His puja and pray(2)
前項に続き、ヒンドゥー教の成り立ち、宇宙観について、ごく大雑把にですが、書いておこうと思います。
大雑把にならざるを得ないのです。実にさまざまな神話があるので……。
プルシャ(原人)が、ヒラニヤガルバ(黄金の宇宙卵)の中で1000年間眠っていた。やがてヒラニヤガルバが割れると、中からプルシャが現れ、世界が誕生したという神話。
ヒラニヤガルバの中で瞑想していたのはブラフマーであり、このブラフマーが割れた卵の殻の上半分を天界に、下半分を地界に、中間を空界として、森羅万象を想像したとする神話。
原水ナラの上にとぐろを巻く蛇シェーシャを寝床としてまどろむビシュヌの臍から生えた蓮の花の中にブラフマーが生まれ、世界を創造したという神話。
もとより神話ですから、何が正しいということではないのですが、2年前、ネパールで、シェーシャの寝床にまどろむビシュヌ神に、シャームジといっしょに詣でたことがあります。
ふっくらとした赤い唇、軽く閉じたまぶた。足を組み、まどろむ姿は、まるで生きているようで、どきっとしました。
「彼が目をあけたら」といって、シャームジは指をぱちんと鳴らしました。つまり、ビシュヌ神の目覚めた瞬間、この宇宙は原初の水ナラに戻ってしまうという意味です。
「寝ているビシュヌ」をネパール語では、「ステコビシュヌ」といいます。このステコビシュヌは小さな寺院の境内でも、よく見かけました。
画像は2017年11月撮影
原初の水、黄金の宇宙卵から喚起されるのは妊娠のイメージです。古代では母体、妊娠は豊穣を意味しました。
シヴァ神はシヴァリンガムという円筒形の男根のシンボルで表されますが、そのシヴァリンガムはヨーニと呼ばれる女陰を象徴する受け皿に立っています。
どちらもシンボルですから、いたってシンプルな外観です。
前項でざっと述べたように、バラモン教が土着の神々を吸収し、ヒンドゥー教に変容していく過程で、最高神として崇められるようになったのは、宇宙を創造したとされるブラフマー神、宇宙を維持するビシュヌ神、そして、破壊と再生のシヴァ神です。
しかし、ブラフマー神は抽象的・哲学的な概念であり、より人間的なビシュヌ神とシヴァ神に人々の人気は二分されていきます。
ビシュヌ派、シヴァ派に分かれたわけですが、両派は争うこともなく、互いに敬意を払い、ある時は融合します。こういうところは、土着信仰も仏教も、ジャイナ教も、すべてを飲み込んで形成されたヒンドゥーならではの特徴でしょう。
ビシュヌ派、シヴァ派が現在のような熱烈な信仰を集めるようになった背景には、『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』の二大叙事詩があります。数百年かけて形成された、この二大叙事詩は神々に血肉を与え、民衆に親しみやすい存在にしました。
『ラーマーヤナ』は、ラーマ王子が誘拐されたシーター妃を奪還するべく、大軍を率いて、ラクシャーサ王ラーヴァナを滅ぼす物語で、成立は紀元前3世紀頃。詩人ヴァールミーキがヒンドゥー教の神話、古代コーサラ国の英雄ラーマの伝説をもとに編纂したとされています。
ハヌマーンという大猿が戦闘を切り開くなど、エンターテイメントの要素もたっぷりと盛り込まれており、子ども向けの和訳本もあります。
次々に降りかかる苦難に耐えて勝利するラーマ王子はダルマ(正義)の象徴であり、ハヌマーンのラーマ、シーターへの忠誠は「バクティ(神への信愛)」そのものです。
『マハーバーラタ』は聖仙ビヤーサ作とされていますが、実際は太古の物語が口伝により継承され、修正・補足を重ね、後四世紀頃に現在のような形になったと推察されています。
ここではインドは「バーラタ」と記され、主題となっているのはバーラタ族の後裔で奸計に富んだクル一族と、ダルマを重んじるパーンドゥ一族の相続争いです。
クル・クシェートラ(クル平原)における両軍の18日間に及ぶ壮絶な闘いは、近年大ヒットしたインド映画『バーフバリ』にも色濃く反映されています。
このクル・クシェートラの戦いを前に、パーンドゥの勇者アルジュナは敵陣に親戚や武芸の恩師の姿を見て、戦意を喪失してしまいます。
そのアルジュナに、アルジュナの戦車の御者であるクリシュナが「戦うことはクシャトリア(武士階級)に生まれついた者のダルマであり、義務だ」と説きます。「いずれは滅びる肉体を射ることに、なぜためらうのか」と。
この部分こそ、ヒンドゥー教のバイブルともいわれ、世界中で読まれている『バガヴァット・ギーター(神の詩)」です。
クリシュナはビシュヌ神の化身であり、この神が人間の姿に化身するというアヴァター思想も輪廻転生思想とともに、ヒンドゥー教特有のものです。
慈愛の神ビシュヌに対し、暴風神ルドラを前身とするシヴァは荒ぶる神です。首に蛇を巻きつけ、墓場で踊る神ですが、その恩寵は限りなく、偉大なヨーガ行者でもあります。
こんな神話もあります。ガンジス川はかつては空にあったのだが、あまりの重さに空が支えられなくなった。ビシュヌ神をはじめとする神々は相談し、そんなに重い大河を支えられるのはシヴァ神しかいないという結論に達した。
ヨーガ行者であるシヴァ神は、頭頂に結った髷の中にらくらくとガンジス川を受け止めた、という神話です。
これを書いている机の上にはシヴァ神の絵姿があるのですが、頭頂部の髷の中にガンジスの女神がいて、ぴゅーっと水を噴いているのが見えると思います。
画像手前、結跏趺坐を組んだシヴァ神の足元にあるのが、シヴァリンガムです。
この半眼のシヴァ神に、シャームジがよく似ているというかたもいます。
シャームジはシヴァ派ですが、口癖は「ハレラーマ」
何か気分を変えたい時などに、ため息のかわりに「ハレラーマ」といいます。こんなことからも、シヴァ、ビシュヌ両神が融合していることがよくわかります。
そして、シャームというのはクリシュナ神の別名の一つなのです。ハレクリシュナ!