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山岸産業医事務所

職場巡視には、ぜひ同行してください

2026.06.17 15:57

いつもお世話になっております。


私はこれまで、さまざまな業種・規模の事業場で職場巡視を行ってきました。巡視の際には、気付いた点をできるだけ分かりやすく、そして現場で実行しやすい形でお伝えすることを心掛けています。


私が職場巡視で大切にしているのは、最初から指摘をすることではありません。まずは、現場のことを教えていただくことです。


「この機械は、どのような作業で使うものですか」

「この区画線には、どのような意味がありますか」

「このメーターは、何を確認するためのものですか」

「この台車や脚立、踏み台の定位置はどこですか」

「この扉は、普段は閉め切りですか」

「この治具や清掃用具は、どこに保管されていますか」

このように、現場の方に確認しながら巡視をしています。


なぜなら、同じ場所を見ても、実際の使われ方、作業頻度、人の動線、過去のヒヤリハット、清掃や点検の方法によって、必要な対策は変わるからです。


産業医の巡視での指摘は、すべてが「法律上、直ちにこの通りにしなければならない」というものではありません。もちろん、非常口や消火設備の前に物が置かれている場合など、別の法令上の確認が必要になるものもあります。一方で、多くの指摘は、労働災害や健康障害を減らすための助言です。


そのため、私が大切だと考えているのは、指摘内容をそのまま機械的に実施することではなく、

「なぜその指摘をしたのか」

「その職場では、どの方法なら実行できるのか」

「別の方法で同じリスクを下げられないか」

を一緒に考えることです。


巡視後に、「この指摘は必ず対応しなければならないのか」「なぜ必要なのか」「この場所は普段ほとんど人が立ち入らないので、対応しなくてもよいのではないか」といった疑問が出ることがあります。


疑問を持っていただくこと自体は、まったく問題ありません。むしろ、職場で真剣に検討していただいている証拠だと思います。


ただ、指摘の意図は、その場の状況や会話の流れとセットでお伝えしていることが多いため、できれば巡視の場で直接ご質問いただけると助かります。


私の質問に対する回答が変われば、指摘内容も変わることがあります。

例えば、「この場所は誰も通らない」と思っていた場所でも、実際には清掃、点検、棚卸し、外部業者の作業、臨時対応などで人が入ることがあります。逆に、私が危険だと思った場所でも、現場の運用上はすでに十分な対策が取られていることもあります。


そのような情報をその場で教えていただければ、より現実的な助言に修正できます。


また、職場で検討した結果、今回は別の対策を行う、優先順位を下げる、あるいは現時点では対応しないという判断になることもあります。その場合も、検討した結果を記録していただければよいと考えています。


例えば、敷地内で死亡事故などの重大災害が発生した場合、ニュースでは「企業名」がほぼ必ず出ます。被災者の立場・条件が正社員・直接雇用あるいは、派遣社員・スキマバイト・外部業者・顧客・一般人 であることは、気にされません。(むしろ、どの派遣会社経由のスタッフか、ニュースでは分からないことがほとんどです)


このような場合、「従業員が普段行かない場所だから、対応不要だと考えていた」のような言い訳をしても無駄です。


大切なのは、「指摘されたから仕方なく対応する」ことではなく、職場としてリスクを理解し、実行可能な方法を選ぶことです。


2026年4月からは、高年齢者の労働災害防止対策についても、事業者の努力義務として位置付けられました。転倒、腰痛、段差、滑りやすさ、照度、視認性などについて、これまで以上に具体的な対策が求められます。


例えば、段差や危険箇所を分かりやすくするために、色の違いをつける、表示を設ける、照明を見直す、防滑対策を行うなどの方法があります。トラテープが有効な場所もありますが、材質によっては剥がれやすい、清掃しにくい、異物混入のリスクがあるなど、別の問題が生じることもあります。


だからこそ、現場の方とのコミュニケーションが重要です。

「この方法ならできそうです」

「ここに貼ると剥がれてしまいます」

「この場所は水がかかるので、別の表示方法がよいです」

「この動線は、実は朝だけ人が集中します」

こうした情報があることで、改善の選択肢が広がります。


職場巡視に、管理職の方、現場責任者の方、衛生管理者の方、設備担当の方などが同行してくださる事業場では、助言の精度が上がりやすいと感じています。回を重ねるごとに、目立つ危険箇所は減っていきます。


それでも、労働災害をゼロにすることはできません。突き詰めれば、平らで明るい通路でも転倒して骨折してしまった、というような労災はあり得ますし、十分に注意していても事故が起こることはあります。


それを踏まえてなのか、「高年齢労働者の労災防止対策の努力義務」には、労働者自身の

体力チェック(足、体幹など)の重要性も触れられています。


だからこそ、職場環境の改善だけでなく、作業方法、教育、体力、体調、年齢による身体機能の変化なども含めて、継続的に見直していくことが大切です。


私自身も、巡視中にけがをしないよう注意しています。もし職場で私を見かけた際に、「そこは危ないかもしれない」と思われたら、遠慮なく声をかけてください。


職場の安全衛生は、産業医だけで作れるものではありません。


現場の皆さまと一緒に、より安全で働きやすい職場づくりを考えていければと思います。

引き続き今後ともよろしくお願い申し上げます。