フロイトから学ぶ「自分に嘘をつかない婚活」 ――無意識の声を聴き、「選ばれるための私」から「愛することのできる私」へ 2026.08.12 01:40 婚活をしている人の多くは、自分では「幸せな結婚をしたい」と思っている。 それは決して嘘ではない。 ところが、何人もの異性と出会い、条件の良い相手を紹介され、「この人なら結婚相手として申し分ない」と頭では理解しているにもかかわらず、なぜか心が動かないことがある。 逆に、 「この人と一緒になれば苦労するかもしれない」 「どう考えても私を大切にしてくれるタイプではない」 「結婚相手として見るなら、もっと穏やかな人を選んだ方がいい」 と分かっているのに、なぜかそういう相手にばかり惹かれてしまう人もいる。 あるいは、ようやく自分を大切にしてくれる相手に出会った途端、 「何か違う気がする」 「ときめかない」 「本当にこの人でいいのだろうか」 という迷いが急に強くなる。 婚活という場所では、しばしば「理性」と「感情」が別々の方向を向く。 そして人は、その矛盾に戸惑う。 しかし、フロイトの精神分析という視点から見るなら、その矛盾こそ、人間の心にとって不思議なことではない。 むしろ、人間とは本来、 「自分で分かっている自分」 だけで生きている存在ではない。 自分でも気づいていない欲望。 忘れたつもりの記憶。 認めたくない怒り。 幼い頃から抱えてきた寂しさ。 誰かに愛されなかった痛み。 誰かを失うことへの恐れ。 見捨てられたくない気持ち。 支配されたくない気持ち。 そして、 「本当は誰かに深く愛されたい」 という願い。 それらが、意識の地下水脈のように流れている。 フロイトは、私たちの心の大部分が「無意識」によって動かされていると考えた。 婚活において、この考え方は実に示唆的である。 なぜなら、婚活とは単に、 「条件に合う人を探す活動」 ではないからだ。 それはときに、 「自分でも知らなかった自分自身と出会う活動」 なのである。 ショパン・マリアージュでは、婚活とは人生のパートナーを探すだけではなく、自分の心を調律する時間でもあると考えている。 ピアノの音程がわずかに狂っていても、弾いている本人には気づきにくいことがある。 毎日その音を聴いているからである。 しかし、調律師が鍵盤をひとつずつ確かめると、 「ここは少し高い」 「ここは響きが濁っている」 「この弦は他の音と調和していない」 ということが見えてくる。 人の心も、それに似ている。 「私は普通です」 「高望みなんてしていません」 「ただ誠実な人がいいだけです」 「私は結婚したいと思っています」 そう語る言葉の奥で、まったく別の声が響いていることがある。 その声を責める必要はない。 ただ、聴く必要がある。 「私は、本当は何を怖がっているのだろう」 「私は、本当はどんな愛を求めているのだろう」 「私は、誰に何を証明しようとしているのだろう」 「私は、本当に結婚したいのだろうか。それとも、結婚できない自分だと思われることが怖いのだろうか」 ここから、「自分に嘘をつかない婚活」が始まる。 1 「自分に嘘をつく」とは、意図的に嘘をつくことではない 「自分に嘘をついている」と言われると、多くの人は不快に感じる。 私はそんなに不誠実ではない。 自分の気持ちは自分がいちばん分かっている。 そう考えるのは当然である。 しかし、フロイト的な意味での「自分に嘘をつく」とは、意図的に事実を偽ることではない。 むしろ、 自分が傷つかないために、自分自身の本当の感情を見えなくしてしまうこと に近い。 たとえば、35歳の女性Aさんがいた。 Aさんは婚活を始めて1年半。 条件として希望していたのは、 ・大卒 ・年収600万円以上 ・身長170センチ以上 ・初婚 ・できれば同年代か年上 ・清潔感がある ・話が面白い ・自分をリードしてくれる というものだった。 希望そのものが悪いわけではない。 ところが、何人紹介しても、Aさんは必ず何かを見つけて断った。 「声が少し苦手でした」 「服装のセンスが合わない気がします」 「食べ方が気になりました」 「真面目すぎます」 「もう少し会話をリードしてほしかったです」 「優しいんですけれど、男性として見られません」 カウンセラーが、 「これまでお付き合いした男性には、どんなタイプが多かったですか」 と尋ねると、Aさんは少し考えて言った。 「そうですね……どちらかというと、自由な人が多かったです」 自由な人。 さらに聞いていくと、返信が遅い、予定をなかなか決めない、女性関係が曖昧、仕事中心、感情表現が少ない――そうした男性に惹かれる傾向があった。 逆に、自分に好意を示し、約束を守り、関係を丁寧に育てようとする男性には、 「何か物足りない」 と感じていた。 Aさんは言った。 「でも、結婚するなら誠実な人がいいんです」 これは本音である。 しかし同時に、 「私は、自分を簡単には手に入らない相手から認めてもらいたい」 という、もうひとつの本音が存在していた。 この二つは矛盾している。 けれど、人間の心は矛盾していてよいのである。 問題は、一方しか存在しないことにしてしまうことである。2 無意識は「言葉」よりも「繰り返し」に現れる フロイトの理論を婚活に応用するとき、非常に重要なのが、 人の無意識は、本人が語る理想より、繰り返している行動に表れやすい という視点である。 「優しい人が好きです」 と言いながら、なぜか冷たい人ばかり選ぶ。 「安定した結婚がしたい」 と言いながら、不安定な関係を繰り返す。 「価値観を大切にしています」 と言いながら、写真を見た数秒で申し込みを断る。 「内面を見たい」 と言いながら、年収が希望より50万円低いだけで候補から外す。 「家庭的な人がいい」 と言いながら、家庭を大切にする相手を「刺激がない」と評する。 私たちは、ときに言葉では未来を語り、行動では過去を繰り返す。 ここに婚活の難しさがある。 本人は未来へ向かっているつもりなのに、無意識では過去の物語の続きを演じていることがあるからだ。3 反復強迫――なぜ同じような恋愛を繰り返してしまうのか フロイトの概念の一つに「反復強迫」がある。 人は過去に経験した苦しい関係を避けるどころか、無意識のうちに似た状況を繰り返してしまうことがある、という考え方である。 婚活でも、実に似た現象が起こる。 39歳の男性Bさんは、これまで3人の女性と長く付き合った経験があった。 しかし、いずれの恋愛も最後は、 「あなたは何を考えているのか分からない」 「もっと気持ちを言ってほしい」 と言われて終わった。 婚活でも同じだった。 仮交際に入る。 何度かデートする。 女性から好意を示される。 すると急に、Bさんの気持ちが冷める。 そして、 「何となく違う気がする」 と言って終了する。 カウンセラーが尋ねた。 「女性から好意を示される前と後で、気持ちは変わりますか」 Bさんは答えた。 「言われてみれば、変わりますね。自分のことを好きだと分かると、急につまらなくなる感じがあります」 さらに話していくと、Bさんの父親は仕事でほとんど家におらず、母親も感情表現の少ない人だった。 子どもの頃、褒められるには成績を上げる必要があった。 Bさんにとって、 「愛される」 という感覚は、 「努力して手に入れるもの」 と結びついていたのである。 だから、無条件に近い形で好意を示されると、心の深いところで違和感が生まれる。 「こんなに簡単に得られるものに価値があるのだろうか」 本人はそう考えているわけではない。 しかし、感情がそのように反応する。 その結果、届かない相手には惹かれ、届いた相手には冷める。 これは単なる「飽き性」とは限らない。 過去に身につけた愛の感覚を、現在の恋愛で再演している可能性がある。4 婚活では「好きなタイプ」より「なぜそのタイプを好きなのか」が重要になる 「どんな人がタイプですか」 婚活ではよく聞かれる質問である。 しかし、ショパン・マリアージュでは、その次の問いを大切にしたい。 「なぜ、そのタイプに惹かれるのでしょう」 たとえば、 「仕事のできる男性が好きです」 という女性がいたとする。 理由はさまざまである。 尊敬できるから。 頼りがいがあるから。 知的な会話ができるから。 経済的に安心できるから。 もちろん、それなら問題はない。 しかし、 「仕事のできる男性に選ばれることで、自分の価値を証明したい」 という気持ちが混ざっていることもある。 あるいは、 「強い男性の隣にいれば、自分は不安にならずに済む」 という依存的な願いが隠れている場合もある。 逆に男性が、 「若くて可愛らしい女性がいい」 と言うときも同様である。 単純な好みかもしれない。 しかし、 「若い女性に選ばれることで、自分の男性としての価値を確認したい」 という自己評価の問題が潜んでいることもある。 条件そのものを批判する必要はない。 大切なのは、その条件が、あなたの幸福のために必要なのか。それとも、あなたの傷ついた自尊心を守るために必要なのか ということである。 5 「理想が高い」のではなく、「理想が防具になっている」人たち 婚活ではよく、 「理想が高いですね」 という言い方がされる。 しかし、この表現だけでは本質を見落とすことがある。 理想条件をたくさん持つ人の中には、それを「防具」として使っている人がいる。 つまり、 条件を厳しくすればするほど、本当に人を好きにならなくて済む。 人を好きにならなければ、失うこともない。 断られることもない。 裏切られることもない。 傷つくこともない。 37歳の女性Cさんは、入会時に50項目近い希望条件を書いた。 年齢。 学歴。 職業。 収入。 身長。 体型。 家族構成。 居住地。 転勤の可能性。 趣味。 食生活。 休日。 飲酒。 喫煙。 話し方。 服装。 金銭感覚。 宗教。 親との距離。 そして、細かな外見上の好み。 カウンセラーが尋ねた。 「すべてを満たす人と出会ったら、安心して好きになれそうですか」 Cさんはしばらく黙った。 やがて、 「……分かりません」 と答えた。 そこから話していくと、Cさんは28歳のとき、結婚を約束していた恋人から突然別れを告げられた経験があった。 相手には別の女性がいた。 その後、Cさんは二度と、 「相手を信じ切る」 ということをしなくなった。 婚活の条件は、未来の夫を選ぶ基準であると同時に、 「二度と傷つかないための城壁」 になっていたのである。 フロイト的に言えば、これは自我を守る防衛である。 防衛それ自体は悪いものではない。 人は心を守らなければ生きていけない。 ただし、防衛が強すぎると、 傷から守られる代わりに、愛も入ってこられなくなる。6 「私は傷つきたくない」という本音を認める 婚活支援で大切なのは、 「そんなに怖がらなくても大丈夫です」 と言うことではない。 怖いものは怖い。 裏切られた経験がある人なら、新しい相手を信じることが怖いのは自然である。 大切なのは、 「私は傷つきたくないと思っている」 という気持ちを、本人が認めることである。 自分に嘘をつかないとは、 何でも思ったことを口にすることではない。 感情のままに行動することでもない。 自分の中に存在している感情を、存在していないことにしない ということである。 「私は結婚したい。でも怖い」 それでよい。 「私は愛されたい。でも捨てられるのが怖い」 それでよい。 「優しい人がいい。でも追いかける恋愛に慣れているから、穏やかな関係にまだ違和感がある」 それでよい。 矛盾を認めた瞬間から、人は少し自由になる。7 抑圧――「そんなこと思ってはいけない」と閉じ込めた感情 フロイトの中心概念の一つが「抑圧」である。 自分にとって受け入れがたい感情や欲望を、意識から遠ざける働きである。 婚活中の人も、さまざまな感情を抑圧する。 「年収を気にするなんて浅い人間だと思われたくない」 「本当は見た目も大切だけれど、外見重視だと思われたくない」 「子どもが欲しいと言ったら、焦っていると思われそう」 「本当は専業主婦になりたいけれど、自立していないと思われたくない」 「本当は共働きを希望しているけれど、男らしくないと思われそう」 「親との同居は絶対に嫌だけれど、冷たい人間だと思われたくない」 「離婚歴のある人は不安だけれど、偏見だと思われそう」 こうして、人は「良い婚活者」を演じる。 しかし、抑え込んだ希望は消えない。 交際が進んだ後で、 「やっぱり無理でした」 となる。 ショパン・マリアージュでは、こうした問題を、 「条件を持つことが悪い」 とは考えない。 むしろ、条件の背後にある意味を丁寧に確かめたい。 たとえば、 「年収600万円以上」 という希望があるなら、 なぜ600万円なのか。 生活設計なのか。 子育てなのか。 自分の収入が低いからなのか。 親からそう言われてきたからなのか。 友人の夫と比較しているからなのか。 過去の経済的不安があるからなのか。 数字の奥には、物語がある。8 「条件」は欲望の仮面になることがある フロイトは、人間の欲望がそのまま意識に現れるとは考えなかった。 形を変えたり、別の理由をまとったりして表れることがある。 婚活条件も同じである。 たとえば、 「大卒以上がいい」 という条件。 本当は、 「会話が合う知的な人がいい」 という願いかもしれない。 それなら、大卒でなくても知的で教養深い人はいる。 「公務員がいい」 という条件。 本当は、 「生活の見通しが立つ人がいい」 なのかもしれない。 それなら安定した企業勤めでもよい可能性がある。 「身長175センチ以上」 という条件。 本当は、 「一緒に歩いたときに女性として守られている感じがほしい」 なのかもしれない。 そこまで分かれば、身長だけでなく、態度や包容力という別の要素も見えてくる。 条件を捨てる必要はない。 しかし、 「私は、本当にこの条件を望んでいるのか」 と問うことが、自分に嘘をつかない婚活なのである。 9 防衛機制――婚活で心が傷つかないための「心の癖」 人間には、自分の心を守る仕組みがある。 精神分析では、防衛機制という言葉で説明される。 婚活では、これがさまざまな形で現れる。 合理化 「今回は仕事が忙しいから」 「相手の趣味が少し合わなかったから」 「距離が遠いから」 本当は、 「断られるのが怖くて、自分から終わらせた」 だけかもしれない。投影 「相手が私に興味を持っていない気がします」 と言う人が、実は自分の方が相手に心を開いていないことがある。 否認 明らかに相手が交際に消極的なのに、 「忙しいだけだと思います」 と解釈し続ける。反動形成 本当はとても気になっている相手に、 「別にタイプではありません」 と妙に冷たく振る舞う。 知性化 恋愛感情に向き合う代わりに、 「統計的に考えると、年齢差が」 「成婚率から見ると」 「相手の条件を点数化すると」 と分析ばかりして感情から距離を取る。 もちろん分析は役立つ。 しかし、ときに分析は感情から逃げる隠れ蓑にもなる。10 38歳男性Dさん――「失敗するくらいなら、最初から本気にならない」 Dさんは誠実で、仕事も安定していた。 プロフィールも悪くない。 ところが、お見合い後の返事がいつも、 「もう一度会う決め手がありません」 だった。 半年間で18人と会い、仮交際は2人。 どちらも2回目のデートで終了した。 カウンセリングで尋ねた。 「結婚したいですか」 「したいです」 「人を好きになることはありますか」 「若い頃はありました」 「最後に本気で好きになったのはいつですか」 Dさんは黙った。 大学時代だった。 相手に告白し、断られた。 その後、友人関係までぎくしゃくし、人間関係そのものが苦しくなったという。 「それ以来、好きになってから告白する、みたいなことはしていません」 「どうしていますか」 「相手が自分を好きそうなら、こちらも考えるという感じです」 つまりDさんは、 「好きになる前に、愛される保証を確認する」 ようになっていた。 これは非常に理解できる防衛である。 しかし、恋愛には保証がない。 結婚にも保証はない。 人を愛するとは、ある程度、 「傷つく可能性を引き受けること」 でもある。 ショパン・マリアージュのカウンセラーは、Dさんに言った。 「Dさんは、恋愛が苦手なのではなく、傷つくほど大切に思うことを避けているのかもしれません」 Dさんは苦笑した。 「そうかもしれません。負けたくないんでしょうね」 「恋愛に勝ち負けがあるとすれば、好きになった方が負けですか」 「昔はそう思っていました」 「今は?」 長い沈黙のあと、 「好きになれる人に出会わないまま終わる方が、負けかもしれませんね」 この言葉から、Dさんの婚活は変わり始めた。11 「ときめきがない」は、本当に相性が悪いのか 婚活相談で非常に多い言葉が、 「いい人なんですけれど、ときめかないんです」 である。 もちろん、本当に恋愛感情が生まれないこともある。 無理をする必要はない。 しかし、フロイト的な視点を入れると、もう一つの可能性が見えてくる。 安心できる相手に、心が慣れていない。 幼い頃から、 愛=緊張 愛=不安 愛=追いかけること 愛=相手の機嫌を読むこと という関係に慣れている人にとって、 安定した相手は「恋愛らしくない」と感じることがある。 返信が来る。 約束を守る。 気持ちを伝える。 話を聴く。 怒鳴らない。 駆け引きをしない。 こうした相手といると、本来なら安心できるはずなのに、 「退屈」 と感じる。 なぜなら身体が知っている恋愛のリズムと違うからである。 12 恋愛の「ドキドキ」と、不安による「ドキドキ」 婚活では、ときめきを否定する必要はない。 ときめきは大切である。 しかし、 「この人といるとドキドキする」 という感覚が、 本当に恋愛の喜びなのか、 不安定な相手を前にした緊張なのか、 区別した方がよいことがある。 返信が来ない。 次に会えるか分からない。 自分を好きなのか分からない。 他にも女性がいるかもしれない。 だから一日中、その人のことを考えてしまう。 すると本人は、 「こんなに考えるなんて、私はこの人が好きなんだ」 と解釈する。 しかし実際には、 恋愛感情と不安が混ざっていることがある。 反対に、安心できる人とは、 夜ぐっすり眠れる。 連絡を待ち続けなくてよい。 自分らしく話せる。 沈黙しても怖くない。 そんな関係は刺激が少ないかもしれない。 けれど結婚生活には、こうした静けさが大きな価値を持つ。 13 ショパンの夜想曲のような愛 ショパンの夜想曲を思い浮かべてみたい。 そこには劇的な情熱もある。 しかし、常に激しいわけではない。 静けさの中に、繊細な揺らぎがある。 一見穏やかな旋律の奥に、深い感情が流れている。 愛も同じではないだろうか。 激しい感情だけが愛ではない。 「一緒にいると落ち着く」 「この人には変な自分を見せられる」 「失敗しても責められない気がする」 「自分の話を最後まで聞いてくれる」 こうした感覚は、恋愛ドラマのように華やかではない。 けれど、結婚という長い時間を支えるには、非常に強い響きである。 ショパン・マリアージュが大切にしたいのは、 「心が激しく鳴る相手」 だけではない。 「心の音程が整っていく相手」 である。14 転移――目の前の人に、過去の誰かを重ねていないか 精神分析では「転移」という概念がある。 過去の重要な人物に向けていた感情や期待を、現在の別の人に向けてしまう現象である。 婚活でも、これは起こる。 たとえば、父親が厳しかった女性がいる。 男性から少し強い口調で言われただけで、 「支配的な人です」 と感じる。 もちろん、本当に支配的な場合もある。 しかし、相手の言動そのもの以上に、昔の父親への感情が刺激されている可能性もある。 逆に、母親が過干渉だった男性が、 「毎日連絡を取りたい」 という女性に対して、強い拒否感を覚えることがある。 本人にとっては、 「束縛される」 感覚だからである。 しかし女性にしてみれば、ただ親密さを表現しているだけかもしれない。 目の前の相手を見ているつもりで、 実は過去の誰かを見ている。 これが婚活の判断を難しくする。15 34歳女性Eさん――「この人もいつか私を否定する」 Eさんは、知的で話し上手な女性だった。 お見合いでも印象は良く、交際成立率も高かった。 しかし、3回程度会うと終了する。 理由はいつも、 「上から目線に感じました」 だった。 ある男性は、 「仕事、大変そうですね。無理しすぎない方がいいですよ」 と言った。 Eさんは、 「仕事のやり方を否定された」 と感じた。 別の男性は、 「僕は休日は家でゆっくりするのも好きです」 と言った。 Eさんは、 「私が外出好きなのを批判している」 と感じた。 カウンセラーが、 「相手の発言と、Eさんが受け取った意味の間に、少し距離があるように思います」 と伝えると、Eさんは不満そうだった。 しかし数回の面談の後、彼女はぽつりと言った。 「父がそうだったんです。何をしても、もっとこうしろって」 勉強。 服装。 友人。 就職。 父親から評価され続けてきた。 そのためEさんは、 「男性から何か言われる」 というだけで、 「評価されている」 と感じてしまう癖があった。 婚活相手は父親ではない。 しかし心は、昔の痛みを使って現在を解釈する。 自分に嘘をつかないとは、 「相手が悪い」 と感じた自分を否定することではない。 「なぜ私は、この言葉にこれほど強く反応したのだろう」 と、自分の内側を見ることである。 16 婚活では「相手を見る力」と同じくらい「自分を見る力」が必要 結婚相談所では、 「相手を見極めましょう」 という言葉がよく使われる。 もちろん重要である。 しかし、ショパン・マリアージュでは、 「自分の見方を見極める」 ことも同じくらい重要だと考える。 私たちは透明なガラス越しに相手を見ているのではない。 それぞれ、 過去。 家族。 失恋。 成功。 劣等感。 承認欲求。 理想。 恐怖。 期待。 そうした色のついたレンズを通して相手を見る。 だから、 「私は人を見る目がある」 と強く信じるほど、逆に危うくなることもある。 必要なのは、 「私は間違って見ることもある」 という謙虚さである。17 「自分らしくいたい」と言いながら、自分を演じる婚活 婚活では「自然体」が人気の言葉である。 ところが実際には、多くの人が自然体でいられない。 お見合い前に、 何を話せば好印象か。 どう笑えばいいか。 どんな服なら受けるか。 何を言ってはいけないか。 どこまで自分を出すべきか。 考え続ける。 それ自体は悪くない。 社会的な場で配慮することは必要である。 しかし、 「選ばれること」 が最優先になりすぎると、自分を失う。 18 41歳男性Fさん――「嫌われない人」を演じ続けた結果 Fさんは、非常に感じの良い男性だった。 女性から悪い評価を受けることは少なかった。 しかし、なかなか真剣交際に進まない。 女性側から、 「優しいけれど、何を考えているのか分からない」 と言われることが多かった。 カウンセラーとの面談。 「デートでは、行きたい店を言いますか」 「相手に合わせます」 「食べたいものは?」 「相手に合わせます」 「休日の過ごし方について意見が違ったら?」 「合わせます」 「住む場所は?」 「話し合いますが、基本は合わせられます」 「子どもについては?」 「相手の希望を尊重します」 カウンセラーは笑って言った。 「Fさんと結婚する女性は、とても自由ですね」 Fさんも笑った。 しかし、その笑いの後に沈黙があった。 「本当は、どうしたいんですか」 Fさんの表情が変わった。 「……本当は、子どもは欲しいです」 「なぜ言わないのですか」 「重いと思われそうで」 「住む場所は?」 「できれば地元にいたいです」 「なぜ言わない?」 「わがままだと思われるかなと」 「食事は?」 「魚が好きです」 「なぜ言わない?」 「そんなことまで言うんですか」 二人は笑った。 しかし、ここに核心があった。 Fさんは「優しい」のではなく、 「嫌われないことを最優先している」 部分があった。 結果として、女性から見ると輪郭のない人物になっていた。19 「いい人」になることと、「誠実な人」になることは違う 自分に嘘をつかない婚活では、 「相手に合わせない」 という意味ではない。 大人の関係には調整が必要である。 しかし、 配慮と自己消去は違う。「私はこう思う。でもあなたの考えも聞きたい」 これが対話である。 「何でもいいよ」 だけでは、対話にならない。 結婚とは、二人の人生を合わせていく営みである。 そこには二つの異なる旋律が必要である。 片方が完全に消えてしまえば、二重奏にはならない。 20 快楽原則――なぜ人は「楽な方」を選んでしまうのか フロイトは、人間の心には不快を避け、快を求める傾向があると考えた。 婚活でも、 「傷つかない」 「恥をかかない」 「拒絶されない」 「自尊心を守れる」 という短期的な快楽が、長期的な幸福を邪魔することがある。 たとえば、 お見合いを申し込まない。 断られるかもしれないから。 仮交際を終了する。 相手から終了される前に。 本音を言わない。 嫌われるかもしれないから。 好きと言わない。 立場が弱くなる気がするから。 結婚の話を避ける。 答えを聞くのが怖いから。 すべて、その瞬間は楽になる。 しかし、婚活は進まない。 長期的な幸福には、ときに短期的な不快を引き受ける必要がある。 21 「嫌われる可能性」を引き受けること 婚活で本音を話すということは、相手に嫌われる可能性を引き受けることである。 「私は子どもが欲しいです」 と言えば、それを望まない人とは合わない。 「転勤は難しいです」 と言えば、転勤族とは難しい。 「親との同居は考えていません」 と言えば、同居希望の相手とは進まない。 しかし、それでよいのである。 婚活の目的は、 100人から好かれることではない。 **一人の人と、現実の人生を共有できる関係を作ること** だからである。22 本音を隠して成立した交際は、後で必ず調整が必要になる 34歳女性Gさんは、仮交際中の男性に、 「料理は好きです」 と言っていた。 実際には、ほとんど料理をしなかった。 嘘をつくつもりはなかった。 料理動画を見るのは好きだったし、結婚したら頑張ろうと思っていた。 しかし男性は家庭料理を重視しており、 「結婚したら毎日一緒に夕食を食べたい」 と期待していた。 真剣交際に進み、具体的な話をしたときに食い違いが表面化した。 Gさんは言った。 「嫌われたくなくて、つい相手が喜びそうなことを言ってしまいます」 ここで重要なのは、Gさんを「嘘つき」と責めることではない。 なぜ、相手に合わせなければ愛されないと思ったのか。 そこを見る。23 承認欲求の奥にある「私はそのままでは愛されない」という思い フロイトの理論だけで人間のすべてを説明することはできない。 しかし精神分析的に見ると、 「選ばれたい」 という婚活感情の奥には、ときに深い不安がある。 私は、そのままでは愛されない。 もっと若くならなければ。 もっと痩せなければ。 もっと稼がなければ。 もっと話が上手くならなければ。 もっと女性らしく。 もっと男性らしく。 もっと明るく。 もっと自信を持って。 もちろん自己改善は悪くない。 しかし、 「改善した自分だけが愛される」 と思い始めると苦しくなる。 24 ショパン・マリアージュが考える「調律」とは、別人になることではない ピアノを調律するとき、ピアノを別の楽器にはしない。 その楽器本来の響きを整える。 婚活支援も同じである。 人見知りの人を、無理に社交的な人にする必要はない。 静かな人を、盛り上げ上手にする必要もない。 華やかな人を、おとなしくする必要もない。 必要なのは、 「自分の個性が相手に届く状態」 へ整えることである。 25 プロフィールに嘘を書かなくても、「生き方の嘘」はある プロフィール上の嘘は分かりやすい。 年収。 年齢。 婚歴。 学歴。 職業。 これらを偽るのは当然問題である。 しかしもっと見えにくい嘘がある。 「何でも話し合える家庭を作りたい」 と書きながら、自分は本音を言わない。 「相手を尊重したい」 と書きながら、自分の希望通りにならないと不機嫌になる。 「穏やかな家庭が理想」 と言いながら、刺激の強い恋愛しか選ばない。 「価値観の違いを受け入れたい」 と言いながら、小さな違いで終了する。 プロフィールの文章より、行動の方が本当のプロフィールである。 26 婚活で現れる「言い間違い」と「何となく」の意味 フロイトは、言い間違いや忘却など、日常の小さな現象にも無意識の表れを見ようとした。 もちろん、すべての言い間違いに深い意味があるわけではない。 しかし婚活面談では、 「何となく」 という言葉に注意を向ける価値がある。 「何となく嫌でした」 「何となく違いました」 「何となく会いたくないです」 この「何となく」を、そのままにしない。 何があったのか。 声か。 視線か。 言葉か。 態度か。 自分の身体が緊張したのか。 過去の誰かを思い出したのか。 理由を探しても分からない場合もある。 それでも、 「何となく」の中身を丁寧に言葉にすることは、自分を知る練習になる。 27 身体は、頭より先に本音を知っていることがある ある相手と会った後、 ものすごく疲れる。 なぜか肩が凝る。 話している間ずっと笑顔を作っている。 家に帰るとほっとする。 これは大切な情報である。 逆に、 3時間話しても疲れない。 沈黙しても気まずくない。 帰宅後も穏やか。 その相手を「タイプではない」と思っていても、身体は安心している。 婚活では、条件だけでなく、 「その人といるときの自分」 を観察することが重要である。28 相手を評価するより、自分の変化を見る デート後、次の質問をしてみる。 「相手はどうだったか」 だけではなく、 「私はどうだったか」。 たとえば、 私は自然に笑っていたか。 無理して盛り上げていなかったか。 話を聞いてもらえていたか。 相手の前で小さくなっていなかったか。 自慢したくなっていなかったか。 必要以上によく見せようとしていなかったか。 沈黙が怖かったか。 また会うことを考えたとき、心が重いか軽いか。 結婚相手を選ぶとは、 相手そのものを選ぶと同時に、 その人と一緒にいるときの自分を選ぶこと でもある。 29 42歳女性Hさん――「条件は全部いいのに、なぜか苦しい」 Hさんは、ある男性と真剣交際寸前まで進んだ。 男性は43歳。 安定した職業。 誠実。 話も合う。 家族関係も良好。 結婚観も近い。 誰が見ても好条件だった。 しかしHさんはデートのたびに疲れた。 「いい人なので、断る理由がないんです」 と彼女は言った。 カウンセラーが尋ねた。 「会っている間、Hさんはどんな感じですか」 「ちゃんとしていなきゃ、と思います」 「どうして?」 「彼はすごくきちんとしているので」 「失敗したら?」 「がっかりされそう」 実際には、その男性がHさんを批判したことはなかった。 しかしHさんは、 「ちゃんとした人に認められたい」 という昔からの感情を刺激されていた。 彼女の母親は非常に几帳面で、 「ちゃんとしなさい」 が口癖だった。 Hさんは男性といるとき、恋人ではなく、 「採点される子ども」 になっていたのである。 そのことに気づいた後、Hさんは男性に率直に話した。 「あなたが悪いわけではないんですが、私はあなたの前で、ちゃんとしなければいけない気持ちになってしまうんです」 男性は驚き、 「僕は逆に、Hさんは完璧な人だと思っていて、僕もちゃんとしなきゃと思っていました」 と答えた。 二人とも演じていた。 その日から、二人の関係は少し変わった。 互いに失敗談を話すようになり、格好悪い姿を見せるようになった。 半年後、二人は成婚退会した。30 自分に嘘をつかないとは、すべてを相手に話すことではない ここは重要な点である。 本音を大切にすると言っても、 思ったことをすべて口にすることが誠実なのではない。 「あなたの写真はタイプじゃなかった」 「前の人の方が年収が高かった」 「もっと背が高ければよかった」 など、言う必要のないことまで伝えるのは誠実さではない。 自分に嘘をつかないことと、相手を傷つけない配慮は両立する。 成熟した本音とは、 感情をそのまま投げつけることではなく、 自分の感情に責任を持つことである。 31 「あなたが悪い」から「私はこう感じた」へ たとえば、 「あなたは冷たい」 ではなく、 「連絡が数日ないと、私は少し不安になります」 「あなたは何も決めてくれない」 ではなく、 「次の予定が早めに決まると私は安心します」 「価値観が合わない」 ではなく、 「私は休日を一緒に過ごす時間を大切にしたいです」 このように、 相手を裁く言葉から、 自分を説明する言葉へ変える。 これこそ、自分に嘘をつかず、相手にも誠実である会話である。 32 「普通の人でいい」という言葉の危うさ 婚活でよく聞く言葉に、 「普通の人でいいんです」 がある。 しかし、「普通」とは何だろう。 年収500万円。 大卒。 正社員。 清潔感。 常識。 コミュニケーション能力。 身長。 年齢。 家族関係。 これらを全部平均以上にすると、実は「普通」ではなくかなり限定された人物像になる。 さらに問題なのは、 「普通の人でいい」 と言いながら、 本当は特別な感情を求めているケースである。 ある女性は言った。 「条件は普通でいいんです。ただ、会った瞬間に何か感じる人がいいです」 これは「普通」ではない。 むしろ非常にロマンチックな条件である。 悪いことではない。 ただ、それを自覚した方がよい。 自分に嘘をつかない婚活とは、 「私はかなりロマンチックな恋愛観を持っています」 と認めることでもある。33 「結婚したい」のか、「結婚している自分になりたい」のか これは厳しい問いである。 しかし、非常に重要である。 結婚したい。 それは、 誰かと毎日を生きたいからなのか。 子どもを育てたいからなのか。 人生を共有したいからなのか。 それとも、 友人が結婚したから。 親に言われるから。 年齢的に焦るから。 独身だと思われたくないから。 老後が不安だから。 結婚していない自分を「失敗」と感じるから。 もちろん、動機は一つでなくてよい。 人間の動機は混ざっている。 しかし、 「私は結婚そのものより、結婚している自分という肩書きを欲しがっている部分がある」 と気づいたとき、婚活の景色は変わる。 34 婚活の焦りは、誰の声なのか 38歳になった。 40歳になった。 周囲の友人は結婚した。 親から、 「いつ結婚するの」 と言われる。 職場でも、 「いい人いないの?」 と聞かれる。 焦る。 しかし、その焦りのすべてが自分の声とは限らない。 母親の声。 父親の価値観。 世間の物差し。 SNS。 同級生との比較。 そうしたものが心の中に入り込み、 「急げ」 と言っていることがある。 フロイトは、心の中に社会的規範や禁止を内在化した働きを「超自我」という枠組みで考えた。 婚活でも、 「こうあるべき」 という内なる声は強い。 30代なら結婚しているべき。 女性なら子どもを望むべき。 男性なら家族を養うべき。 結婚するなら持ち家を買うべき。 親を安心させるべき。 しかし、 人生を生きるのは「べき」ではない。 あなた自身である。 35 超自我が強すぎる婚活――「正しい相手」を選ぼうとする人 36歳男性Iさんは、女性を見るとき、 「妻として正しいか」 を非常に重視した。 料理。 金銭感覚。 服装。 言葉遣い。 家庭観。 仕事。 親への態度。 すべてに明確な基準があった。 しかし不思議なことに、Iさん自身が、 「何をすると楽しいのか」 をあまり語れなかった。 「理想の結婚生活は?」 と聞くと、 「きちんとした家庭です」 と答える。 「きちんとした家庭とは?」 「夫婦で協力し、子どもを育て、親孝行して……」 「Iさん自身が、どんな瞬間に幸せを感じますか」 沈黙。 彼は「正しい人生」については詳しかったが、 「自分が望む人生」については、よく知らなかった。 36 「正解の結婚」ではなく、「自分たちの結婚」 結婚相談所の役割は、正解の夫婦像を押しつけることではない。 共働きでもいい。 専業主婦・主夫でもいい。 子どもを望んでもいい。 望まなくてもいい。 都会でも地方でもいい。 毎日一緒に夕食を食べてもいい。 互いに一人の時間を大切にしてもいい。 重要なのは、 二人が納得していることである。 自分に嘘をつかない婚活は、 社会の正解から離れて、 「私はどんな暮らしをしたいのか」 を考える婚活でもある。 37 親の期待と、自分の結婚 婚活では、親の影響が驚くほど大きい。 「公務員がいい」 母親がそう言っていた。 「長男は避けた方がいい」 姉がそう言った。 「地元の人にしなさい」 父親が言った。 もちろん家族の助言には意味があることもある。 しかし、 その条件は誰の人生を守るためのものなのか。 ここを分けなければならない。 38 31歳女性Jさん――母親の婚活をしていた女性 Jさんは、お見合い後、必ず母親に報告していた。 職業。 年収。 家族構成。 出身大学。 写真。 母親は細かく意見を言った。 「その会社は将来性あるの?」 「長男なの?」 「ご両親は何歳?」 「家は持ってるの?」 Jさん自身は好印象でも、母親が否定すると断った。 ある男性について、Jさんは、 「一緒にいて本当に楽でした」 と言った。 しかし、 「母が、転勤がある会社はやめた方がいいって」 という理由で終了しようとした。 カウンセラーは尋ねた。 「Jさんはどうしたいですか」 「……分かりません」 「お母様がいなかったら?」 Jさんは泣いた。 「会いたいです」 この涙が、彼女の本音だった。 もちろん親を無視する必要はない。 しかし、結婚するのは母親ではない。 39 「親を悲しませたくない」と「自分の人生を生きたい」 この二つも矛盾してよい。 親を大切にしたい。 でも、自分で選びたい。 どちらも本音である。 自分に嘘をつかないとは、 親を切り捨てることではない。 二つの感情を持っている自分を認め、 最終的に自分の責任で決めることである。 40 嫉妬――認めたくない感情ほど、婚活を支配する 婚活では、嫉妬も重要なテーマである。 友人が結婚した。 後輩が出産した。 SNSに幸せそうな写真が流れてくる。 「おめでとう」 と言いながら、胸が痛む。 そして、 「私は性格が悪い」 と自分を責める。 しかし、嫉妬することと、相手の不幸を願うことは違う。 嫉妬の奥には、 「私も欲しい」 という願いがある。 それなら、 嫉妬は自分の欲望を教えてくれる。 41 羨ましさを否定しない 「友人の結婚が羨ましい」 そう言っていい。 「子どもがいる家庭を見ると苦しい」 そう感じてもいい。 感情には道徳点数をつけなくてよい。 重要なのは、感情の扱い方である。 嫉妬したから相手を攻撃する。 それは問題である。 しかし、 「私は今、羨ましいんだな」 と認めるだけなら、誰も傷つけない。 42 婚活疲れと「やりたくない自分」 婚活を続けていると、疲れる。 検索。 申し込み。 お見合い。 メッセージ。 デート。 振り返り。 また次。 人間を効率的に選び続けるような感覚になり、 心が乾いてくることもある。 それでも、 「休んだら年齢が」 「止まったら成婚できない」 と自分を追い立てる。 しかし、 「今は婚活をしたくない」 という気持ちがあるなら、それも本音である。 43 休むことと、逃げることの違い 休むことは悪くない。 ただし、 「休む」 と 「怖いから永遠に避ける」 は違う。 自分に問う。 私は疲れているのか。 傷ついているのか。 断られるのが怖いのか。 理想の相手が現れず失望しているのか。 自分の年齢を見るのが嫌なのか。 理由によって必要な対応は違う。 44 夢と婚活――心は比喩で語ることがある フロイトといえば『夢判断』を思い浮かべる人も多い。 現代では、夢をフロイトの方法だけで科学的に解釈できると考えるべきではない。 しかし、 夢に現れたイメージを、 「今、自分は何を感じているのだろう」 と考えるきっかけにすることはできる。 ある婚活中の女性は、繰り返し、 「結婚式に遅刻する夢」 を見ていた。 彼女は、 「早く結婚しなきゃという焦りでしょうか」 と言った。 しかし話していくうちに、 「結婚式に間に合わない」 ことより、 「着いてしまったら本当に結婚しなければならない」 ことへの恐れがあると気づいた。 焦りと恐れが同時にあったのである。 45 「結婚できない不安」と「結婚する不安」は同時に存在する これは婚活で非常に重要である。 結婚できないのが怖い。 しかし、結婚するのも怖い。 自由がなくなるかもしれない。 相手を一生好きでいられるか分からない。 義理の家族との関係。 お金。 子育て。 仕事。 生活習慣。 人は「結婚したい」と思いながら、同時に「結婚したくない部分」を持つことがある。 その葛藤を認めないと、 相手探しの問題として現れる。 「いい人がいない」 本当は、 「いい人が現れて、本当に結婚することになるのが少し怖い」 のかもしれない。 46 「もっと良い人がいるかもしれない」の心理 現代婚活では、選択肢が多い。 検索条件を変えれば、また新しい人が表示される。 そのため、 「この人に決めた後、もっと良い人が現れたらどうしよう」 という不安が生まれる。 しかしこの迷いの奥にも、 「選ぶ責任を取りたくない」 という無意識が潜んでいることがある。 47 決断とは、可能性を捨てることである 誰かを選ぶとは、 選ばなかった未来を手放すことである。 これは怖い。 だから人は、 「もっと良い人」 を探し続ける。 しかし、 完璧な選択肢が現れるまで決断しない という戦略には一つ問題がある。 人生の時間も進むことである。 結婚相手選びに絶対の保証はない。 必要なのは、 「最高の人を当てる能力」 より、 「選んだ人と関係を育てる能力」 である。48 ショパンの演奏に「唯一の正解」がないように ショパンのバラードを、一人のピアニストだけが正しく演奏できるわけではない。 テンポ。 間。 音色。 ルバート。 解釈。 優れた演奏でも、それぞれ違う。 結婚も似ている。 世界に一人だけ「正解の相手」がいると考えると、婚活は苦しくなる。 実際には、 複数の可能性の中から、 二人で人生を育てていくのである。 49 「運命の人」を待つ心理 運命の人という言葉は美しい。 しかし、 「運命なら迷わないはず」 と思うと危険である。 良い相手に出会っても、迷う。 愛しても、不安になる。 結婚前には怖くなる。 それは自然である。 迷わないことが運命の証拠ではない。 50 恋愛感情を神託にしない 「好き」という感情は重要である。 しかし、感情だけですべてを決める必要はない。 好きだけれど危険な相手もいる。 最初は強く好きではなくても、信頼から愛情が育つ相手もいる。 婚活では、 感情。 理性。 身体感覚。 生活観。 価値観。 相手の行動。 時間。 それらを総合して見る。 51 「愛されたい」と「愛したい」の違い 婚活中は、 「相手が私をどう思っているか」 に意識が向きやすい。 好かれたか。 選ばれたか。 次のデートに誘われるか。 しかし、結婚生活では、 「自分がどう愛するか」 が重要になる。 相手が疲れているとき、どう接するか。 意見が違ったとき、どう話すか。 相手が失敗したとき、どう支えるか。 自分が不機嫌なとき、どう責任を取るか。 これらはプロフィール条件には書かれていない。 52 「選ばれる婚活」から「関係を作る婚活」へ ショパン・マリアージュが目指したい転換は、ここにある。 私は選ばれるか。 ではなく、 私たちは関係を作れるか。 相手は私を幸せにしてくれるか。 ではなく、 私たちは幸せを作れるか。 条件に合うか。 だけではなく、 違いを話し合えるか。 53 33歳男性Kさん――「美人に選ばれれば、自分の価値が上がる」 Kさんは外見へのこだわりが非常に強かった。 お見合い相手の写真を見て、 「もう少し綺麗な人がいいです」 と断ることが多かった。 ところが、過去の恋愛を聞くと、 付き合った女性との関係には満足していなかった。 「なぜ外見がそれほど重要なのでしょう」 と尋ねると、 「毎日見るものだから」 と答えた。 もっともらしい。 しかし、さらに話すと、 学生時代に容姿をからかわれた経験が出てきた。 「モテない」 と馬鹿にされた。 それ以来、 「綺麗な女性と付き合うこと」 が、自分の価値を証明する方法になっていた。 Kさんは後に言った。 「僕は奥さんを探しているつもりで、昔の同級生に勝つための女性を探していたんですね」 この気づきは大きかった。 54 相手を「自分の価値の証明」に使わない 社会的地位。 美貌。 学歴。 収入。 若さ。 職業。 それらを持つ相手と結婚することで、 自分の価値を高めようとする心理は珍しくない。 しかし、その場合、 相手自身を見ることが難しくなる。 相手が、 「自分を飾る存在」 になってしまうからである。 結婚は、トロフィーを得ることではない。 55 「条件が下がった」と考える人へ 婚活を続ける中で、 当初の条件を見直すことがある。 すると、 「妥協したくない」 という言葉が出る。 しかし、条件を変えることが必ずしも妥協とは限らない。 むしろ、 自分が本当に必要としているものが分かってきた結果かもしれない。 年収より、 話し合えること。 身長より、 安心感。 学歴より、 知的好奇心。 華やかさより、 生活の相性。 条件が「下がった」のではなく、 価値観が「深くなった」 可能性がある。 56 自分に嘘をつかない婚活の10の質問 婚活中、ときどき自分に問いかけてほしい。 1. 私は今、本当に結婚したいのか。 2. 結婚によって何を得たいのか。 3. それは誰かに認められるためではないか。 4. 私が強くこだわる条件には、どんな感情が隠れているか。 5. 私はどんな相手を繰り返し選んできたか。 6. 安心できる相手を「退屈」と感じていないか。 7. 断られる前に、自分から終わらせていないか。 8. 相手に好かれるため、自分を演じていないか。 9. 親や世間の価値観を、自分の価値観だと思い込んでいないか。 10. 私は「愛されること」だけでなく、「愛すること」を考えているか。 57 カウンセリング対話――「私は本当に結婚したいのでしょうか」 女性Lさん、40歳。 Lさん 「最近、自分が本当に結婚したいのか分からなくなりました」 カウンセラー 「分からなくなったこと自体は、悪いことではありません」 Lさん 「でも40歳です。こんなこと言っている場合じゃないですよね」 カウンセラー 「今の『こんなこと言っている場合じゃない』という言葉は、誰の声に近いですか」 Lさん 「……母ですね」 カウンセラー 「お母様は何と?」 Lさん 「早く決めなさいって」 カウンセラー 「Lさん自身の声は?」 Lさん 「怖いです」 カウンセラー 「何が?」 Lさん 「結婚した後に、やっぱり一人の方が良かったと思うことが」 カウンセラー 「では、『結婚したい』と『一人でいたい』の両方がある?」 Lさん 「あります」 カウンセラー 「どちらかを消さなくていいと思います」 Lさん 「そんなので婚活できますか」 カウンセラー 「できます。むしろ、その葛藤を知っている方が、現実的に相手を選べます」 Lさんは、その後、 「一人の時間を尊重できる結婚」 を望んでいることに気づいた。 彼女が嫌だったのは結婚ではない。 「何でも夫婦一緒」 という結婚像だった。 58 結婚像を具体的にすると、無意識の不安が言葉になる 「幸せな結婚がしたい」 だけでは漠然としている。 そこで具体化する。 平日の夕食はどうしたいか。 休日はどう過ごしたいか。 家計はどうするか。 家事はどう分担するか。 一人の時間は必要か。 親との距離は。 子どもは。 住む場所は。 仕事は続けたいか。 旅行は。 友人関係は。 寝室は。 生活リズムは。 具体化すると、 「自分が何を怖がっているか」 も見えてくる。 59 無意識を知るために、過去の恋愛を責めずに振り返る 過去の恋愛には、多くの情報がある。 誰を好きになったか。 どこに惹かれたか。 どこで苦しくなったか。 別れ際に何を感じたか。 同じパターンはなかったか。 ここで大切なのは、 「私は見る目がなかった」 と責めないことである。 当時の自分には、その選択に何らかの理由があった。 その理由を理解する。 60 「私はなぜ、冷たい人を好きになるのか」 ある女性は、いつも感情表現の少ない男性を好きになった。 カウンセリングで、 「優しい男性はどうですか」 と尋ねると、 「嬉しいけど、少し気持ち悪いです」 と答えた。 強い言葉だが、本人の正直な感覚である。 彼女の家庭では、父も母も愛情を言葉にしなかった。 家族は仲が悪いわけではない。 しかし、 「好き」 「ありがとう」 「大切だよ」 という言葉がほとんどなかった。 そのため、愛情表現の豊かな男性は、 「知らない文化の人」 のように感じた。 慣れているものが安全とは限らない。 しかし、心は慣れているものを「自然」と感じやすい。 61 「違和感」をすぐに相性の悪さと決めない 違和感には二種類ある。 一つは、 本当に相手と合わないという違和感。 もう一つは、 今までと違うから感じる違和感。 穏やかな人。 誠実な人。 感情を言葉にする人。 対等に話す人。 こうした相手が、これまでの恋愛パターンと違う場合、 良い意味での違和感が生まれることがある。 だから、 「違和感=終了」 ではなく、 「この違和感は何だろう」 と一度考える余白を持つ。 62 「自分に嘘をつかない」は、直感を絶対視することではない 近年、 「自分の気持ちに正直に」 という言葉がよく使われる。 しかし、 その瞬間の感情が常に自分の最深部の真実とは限らない。 怖さ。 防衛。 過去の傷。 偏見。 疲労。 それらも「感じ方」に影響する。 だから、 「なんとなく嫌」 を絶対視するのでもなく、 無視するのでもなく、 理解しようとする。 63 婚活で本当に怖いのは「相手がいないこと」だけではない 人は、 「結婚相手が見つからない」 ことを恐れる。 しかしもっと深いところでは、 「本当の自分を見せたら愛されない」 ことを恐れていることがある。 だから、 趣味を隠す。 弱さを隠す。 過去を隠す。 迷いを隠す。 寂しさを隠す。 しかし、一生隠し続けることはできない。 64 弱さを見せられる相手か 結婚相手を考えるとき、 「尊敬できるか」 「好きか」 と同時に、 「弱い自分を見せられるか」 を考えてほしい。 仕事で失敗した。 体調を崩した。 自信を失った。 年を取った。 親が病気になった。 収入が下がった。 そんなとき、 格好をつけずにいられるか。 結婚とは、人生の晴れの日だけを共有する契約ではない。 65 45歳男性Mさん――肩書きを外したときに残るもの Mさんは管理職で、高収入だった。 お見合いでは仕事の話が多かった。 部下。 会社。 実績。 海外出張。 女性からは、 「立派な方ですが、距離を感じます」 と言われた。 カウンセリングで、 「仕事を取ったら、Mさんはどんな人ですか」 と尋ねた。 Mさんは笑った。 「何もないかもしれません」 その後、彼は子どもの頃からピアノが好きだったこと、映画を見ると涙もろいこと、休日には一人でパン屋を巡ることを話した。 プロフィールの自己PRにも少し書いた。 デートでも仕事の話ばかりせず、 「最近見た映画で泣いた」 と話した。 すると女性から、 「初めて人間らしい感じがしました」 と言われたという。 Mさんは笑って報告した。 「僕、ずっと履歴書みたいな婚活をしていたんですね」 66 肩書きはあなたを説明するが、あなたそのものではない 医師。 公務員。 会社員。 経営者。 教師。 年収。 学歴。 これらは重要な情報である。 しかし、 人はスペック表と結婚するのではない。 朝起きたときに隣にいる人。 疲れて帰宅したときに話す人。 失敗したときに支え合う人。 笑い方。 沈黙。 生活の癖。 優しさ。 弱さ。 そうしたものと暮らす。 67 性愛を避けすぎない フロイトを語るなら、性愛の問題を避けることはできない。 ただし、婚活において重要なのは、露骨な意味ではない。 結婚相手に対して、 身体的な親密さを持てそうか。 手をつなぐことを想像したときどう感じるか。 距離が近づいたときに強い嫌悪がないか。 これは無視できない要素である。 条件が良いからといって、 身体的な拒否感まで我慢する必要はない。 一方で、最初から強烈な性的魅力がなければ結婚できない、と考える必要もない。 親密さは、信頼とともに育つ場合もある。 68 「生理的に無理」という言葉の中身 これは扱いが難しい言葉である。 本当に身体が拒絶する場合もある。 無理に続ける必要はない。 しかし、 「生理的に無理」 という言葉で思考を止めず、 可能なら何が嫌だったのかを確認する。 匂い。 距離感。 清潔感。 話し方。 視線。 食べ方。 過去の誰かを連想した。 自分の緊張。 具体化すれば、次の出会いに活かせる。 69 「本音」と「衝動」を区別する 自分に嘘をつかない、と聞いて、 「好きなら既婚者でもいい」 「今の恋人より刺激的だから乗り換える」 という話にはならない。 本音と衝動は同じではない。 成熟とは、 欲望を否定することでも、 欲望のまま行動することでもなく、 欲望を理解したうえで選択することである。 70 自分の欲望に責任を持つ たとえば、 「私は、手に入りにくい相手ほど欲しくなる傾向がある」 と気づいた。 それは大きな前進である。 次に、 「だから、この人が本当に好きなのか、手に入りにくいから執着しているのか、少し時間を置いて考えよう」 と選べる。 無意識に支配されるのではなく、 無意識を知ったうえで行動を選ぶ。 これが精神分析的な自己理解の価値である。71 「好きになれない自分」を責めない 婚活では、 「相手はいい人なのに、好きになれません」 と罪悪感を持つ人がいる。 しかし、 相手が良い人だから好きにならなければならない、 という義務はない。 愛情は道徳的義務ではない。 ただし、 「好きになれない」 という結論を急ぎすぎていないかは考えてよい。 72 恋愛感情がゆっくり育つ人 初対面で恋に落ちる人もいれば、 信頼ができるまで感情が動かない人もいる。 後者の人が、 「1回目でときめかなければ終了」 というルールを採用すると、自分の心のリズムに合わない婚活になる。 自分に嘘をつかないとは、 世間の恋愛速度ではなく、 自分の感情の速度を知ることでもある。 73 ショパンの前奏曲のような出会い 短い曲の中に世界があるように、 短いお見合いにも、相手の本質が少し現れることがある。 しかし、 一度の演奏で作品のすべてが分からないように、 一度の面談で人のすべては分からない。 第一印象を大切にしつつ、 断定しすぎない。 この余白が、婚活には必要である。 74 初回デートで見るべきこと 「盛り上がったか」 だけでなく、 相手は店員にどう接するか。 こちらの話を遮らないか。 質問だけでなく、自分の話もするか。 時間を守るか。 違う意見を聞けるか。 こちらが少し失敗したとき、どう反応するか。 こうした小さな場面に、長期的な関係性が現れる。 75 自分に嘘をつかない人は、相手にも「完璧」を要求しにくくなる 自分の中に、 嫉妬もある。 不安もある。 依存したい気持ちもある。 格好をつけたい気持ちもある。 それを認められる人は、 相手の不完全さにも少し寛容になれる。 逆に、 「私は常に正しい」 と思うほど、 相手の欠点が許せなくなる。76 成熟した結婚は「欠点のない二人」が作るのではない 欠点がない人はいない。 問題は、 欠点をどう扱うかである。 怒りっぽい。 なら、怒りをどうコントロールするか。 忘れっぽい。 なら、仕組みで補えるか。 一人の時間が必要。 なら、相手と合意できるか。 お金に慎重。 なら、価値観を話し合えるか。 欠点そのものより、 自己理解と対話能力が重要になる。 77 真剣交際前に確認したい 「自分への嘘」 真剣交際に進む前には、 一度静かに考えてほしい。 私は、 年齢が気になるから進もうとしていないか。 相談所の担当者に期待されているから進もうとしていないか。 親が喜びそうだから進もうとしていないか。 条件が良いから、感情を無視していないか。 逆に、 怖くなったから終了しようとしていないか。 もっと良い人への幻想で逃げようとしていないか。 過去の恋人と比較しすぎていないか。78 成婚退会は「迷いがゼロになる日」ではない 結婚を決めるとき、 100パーセント不安がなくなる人ばかりではない。 むしろ、 「本当に大丈夫だろうか」 と考えるのは自然である。 重要なのは、 不安があることではなく、 その不安を二人で扱えること。 79 不安を隠さず話せる関係 「結婚したいけれど、生活が変わるのが少し怖い」 「子育てに自信がない」 「お金について心配がある」 「親との距離について相談したい」 こうした話ができる相手なら、 結婚後に問題が起きたときも対話できる可能性が高い。 80 「自分に嘘をつかない」と「相手に誠実である」は同じ方向にある 自分の本音を知れば、 相手を騙さなくて済む。 結婚後も仕事を続けたいなら、伝える。 子どもを望むなら、伝える。 一人の時間が必要なら、伝える。 親との同居が難しいなら、伝える。 本音を知らないまま相手に合わせることの方が、後で大きな不誠実になる。 81 40歳女性Nさん――「条件を捨てた」のではなく「本音を見つけた」 Nさんは入会時、 「年収800万円以上」 を希望した。 しかし半年後、600万円台の男性と交際が進んだ。 友人から、 「妥協したの?」 と言われた。 Nさんは以前なら傷ついただろう。 しかし今回は笑って答えた。 「私、本当は800万円が欲しかったんじゃなかったみたい」 彼女が欲しかったのは、 経済的な見通し。 浪費しないこと。 将来設計を話せること。 共働きを尊重してくれること。 だった。 交際相手は年収こそ800万円に届かなかったが、家計管理が堅実で、貯蓄もあり、二人の生活設計を具体的に話せた。 条件を下げたのではない。 条件の意味を理解したのである。 82 婚活で「自分を知る」とは、自己分析シートを書くことだけではない 自己分析は役立つ。 しかし、 紙に書いた「私はこういう人間です」 だけが自分ではない。 実際の出会いの中で、 嫉妬した。 腹が立った。 惹かれた。 怖くなった。 逃げたくなった。 安心した。 そうした感情から、自分が見えてくる。 婚活そのものが自己理解の実験室になる。 83 失敗したお見合いにも意味がある 断られた。 それだけなら苦しい。 しかし、 「なぜ私はあのとき、ずっと自分の話ばかりしたのだろう」 「なぜ相手が黙った瞬間、焦ってしまったのだろう」 「なぜ相手の職業を聞いた途端、態度が変わったのだろう」 と考える。 すると、失敗が情報になる。 84 「断られた=価値がない」という誤解 婚活で断られると、 人格を否定されたように感じる人がいる。 しかし実際には、 相性。 タイミング。 好み。 生活条件。 別の交際。 さまざまな理由がある。 一人から選ばれなかったことと、 人間として価値がないことは、 まったく別である。 85 断られたときに現れる「昔の自分」 しかし、断られた痛みが強い場合、 過去の体験が刺激されていることもある。 学生時代の仲間外れ。 親から比較された経験。 元恋人の裏切り。 「また私は選ばれなかった」 その「また」に注目する。 今の相手だけの問題ではない可能性がある。 86 「婚活はつらい」ではなく、「何がつらいか」 婚活疲れを一つの言葉にしない。 断られるのがつらい。 比較するのがつらい。 写真を見るのがつらい。 初対面を繰り返すのがつらい。 年齢を意識するのがつらい。 親に報告するのがつらい。 それぞれ対策が違う。 87 自分に嘘をつかない婚活の実践――婚活日記 おすすめしたいのが、短い婚活日記である。 デート後に4項目だけ書く。 「事実」 「感情」 「解釈」 「本音」 たとえば、 事実 相手から次回の予定をその場で聞かれなかった。 感情 不安、少し寂しい。 解釈 私に興味がないのかもしれない。 本音 できれば相手から積極的に誘ってほしい。 これを分けるだけで、 事実と想像を混同しにくくなる。 88 「事実」と「解釈」を分ける これは非常に重要である。 相手から返信が半日来なかった。 これは事実。 「私に興味がない」 これは解釈。 「嫌われた」 も解釈。 「他の女性を優先している」 も解釈。 事実と解釈を分けると、 過去の不安に支配されにくくなる。 89 婚活カウンセラーは「正解を教える人」ではない ショパン・マリアージュにおけるカウンセラーの役割は、 「その人はやめなさい」 「その人にしなさい」 と人生を決めることではない。 本人が自分の心を聴けるように支援することである。 ときには、 「本当にそうでしょうか」 と問い返す。 ときには、 「前にも似た理由で終了していましたね」 とパターンを示す。 ときには、 「怖いのかもしれませんね」 と言葉にする。 答えを与えるのではなく、 本人の中にある答えに光を当てる。 90 カウンセリング対話――「もっと良い人がいる気がする」 男性Oさん、37歳。 Oさん 「今の女性、いい人なんです。でも決めきれません」 カウンセラー 「何が足りませんか」 Oさん 「それが分からないんです」 カウンセラー 「もっと良い人がいる?」 Oさん 「はい」 カウンセラー 「もっと良い人とは?」 Oさん 「もう少し綺麗で、もう少し若くて、話も合って……」 カウンセラー 「その人が現れたら決められますか」 Oさん 「たぶん」 カウンセラー 「『たぶん』なんですね」 Oさん 「……そうですね」 カウンセラー 「今まで、かなり条件の良い方とも会いましたよね」 Oさん 「はい」 カウンセラー 「その時は?」 Oさん 「別のことが気になりました」 カウンセラー 「では、問題は相手の条件だけでしょうか」 沈黙。 Oさん 「決めるのが怖いのかもしれません」 カウンセラー 「何が怖い?」 Oさん 「選んだ後で後悔することです」 カウンセラー 「選ばないまま後悔する可能性は?」 Oさんは、そこで初めて笑った。 「それは考えてませんでした」 91 後悔ゼロの人生は存在しない どの道を選んでも、 別の道は残る。 都会に住めば、地方の暮らしを失う。 地方に住めば、都会の便利さを失う。 子どもを持てば、自由な時間は減る。 持たなければ、別の人生を経験しない。 誰と結婚しても、 別の誰かとの人生は生きられない。 成熟した選択とは、 後悔の可能性をゼロにすることではない。 「私はこの道を選ぶ」 と引き受けることである。 92 婚活における「自由」とは、選択肢の多さではない 何万人から選べることが自由なのではない。 自分が何を望んでいるかを理解し、 自分で決められること。 それが本当の自由に近い。 93 フロイトから学べる最大のこと フロイトの学説すべてを、現代人がそのまま信じる必要はない。 しかし、 「人は自分自身を完全には理解していない」 という洞察は、今なお深い。 私たちは、 「私はこういう人」 「私はこういう人が好き」 「私はこういう結婚がしたい」 と語る。 しかし、人生はしばしば、その説明からはみ出す。 そこにこそ、自分を知る入口がある。 94 心の地下室を怖がらない 無意識という言葉を聞くと、 心の奥に恐ろしいものが隠れているように感じるかもしれない。 しかし、そこにあるのは悪意だけではない。 愛したい気持ちもある。 誰かに抱きしめてほしかった寂しさもある。 認めてほしかった子どもの自分もいる。 本当は甘えたかった自分もいる。 強がってきた自分もいる。 それらを知ることは、 自分を壊すことではない。 むしろ、自分を取り戻すことである。 95 「私は寂しい」と言える強さ 婚活では、 「一人でも平気です」 と言う人がいる。 本当にそうならよい。 しかし、 寂しいのに平気なふりをする必要はない。 「誰かと生きたい」 という願いは、弱さではない。 人間は他者との関係を求める存在である。 96 「依存しない」と「頼らない」は違う 成熟した結婚は、 何でも一人でできる二人が暮らすことではない。 頼る。 助けてもらう。 支える。 弱音を吐く。 それができる関係である。 自立とは、 誰にも頼らないことではなく、 頼ることを自分で選べることである。 97 成婚した夫婦Pさん・Qさん――「完璧じゃないから話せた」 Pさん39歳。 Qさん36歳。 最初のお見合いは、特に盛り上がらなかった。 互いに、 「普通に感じの良い人」 程度の印象だった。 しかし2回目のデートで、Pさんが仕事の失敗について話した。 「実は最近、かなり落ち込んでいて」 Qさんは、 「そういう話をしてくれるんですね」 と少し驚いた。 Qさんも、 「私も婚活で断られるたびに、自信をなくします」 と話した。 それまで二人は、 互いに「ちゃんとした婚活相手」を演じていた。 そこから関係が変わった。 弱さを話せるようになった。 意見も違った。 Pさんは地方暮らしを望み、 Qさんは都市部を希望した。 一度は交際終了も考えた。 しかし、 「どちらかが我慢する」 ではなく、 「なぜそれを望むのか」 を話した。 Pさんが求めていたのは自然そのものより、 静かな生活だった。 Qさんが求めていたのは都会そのものより、 仕事を続けられる環境だった。 結果として、都市近郊に住むという第三の選択肢が見つかった。 二人は成婚した。 後にQさんが言った。 「最初から運命の人だと思ったわけではありません。でも、話しているうちに、この人とは問題が起きても話せると思いました」 結婚とは、問題が起きない相手を探すことではない。 問題が起きたとき、一緒に考えられる相手と出会うことなのだ。 98 「本当の私を分かってほしい」の落とし穴 本音を大切にすると、 「何も言わなくても分かってほしい」 となる人がいる。 しかし、それは別問題である。 本当の自分は、説明しなければ相手には分からない。 「察してほしい」 ではなく、 言葉にする。 99 愛とは、読心術ではない 恋人が、 何を考えているか。 何を望んでいるか。 完全には分からない。 だから尋ねる。 「どう思った?」 「どうしたい?」 「私はこう感じたけれど、あなたは?」 この小さな会話の積み重ねが、結婚を作る。 100 「自分に嘘をつかない婚活」の7つの実践原則 最後に、ショパン・マリアージュの実践として整理したい。 1 感情を善悪で裁かない 嫉妬。 不安。 焦り。 寂しさ。 欲望。 まず存在を認める。 2 繰り返しているパターンを見る 誰を好きになるか。 どこで逃げるか。 何を理由に断るか。 繰り返しは、無意識からの手紙である。 3 条件の奥にある願いを探す 年収。 学歴。 外見。 年齢。 その数字の奥にある感情を考える。 4 安心を「退屈」と誤解しない ドキドキだけで判断せず、 その人といる自分の心と身体を見る。 5 嫌われないために自分を消さない 意見を持つ。 希望を伝える。 対話する。 6 親や世間の声と、自分の声を分ける 誰の人生なのかを忘れない。 7 完璧な相手ではなく、対話できる相手を探す 結婚とは完成品を買うことではない。 二人で作り続ける関係である。 終章 自分に嘘をつかない人は、愛に対して少し勇敢になれる 婚活で最も苦しいのは、 理想の相手に出会えないことだけではない。 自分が何を望んでいるのか分からなくなることである。 若さ。 年収。 学歴。 容姿。 職業。 家族。 世間。 親。 SNS。 過去の恋愛。 さまざまな声が響く中で、 自分自身の声は、とても小さい。 だから、ときどき静かになる必要がある。 「私は、何を望んでいるのだろう」 「私は、何を怖がっているのだろう」 「私は、誰から認められたいのだろう」 「私は、どんな人といるとき、自分らしくいられるのだろう」 フロイトが私たちに残した最も大きな問いは、 「あなたの意識しているあなたが、あなたのすべてではない」 ということなのかもしれない。 自分でも知らなかった自分。 認めたくなかった自分。 傷ついていた自分。 愛されたかった自分。 それらを排除するのではなく、 少しずつ自分の人生の中へ迎え入れていく。 それが「自分に嘘をつかない」ということだろう。 婚活は、 理想の自分を演じ続ける舞台ではない。 一人の人間として、 不完全な自分を連れて、 もう一人の不完全な人間に会いに行く旅である。 そこにはもちろん、断られる日もある。 自信を失う夜もある。 「もうやめたい」 と思う日もある。 しかし、それでも一つずつ出会いを重ねる中で、 「私はこういう人を求めていたと思っていたけれど、本当は違った」 という発見がある。 「私は強い人だと思っていたけれど、本当は安心して甘えたかった」 という発見もある。 「私は結婚相手を探していたつもりだったけれど、自分の価値を証明してくれる人を探していた」 と気づく日もある。 そうした気づきは、ときに痛い。 だが、その痛みの向こうに自由がある。 自分の無意識に気づくとは、 無意識をなくすことではない。 人は一生、自分の心を完全には理解できない。 それでも、 以前より少しだけ自分の心を知っている。 以前より少しだけ、自分の反応を選べる。 以前より少しだけ、相手を過去の誰かではなく、目の前の一人の人として見られる。 その「少し」が、人生を大きく変える。 ショパンの音楽には、言葉では説明しきれない感情がある。 喜びの中に悲しみがあり、 悲しみの中に希望があり、 静けさの中に情熱がある。 人間の心も同じである。 「愛したい私」と、 「傷つきたくない私」。 「結婚したい私」と、 「自由でいたい私」。 「誰かを信じたい私」と、 「裏切られるのが怖い私」。 どちらか一方だけが本当の自分なのではない。 その矛盾したすべてが、自分である。 だから婚活で必要なのは、 矛盾を消すことではない。 自分の中にある複数の声を聴き、 「それでも私は、どんな人生を選びたいのか」 と決めることである。 そして、本当に相性のよい相手とは、 あなたの欠点を一切刺激しない人でも、 あなたの理想条件をすべて満たす人でもない。 あなたが無理に演奏しなくても、 少しずつ自分本来の音を出せる人なのかもしれない。 背伸びをしなくていい。 黙っていても怖くない。 違う意見を言っても、関係が壊れない。 弱い自分を見せても、軽蔑されない。 そして相手もまた、 あなたの前で自分の音を鳴らすことができる。 二つの旋律は、同じである必要はない。 違うからこそ、和音になる。 婚活とは、 自分に合う完成された旋律を探し回ることではなく、 一緒に音楽を作れる人を見つけることなのだろう。 そのための最初の一音は、 相手への言葉ではない。 自分自身に向けた言葉である。 「私は、本当はどうしたいのだろう」 その問いに、 格好をつけず、 世間に合わせず、 過去から逃げず、 静かに耳を澄ませる。 そこから、 自分に嘘をつかない婚活が始まる。 そしてそれは同時に、 誰かを本当に愛する準備の始まりでもある。 ショパン・マリアージュが願う婚活とは、 「条件の良い相手を効率よく獲得すること」 だけではない。 一人ひとりが自分の心を知り、 自分の人生に責任を持ち、 誰かに幸せにしてもらうのではなく、 誰かと幸せを育てられる人になっていくこと。 その先に、 条件だけでは説明できない、 静かで、深く、長く響くご縁がある。 華やかなファンファーレではなくてもよい。 むしろ、日々の暮らしの中で、 何度聴いても疲れない旋律のような人。 悲しい日にそっと隣で響き、 嬉しい日には一緒に明るく鳴り、 沈黙の日にも、そこにいることを感じられる人。 そんな相手と出会うために、 まず自分自身の心の音を聴く。 それこそが、 フロイトから学ぶことのできる、 「自分に嘘をつかない婚活」の核心なのである。