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稗田利明のエンタメワールド

終末と人生を遡る物語の輝き 稗田利明

2026.06.28 00:00

こんにちは、稗田利明です!

スティーヴン・キングの作品はこれまで数多く映像化されてきたが、本書はホラーではなく人間ドラマに重きを置いた一冊である。収録作の一つである表題作は、世界の終末が迫る異様な状況から幕を開ける。アメリカでは巨大地震によりカリフォルニアが沈み、ドイツでは火山が噴火、日本では原子炉が浸水するなど、各地で壊滅的な災害が発生。社会インフラも崩壊し、人々の生活は急速に追い詰められていく。

そんな混乱の中、街には不可解な広告が現れる。「三十九年のすばらしき歳月!ありがとう、チャック!」というメッセージと共に、チャールズ・クランツという男の笑顔が繰り返し流される。世界が滅びようとする状況で、なぜ一人の男が称えられるのか。この謎を軸に物語は進む。

本作の特徴は、物語が第三幕から始まり、第二幕、第一幕へと時間を遡る構成にある。終盤で示唆されるチャックの死を起点に、彼がどのような人生を歩み、何を抱えて生きてきたのかが明らかになる。読者は彼の人生を知った上で、再び終末の場面を見つめ直すことになるだろう。

もう一編「ハリガンさんの電話」では、「老人が一人死ぬとき、図書館が一つ焼け落ちる」という言葉が引用され、誰かの死によって失われる知や記憶の重みが描かれる。この言葉は本書全体にも通底しており、失われたものは元には戻らないが、その中に蓄えられていた価値は別の形で残り、輝き続けるという前向きなメッセージを静かに伝えている。