的な問題点、日本人の文化性から見た内容を書き込んでいる。実際に、宇田川が何を感じているかということが共有できれば良いと思っているので、よろしくお願いいたます
さて今回は、中朝首脳会談に関して見てみたいと思います。まずはその首脳会談の内容を見てみましょう。
まずは会談の目的を見てみましょう。中朝双方ともに、激変する国際情勢の中で「中朝の強い結束」を国際社会にアピールすることが最大の目的でした。背景にはそれぞれの思惑があります。
北朝鮮側の思惑としては、近年、ロシアへの派兵や武器輸出などを通じてロシアとの蜜月関係(露朝関係)を急速に深めていましたが、大国である中国ともしっかりと強固な関係(「血の同盟」の再起動)を維持していることを示し、外交的なレバレッジ(交渉力)を高める狙いがありました。
中国側の思惑としては、米中関係や国際社会の動向にアンテナを張る中、北朝鮮がロシアに傾きすぎるのを牽制し、朝鮮半島における中国の影響力を改めて誇示する狙いがあったとみられています。
そしてこの会談の結果は北朝鮮側による最上級の歓迎ムードの中で行われ、主に以下の内容で一致しました。
幅広い分野での協力拡大として、外交、軍事、経済(貿易・農業・建築)、科学技術、医療、そして観光や青少年交流といった人的往来など、多角的な分野で実務協力を拡大・発展させることで一致しました。
しかし「非核化」への言及はありませんでした。国際社会が注目していた「北朝鮮の非核化」や「米朝協議」に関する具体的なやりとりや言及は、双方の発表から一切排除されました。これにより、中国が北朝鮮の立場に一定の配慮を示した形となっています。
そのうえで、伝統的友情の再確認ということで、習主席が「血で築かれた中朝の伝統的な友好関係は両国民の貴重な共有財産」と言及したように、国際情勢がどう変化しようとも両国の絆は揺るがないという「親密ぶり」を強く印象づける結果となりました。
<参考記事>
“並べて飾った2人の肖像画”習近平主席訪朝 手厚い“おもてなし”の裏にある“思惑”とは “対等の立場で”新しい中朝関係アピールか
6/9(火) 19:21配信 FNNプライムオンライン(フジテレビ系)
https://news.yahoo.co.jp/articles/af65ece7b41b51d520a659e41c8d66d2b1aaaac6
習近平国家主席が2日間の訪朝終える 中国との関係改善に専門家「北朝鮮の歴史上稀に見る一国依存」ロシア依存から脱却したい思惑か
6/9(火) 18:52配信 TBS NEWS DIG Powered by JNN
https://news.yahoo.co.jp/articles/7b16c90035add7228586ac83331370ac38405c40
<以上参考記事>
中朝ロの三か国関係、とりわけ「中国とロシアの関係悪化」という視点からこの会談を読み解くと、三か国の複雑なパワーバランスとジレンマが浮かび上がってきます。
一見すると、この首脳会談は中国とロシアの「決定的な仲違い」を意味しているように思えるかもしれません。しかし実際には、関係の決裂というよりは、ロシアの動きに対する中国側の強い警戒感や不満が、北朝鮮を引き戻すという形で「顕在化」したものと捉えるのが自然です。
ロシアはウクライナ侵攻の長期化や国際的な孤立に直面する中で、軍事支援を得るために北朝鮮への接近を急速に強めていました。ロシアと北朝鮮が軍事的な蜜月関係を深めることは、中国にとって非常に頭の痛い問題でした。なぜなら、北朝鮮が暴走して朝鮮半島の緊迫度が必要以上に高まれば、アメリカやその同盟国である日本、韓国がこの地域での軍事的な警戒や連携をさらに強める大義名分を与えてしまうからです。東アジアでの現状維持を望み、西側諸国との決定的な対立や過度な経済制裁の巻き添えを避けたい中国にとって、ロシアが自国の「裏庭」とも言える朝鮮半島をかき乱すことは、容認しがたい動きでした。
また、中国とロシアの間には、エネルギーや経済の分野でも微妙な温度差が生じています。首脳会談に先立つ中露のやりとりでも、ロシア側が強く求めていた天然ガスパイプライン「シベリアの力2」の最終契約調印が中国側の慎重姿勢によって見送られるなど、両国が完全に一枚岩ではないことが示されていました。ウクライナ情勢でロシアが中国への経済依存を強める中、立場が圧倒的に優位となった中国は、ロシアの要求をすべて飲むわけではないという冷徹な姿勢を見せています。
つまり、今回の習主席の訪朝と中朝首脳会談は、ロシアに傾きすぎていた北朝鮮に対して「真の頼みの綱は中国である」と釘を刺し、ロシア主導で朝鮮半島の秩序が揺らぐのを防ぐための防衛的な措置だったと言えます。中国とロシアは、アメリカを中心とする国際秩序に対抗するという大局的な目的では依然として手を結んでいますが、北朝鮮をめぐるアプローチや地政学的な優先順位においては、明らかな警戒心と主導権争いが透けて見える結果となりました。
中露のエネルギー協力や、今回の会談に影響を与えた直近の中露首脳会談の様子については、プーチン大統領 訪中終え帰国へ 共同声明では日本名指し批判もで、両国の共同声明の背景にある思惑や経済分野での合意見送りといった複雑な関係性が分かりやすく解説されています。
今回の会談は、東アジアの安全保障、とりわけ北朝鮮の核問題や、それをめぐる中国の立ち位置、そしてアメリカによる関与(介入)のあり方に大きな地殻変動をもたらす契機となりました。
まず、北朝鮮の核問題という観点において、この会談は極めて大きな意味を持っています。これまでの国際社会、特にアメリカや日本、韓国などは、中国が北朝鮮に対して一定の「非核化」への圧力をかけることを期待していました。しかし、今回の会談の発表では、非核化や核問題への言及が中朝双方から完全に排除されました。これは、北朝鮮にとっては自らの核保有や開発を中国が事実上容認してくれたという大きな免罪符になります。金正恩総書記としては、今後の対米交渉において「核を完全に手放す(非核化)」のではなく、自らを核保有国として認めさせた上で軍縮交渉に臨むという戦略へ自信を深める結果となりました。
次に中国の問題、すなわち中国が抱えるジレンマと戦略です。中国にとっての最優先事項は、自身の目の前にある朝鮮半島が不安定化しないこと、そしてアメリカを中心とする同盟網が中国の包囲網を強めないことです。もし北朝鮮が核やミサイルで暴走しすぎたり、あるいはロシアと手を組んで極端な挑発行為に出たりすれば、アメリカは日本や韓国との軍事協力をさらに強め、東アジアにおけるアメリカの軍事的存在感が飛躍的に高まってしまいます。これは中国が最も避けたいシナリオです。そのため習近平国家主席は、今回あえて平壌に足を運び、北朝鮮に経済的・外交的な後ろ盾を与えることで、北朝鮮をコントロール可能な自国の影響力の下に繋ぎ止めようとしました。中国にとって北朝鮮の核は脅威であるものの、それ以上に「北朝鮮の体制が崩壊すること」や「アメリカの軍事力が中国の国境近くまで迫ること」の方がはるかに大きな脅威であるため、核問題を棚上げしてでも関係強化を選んだと言えます。
そして、こうした動きに対するアメリカの介入と、今後の安全保障環境への影響です。アメリカは、北朝鮮の非核化を外交の前提条件として掲げてきましたが、中朝がこれほど強固に結束し、さらに裏でロシアも絡むという構図が出来上がったことで、アメリカによる従来の「制裁と圧力による非核化」というアプローチは事実上機能しなくなりました。中朝ロの連携によって国連の制裁網は有名無実化し、北朝鮮への経済的圧迫が効きにくくなっているからです。アメリカとしては、対話による解決が難しくなった以上、日本や韓国との防衛協力をさらに格上げし、最先端の軍事アセットをこの地域に展開するなどの「抑止力の強化」で対抗せざるを得ません。
結果として、この首脳会談は、東アジアにおける「中朝ロの権威主義陣営」と「米日韓の民主主義陣営」という陣営間の対立構図をより決定的なものにしました。北朝鮮の核問題の解決はさらに遠のき、アメリカの介入の形も、対話の模索から軍事的な抑止と封じ込めへとシフトせざるを得ない状況が生まれています。