「宇田川源流」【日本報道検証】 防衛外交という従来の防衛省ではできなかったことに小泉大臣は挑戦している
「宇田川源流」【日本報道検証】 防衛外交という従来の防衛省ではできなかったことに小泉大臣は挑戦している
毎週火曜日と木曜日は、「日本報道検証」として、まあニュース解説というか、またはそれに関連するトリビアの披露とか、報道に関する内容を言ってみたり、または、報道に関する感想や社会的な問題点、日本人の文化性から見た内容を書き込んでいる。実際に、宇田川が何を感じているかということが共有できれば良いと思っているので、よろしくお願いいたます
さて今回は、あまり目立たない記事ではありますが、小泉進次郎大臣が、防衛省の庄内に国際関係などの業務を行う「局」を増設したいと言っていることについてみてみましょう。要するに、防衛省が独自に外交や国際関係の業務を行うということで、今まで外交に関しては、外務省だけであったのですが、外交の枠組みで「2+2」(二国間における「外務(外交)」および「防衛」を担当する閣僚会議)などから、防衛省が外交を担う部分も少なくなくなってきました。当然に外交を行うためには、その外交を行うための情報の収集や分析、そして、現在の世界情勢の内容をしっかりと把握する必要がありますし、また、それらを日本の場合は偏った報道しかできないメディアしかないので、頼ることもできないということが言えるのではないでしょうか。
そのようなこともあり、「防衛省による外交」ということが、実は世界でクローズアップされています。防衛省の役割は単に専守防衛を行うことではなく、世界の中で貢献することというように変わってきているような気がします。
小泉防衛大臣が述べた「防衛省の体制は限界を超えている」という発言は、単に人員不足を訴えたものではなく、防衛省そのものの役割が大きく変化したことを意味していると考えられます。実際、大臣は防衛装備移転や各国との協力案件の増加を理由として、国際関係を担当する新たな局の設置に意欲を示しています。
<参考記事>
小泉大臣、防衛省の体制「限界を超えている」 省内に国際関係の業務など担う『局』増設に意欲
7/14(火) 16:06配信 TBS NEWS DIG Powered by JNN
https://news.yahoo.co.jp/articles/eb3f53d9abb1d06361ef9819970c18a40d6871bf
<以上参考記事>
かつての防衛庁・防衛省は、「専守防衛」を実施する組織という性格が極めて強いものでした。外交は外務省、軍事は防衛庁という役割分担が明確であり、自衛隊は外交の主体ではなく、外交の結果として与えられた任務を遂行する組織という位置付けでした。しかし、冷戦終結後、とりわけ二十一世紀に入ると安全保障の概念そのものが変化しました。PKO活動、海賊対処、災害派遣、人道支援、さらに自由で開かれたインド太平洋構想などによって、自衛隊は外国軍との接触を日常的に行うようになります。そして近年では「二+二(外務・防衛閣僚会合)」が主要な外交手段となり、安全保障外交そのものが国家間関係の中心に位置するようになりました。
現在の日米豪印、日英、日豪、日比、NATO諸国との協力を見ても、話し合われる内容の多くは、装備品の共同開発、共同訓練、情報共有、サイバー、防衛産業、宇宙、安全保障技術などであり、従来型の「外交」と「軍事」を切り離して考えることが難しくなっています。つまり、防衛省は単なる軍事組織ではなく、「安全保障外交機関」という新しい性格を帯び始めているのです。
その一方で、防衛省には歴史的に外交組織としての蓄積がほとんどありません。外務省には地域研究を行う専門官、語学専門家、在外公館のネットワーク、数十年単位で各国を担当する外交官、各国の政権・政党・世論・文化を分析する体制があります。これに対して、防衛省は基本的に作戦、部隊運用、装備、人事を担当する組織であり、外国との交渉経験は限定的でした。
例えば外国軍との共同訓練を計画する場合でも、「相手国の国内政治はどうなっているか」「議会は協力を支持しているか」「軍内部では誰が実権を握っているか」「世論は日本との協力をどう見ているか」という外交的な分析は、本来は外務省の得意分野です。
ところが現在は、防衛装備移転三原則の運用、防衛産業協力、共同開発、ACSA(物品役務相互提供協定)、RAA(円滑化協定)など、安全保障協力そのものを防衛省が主導する場面が急速に増えています。つまり、防衛省自身が外交能力を持たなければ政策を進められない時代になったのです。
さらに重要なのは、ご指摘のように「情報分析組織」の問題です。
外務省には各国大使館から毎日のように政治情報が入りますが、その情報は外交目的に集められたものです。一方、防衛政策に必要なのは、「外国軍の意思決定」「軍需産業の動向」「防衛技術」「兵器調達」「軍事演習」「指揮系統」「作戦思想」「軍事衛星情報」など、より専門的な軍事情報になります。
もちろん防衛省にも情報本部などがありますが、その中心は軍事情報の収集・分析であり、外交交渉を支える政策立案組織とは性格が異なります。欧米諸国では国防省の中に地域専門局や国際安全保障局が置かれ、外交官と軍人が一体となって政策を作っています。日本ではそのような体制が十分整備されておらず、防衛政策局が広範囲の業務を抱え込み、「限界を超えている」という発言につながったのでしょう。
そしてもう一つ見逃せないのが、「外務省に頼るだけでは対応できない事情」です。これは必ずしも外務省への不信という意味ではありません。むしろ、安全保障分野では外交判断と軍事判断が一体化しており、外務省だけでは完結しなくなっていることが背景にあります。
例えば英国との次期戦闘機共同開発(GCAP)のような案件では、技術的な仕様、共同生産、部品供給、防衛産業政策などが交渉の中心になります。これらは外交官だけでは判断できず、防衛省や自衛隊、防衛装備庁の専門家が主体にならざるを得ません。また、中国やロシアとの軍事的な緊張が続く中では、危機管理は時間との勝負になります。
従来のように「防衛省が外務省に相談し、外務省が外交ルートで調整する」という流れでは、迅速な対応が難しい場面も増えています。さらに近年の「2+2」では、外務大臣と防衛大臣が共同で外交・安全保障政策を決定する形が定着しています。これは外交政策そのものに、防衛大臣が正式な責任を負う時代になったことを意味しています。その結果、防衛省は「軍事組織」ではなく、「外交主体の一つ」として能力を持つことが求められるようになったのです。
もっとも、ここには制度上の課題もあります。日本では憲法上も行政組織上も、外交の主管はあくまで外務省です。防衛省が外交機能を拡大し過ぎれば、外務省との役割分担や責任の所在が曖昧になる恐れがあります。また、軍事的な観点が外交全体を左右するようになれば、日本外交のバランスが損なわれる可能性もあります。したがって、小泉大臣が目指している組織改革は、外務省に代わる「第二の外務省」をつくることではなく、安全保障外交を専門に担う能力を防衛省内部に整備し、外務省と対等に連携できる体制を築こうという試みと理解するのが適切でしょう。
言い換えれば、日本の安全保障は「外交が軍事を補完する時代」から、「外交と防衛が一体となって国家戦略を形成する時代」へ移行しつつあります。その変化に、防衛省の組織だけがまだ追いついておらず、小泉大臣の「限界を超えている」という発言は、その制度的なギャップを率直に表現したものと考えられます。
ただし、組織は法律や組織図を変えればすぐに能力が身に付くものではありません。特に外交や情報分析は、経験、人脈、歴史観、地域研究、そして相手国の政治文化を直感的に理解する「勘」のようなものが求められる分野であり、一朝一夕には育ちません。その前提に立つと、小泉防衛大臣が考えているであろうことは、「完成した組織をつくる」のではなく、「能力を育てる土台を今のうちにつくる」という発想ではないかと推測できます。
安全保障の世界では、十年後に必要となる能力は十年前から育成を始めなければ間に合いません。例えば外交官も、一人前になるまで十年から二十年かかると言われています。軍の地域専門家も同様です。したがって、大臣としては、「能力がないから局を作らない」のではなく、「能力を持つ人材を育てるために局を先に作る」という順番を考えている可能性があります。
実際、海外の国防省を見ると、国際部門には軍人だけではなく、地域研究者、経済専門家、言語専門家、科学技術者、情報分析官などが混在しています。日本でも同じような組織を作るのであれば、防衛省内部だけで人材を確保することはほぼ不可能でしょう。
そこで考えられるのは、人材を外部から積極的に取り込むという発想です。
例えば外務省との人事交流は今後さらに増える可能性があります。現在でも一部の交流はありますが、それを制度化し、防衛省の国際局に数年間勤務させることは十分考えられます。さらに国家安全保障局(NSS)との人事交流も重要になるでしょう。NSSには外務省、防衛省、警察庁、公安調査庁、経済産業省など様々な省庁の職員が集まっています。そこで安全保障政策を経験した職員を、防衛省へ戻して中核人材として活用することも考えられます。また、大学やシンクタンクとの連携もこれまで以上に重視される可能性があります。アメリカでは国防総省と大学、研究所との人材交流は極めて活発です。日本でも防衛研究所は存在しますが、その規模や人的ネットワークは欧米ほど大きくありません。今後は国際政治学者、地域研究者、経済安全保障の専門家、AIやサイバー分野の研究者を、一定期間、防衛省で政策立案に参加させる仕組みを整備する方向へ進む可能性があります。
もう一つ注目すべきなのは、海外勤務の経験です。外交の能力というものは、机上の勉強だけでは身に付きません。現地で政治家や軍人と付き合い、非公式な会話を重ね、その国独特の空気や意思決定の癖を理解することが非常に重要です。防衛駐在官制度は以前からありますが、今後は単なる情報収集ではなく、「将来の安全保障外交官」を育成する場として位置付けが変わる可能性があります。つまり、防衛駐在官を経験した人材が帰国後に新設される局で中核を担い、さらに若手を育成するという循環を作ろうとしているのかもしれません。
一方で、「センス」の問題は最後まで残ります。外交や情報分析は、法律やマニュアルだけでは対応できません。例えば同じ発言でも、中国が言う場合とロシアが言う場合では意味が異なります。同じ「対話を希望する」という表現でも、アメリカとインドでは政治的な含意が異なります。
こうした微妙なニュアンスを読み取る能力は、長年の経験によってしか養われません。特に情報分析では、「集める能力」より「意味を見抜く能力」の方が重要です。衛星写真や通信傍受、SNSなどから膨大な情報が集まっても、それが本当に政策判断に結び付くかどうかは分析官の力量に左右されます。近年のウクライナ戦争でも、AIや衛星技術が発達しても、最終的な判断は経験豊富な分析官が行っていることが示されています。
このため、小泉大臣が本当に目指しているのは、「局を一つ増やす」という組織改編ではなく、防衛省の文化そのものを変えることではないかとも推測できます。これまでの防衛省は、自衛隊の運用や装備管理を中心とする「実務官庁」としての性格が強く、情報分析や外交交渉は補助的な位置付けでした。しかし今後は、防衛省自体が国際政治を分析し、自ら政策を立案し、同盟国や友好国と戦略を調整する「政策官庁」としての機能を強める必要があるという問題意識があるのではないでしょうか。
さらに推測を進めるなら、防衛省は将来的に「日本版ペンタゴン」のような役割を目指している可能性もあります。ただし、これは外務省に代わって外交を担うという意味ではありません。外交交渉の主導権は引き続き外務省が持ちながらも、安全保障分野については、防衛省が独自の分析能力、独自の情報評価能力、独自の政策立案能力を備え、対等な立場で議論できる体制を築くことを目指している、と考えるのが自然でしょう。もっとも、これは十年、二十年単位の組織改革です。新しい局が設置されたとしても、その成否は初代局長や幹部の力量だけではなく、そこで育つ若手職員が十年後にどれだけ国際感覚と分析能力を身に付けるかに左右されます。その意味では、今回の構想は完成形を示したものというよりも、「防衛省を安全保障外交の時代に適応させるための第一歩」と位置付けるのが最も妥当な見方ではないかと考えられます。