📖「江戸の遊女」石井良助著
1⃣
これは、かつて、「江戸時代漫筆」シリーズとして出された物の一部を編集し直したものです。2013年にリバイバルしています。
もうずいぶんと古いものですが、著者が、日本法制史の大家であることは、研究者等関心のある人しか知らないでしょう。
この手の本は、一般的歴史学者の立場で書かれたと言うのではなく、各専門家の立場から書かれたもので、やはり視点が違うので、はじめて聞く情報ばかりに出逢います。
つまり、専門書の類なのでなじみにくい=難しい範疇です。
とは言え、所詮は歴史物故に、分からないながらも、関心度は高まります。
TVドラマなどでも、時代物と言えば、ほとんど江戸時代が舞台です。それほどに、江戸時代については、資料の豊富さと、近代に一番近い時代だからでしょう。
著者も江戸法制史が多いようです。
2⃣
江戸時代も士農工商と言う身分制度が敷かれ、その下に「非人」が居たと言う事は、教科書にも載る定説として言われてきました。
しかし、最近、そのような身分制度はなく、➀士②農工商(同じ身分)③非人と言う制度だったと言う説が出ています。
著者は、以前の「士農工商」を基本に、その下に「非人」があり、しかも、「非人」そのものにも多くの種類があったと言います。「農工商」を「良民」と呼び、「非人」は「賊民」で有ったとします。
要は、非人は、読んで字のごとく「人に非ず」で、ここに境があったのです。
乞食などもこの非人に含むのですが、「乞胸(ごうむね)」と言うのが、良民と賊民の間にもあったのです。
著者は、後で「江戸時代の人民は、良民、乞胸、賊民の3段階」と言うのであることからすると、「農工商」を同じレベルとしているので、最近の学説と同じでしょうか。
身分制度が細かい故に、法規範も家業継承なども、異なっています。
世の中何処でも同じですが、以前は、生まれがそのまま人生を形付けてきました。
乞食も犯罪者も、すべて「非人」であるが故に、内部は細かく分かれていても、同じ悪人=賊民と扱われるのです。
人に身分の差を設ければ、心・身・物の貧しさと犯罪が同じレベルで温床されやすくなります。
3⃣
ところで、このタイトルが示す「江戸の遊女」については、この一冊の中では、メインに記述されていません。飯盛り女も遊女のひとつであり、髪結い業、湯屋業に始まって、遊女の話に続く構成を取っています。
故に「江戸の遊女」と言うタイトルよりは、江戸庶民の仕事・生活の話であるので、初めに著者が名付けた「江戸時代漫筆」シリーズのままか「江戸庶民の生活」とでもしたほうが合っているようにも思います。
「吉原」は別に『吉原』として出版されてもいます。
4⃣
最後に、ひとつだけ言えば、「吉原」「遊女」などから江戸時代には、売春が公認されていたかの如くの感がありますが、やはり当時も、人身売買も売春も禁止されており、唯一「吉原」や宿場ごとの「飯盛り女」などが、公認されていたと言いますから、文化のレベルとしては、低いのでもありません。
・江戸時代の生活レベルは、当時の地球規模としては、人口も上下水設備も世界一の都市だったと言われます。これは、既に「衛生」についての認識が如何に高かったかと言う事を示します。
それでも、大病が蔓延する時がありましたが(コレラ)。
「下水道」設備の考えは、紀元前5000年頃モヘンジョダロで出来ており、その後、古代ローマ時代でも市内全域の下水設備(クロアカキシマと言うもの)が有ったというわけですから、下水設備は、国の反映とも関わって来たとも言えましょう。(もっとも最初は、雨水などを流すと言う発想だったと言います。しかし、そもそも、日本外国の発想が違います。昔から、外国は、排せつ物は川に流したり・・・でしたが、日本は、田畑の肥料として使っていたと言う点が全く違います。)
※「江戸の遊女」石井良助著(明石書店)
その他この著者には非常に多くの著作があります。日本法制史を研究するには、必ずこの人の著作も繙く必要があります。