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Angler's lullaby

Vamos A Bailar(その藪沢で踊れ)

2019.03.23 06:04

1人の友人がいる。


ただ、友人とは言ってもまだ1回も直接会ったことはない。ないのだけど、その情熱的で強烈なキャラクターだけはネット上のやりとりからいやおうなしに伝わってくる。


先輩を敬い、友人想いの家族想いで、真っ正直で謙虚な性格。


スティーブ・マックイーンに憧れ、集めるギアはどれもその頃のニオイのするものばかり。


そして何より、無闇な程に行動力がある。


現実に会ったことがないから、逆光越しに見えるシルエットのように漠然とはしているが、きっとおおむね間違ってはいないと想う。


私より先にいつも一緒に調査に行く先生が彼に何回か会っている。

昨年、先生と大分の湯布院まで在来調査に行った折、彼を紹介したのが始まりだった。


どうやら彼の住む場所の近くがヤマメとアマゴの生息境界ラインと言われていて、そこに生息する魚のサンプルは先生がノドから手が出るほど欲しいものだということらしかった。


話しを持ちかけた当初は少し警戒していた先生だが、すぐに彼と頻繁に連絡を取り合う仲になっていった。


私が1回だけ行った大分の川は標高もそれほど高くなく、普通の田園風景の中に岩をえぐるように流れている独特の地形。川にエントリーするのも、脱渓するのも場所を選ぶような所だった。


私の地元と違って、周りの田んぼから水が流れ込み、決して美しいとは言えない水質で、とてもヤマメやアマゴなどいそうもない感じ。その時も結局ボウズだった。


先生から依頼があってからの彼の釣行は、ちょっとすさまじいものがあった。


虎ロープを使いポイントまで下降し、藪こぎの途中でウェーダーが破れ、必死の思いでポイントを開拓していった。


正直、そこまでやらなくても、と感じたことは何回もあった。


彼には想いがある。


よくSNS上では「あの頃の里山探し」というフレーズを使う。自分を育ててくれた地元の川に古来から命を繋ぎ続けているヤマメ、アマゴがいるのかもしれない。


そんなロマンが彼を藪沢開拓に走らせているのだろう。


夢を見て、それに向かってやみくもに行動し続ける男は、とても美しい。


彼のその行動力だけでも、それはそれは感嘆に値するものだったが、話しはこれだけではない。


ある日、先生の研究室を訪ねてみると、1つの論文を見せられた。


「megenoさんやりましたよ。3ヶ月で筑後川全体の生息状況をまとめてくれましたよ。」


筑後川全部って、確か流域面積で言うと九州最大の川じゃないのか?ウソだろう。


そう思い、話しの続きを聞くと、何でも有名な釣り師やトラウト系のブロガー等、手当たり次第に連絡を入れて調査の協力をお願いしてまわったというではないか。


釣り師は長年一つの魚種にこだわっていると、性格が段々その魚に似てくる、というのが私の持論の一つ。


ヤマメやアマゴなんかは繊細かつ神経質、そのくせどう猛な一面を持つ。


それが人間になるとなかなかやっかいな人種になってくる。まして、渓流のポイントなんかは、ほとんどの釣り師が秘密にしていて、限られた友人以外には教えたりしないものだ。


よくもまあ、手練(てだれ)の釣り師たちが協力してくれたものだ。心底驚き、感心した。

この時だけは、彼に最大級の賛辞を送った。


彼からは時折、思い出したようにメールが来る。


やはり大変なことを成し遂げた後で、少し疲れているように感じられる時もあった。


著名な大学教授のキャラクターに気おされているような時もあった。


もしかすると自分が一体何をしているのか分からなくなるような瞬間があるのかもしれない。


それでも、心身共にボロボロになっても、「自分」じゃない何かを求めて行動し続けている彼は美しい。


目に見えないものに背中を押されているように感じられる時は、そのまま突き進むめばいい。多分それは、男として大きくなっていく時間だと思う。また、人生の中でそんな時間というのはきっとそれほど長くは続かない。


そして、過ぎ去ればそれはいつかきっとかけがえのない思い出に変わる。


オトコノコは、

強くないと生きられない。

そして、

美しくなければ生きる価値がない。


現実が必ずしもそうとは限らなくても、やっぱりそれが理想で、とても大切なこと。

きっと世界はそうやって響きあい、空高く、見えない縁(えにし)は繋がっている。


あなたのドラマが終わるまでは、その藪沢で情熱的に踊り続けるがいい。


そして、


きっといつか一緒に酒を呑みましょう。