相続は「何をするか」だけでは決まらない|いつ・誰に・どう伝えるかまで考える
相続では、「正しいことを言えば、話が進む」とは限りません。何をするかと同じくらい、いつ、誰から、どのように伝えるかが大切なことがあります。
相続のご相談を受けていると、「この遺産分割協議書で登記できますか」「相続人に何を伝えればよいですか」といったご質問をいただくことがあります。 法律上できるか、登記できるかを確認することは、もちろん大切です。ただ、実際の相続では、もう一つ考えたいことがあります。
「できるか」だけでなく、「今、それをするのがよいのか」まで考える。
この記事の内容
・たとえば、こんな相続です
・私なら、まず「書類を作る前」を整理します
・「何を伝えるか」より先に、「誰から伝えるか」を考える
・同じ内容でも、「言い方」で受け取られ方が変わります
・「今は言わない」という判断もあります
・登記できることと、今登記することは別です
・この判断例の分かれ道
・相続の「進め方」とは、こういうことです
・あわせて読む
・まだ揉めていない相続だからこそ、順番が大切です
たとえば、こんな相続です
父が亡くなり、相続人は母と子ども2人。 大きな争いになっているわけではありませんが、長男は「父のお金がどう動いたのか分からない」「本当にこれが相続財産の全部なのか」と疑問を持っています。一方、母は「早く遺産分割協議書を作って、相続登記を終わらせたい」と考えています。 この段階で、母ともう一人の相続人が署名した遺産分割協議書を作り、いきなり長男に「この内容で印鑑を押してください」と送ったらどうでしょうか。 書類の内容自体に問題がなかったとしても、長男からすると、「自分の疑問には答えないまま、結論だけ決められた」と感じるかもしれません。
私なら、まず「書類を作る前」を整理します
このような場合、私はすぐに遺産分割協議書を完成させることより、まず次のことを整理します。
- 現在、確認できている相続財産は何か
- 過去のお金の流れで、確認が必要なものはないか
- 誰が、どの資料を確認しているのか
- 相続人それぞれが、何を疑問に思っているのか
- 今、遺産分割まで進められる状態なのか
もし相続財産そのものについて認識が一致していないのであれば、先に財産を洗い出したほうがよいこともあります。 場合によっては、急いで結論を出さず、いったん未分割の状態で置いておくことも選択肢になります。そのときは、相続登記の申請義務の期限(相続を知った日から3年)や、相続税の申告期限があるかどうかも見ながら判断します。遺産分割がまとまらないまま登記の期限が来るときの手当ては、次の記事で整理しています。
相続人申告登記とは|遺産分割が決まらないまま相続登記の期限が来たら
「何を伝えるか」より先に、「誰から伝えるか」を考える
相続人への連絡も同じです。専門家から直接説明したほうがよいこともあれば、まず家族本人から伝えてもらったほうがよいこともあります。 たとえば、家族の間でまだ普通に話ができるのであれば、最初から司法書士名で堅い通知を送ることで、相手が「何か法的なことをされるのではないか」と身構えてしまう場合もあります。 逆に、すでに直接のやり取りが感情的になっている場合には、専門家が間に入り、事実関係だけを整理して伝えたほうが落ち着くこともあります。
同じ内容でも、「言い方」で受け取られ方が変わります
たとえば、「この内容で決まりましたので、遺産分割協議書に実印を押してください」と突然伝えれば、相手は「自分抜きで決められた」と感じるかもしれません。 一方で、「現在確認できている財産をいったん整理しました。ほかに把握されている財産や確認したい点があれば、まず教えてください」と伝えれば、最初の目的は「押印をもらうこと」ではなく、認識をそろえることになります。 最終的に同じ遺産分割をする場合でも、そこに至る順番によって、話の進み方は変わります。
「今は言わない」という判断もあります
ここでいう「言わない」は、必要な事実を隠すという意味ではありません。 相続人に伝える必要があることは、きちんと伝えます。その前提で、まだ確認できていないことを断定しない、今伝える必要のない論点まで一度に広げない、という判断をすることがあります。 たとえば、ある財産について贈与だったのか、貸付だったのか、まだ資料を確認できていない段階で「これは贈与です」と決めつけて相手に伝えてしまえば、本来必要のなかった争いを生むことがあります。 まず資料を確認し、そのあとで必要な論点を伝える。これも相続の進め方の一つです。
登記できることと、今登記することは別です
司法書士ですから、もちろん「この書類で登記できるか」は確認します。しかし、相続相談では、それだけで終わらないことがあります。 法律上は登記できても、家族の認識がそろっていない、財産の確認が終わっていない、将来の売却や2次相続を考えると別の分け方もあり得る。そんな場合には、こうお話しすることもあります。
「登記できます。ただ、私は今は急がないほうがよいと思います」
この判断例の分かれ道
下の図は、この例の分かれ道を1枚にしたものです。状況、分かれ目、2つの道、ポイントの順に並べています。
- 状況:父が亡くなり、相続人は母と子2人。長男は「父のお金がどう動いたのか」「本当にこれで全部か」と疑問を持っている。母は早く遺産分割協議書を作って、相続登記を終わらせたい
- 分かれ目:書類を先に送るか、認識をそろえてから進めるか
- 書類を先に送る場合:母ともう一人が署名した協議書を、いきなり長男へ送る。書類の内容に問題はなくても、長男は「自分の疑問には答えないまま、結論だけ決められた」と感じる
- 認識をそろえる場合:財産・お金の流れ・それぞれの疑問を、書類を作る前に整理し、「ほかに把握されている財産や確認したい点があれば、まず教えてください」と伝える。場合によっては、いったん未分割のまま置く。この例の答えは、こちらです
本当に詰まるのは、手続きとして正しいことと、相手が受け止められることが一致しないことです。協議書の内容に問題がなくても、疑問に答えないまま結論だけを送れば、押印をもらうことが目的になってしまいます。分かれ目は、書類を作る前に、財産とそれぞれの疑問を整理して、認識をそろえるかどうかです。 ほかのご家族がどう決めたか、そして自分たちは何を決める必要があるかは、次の2つのページに整理しています。
相続の「進め方」とは、こういうことです
当事務所のホームページでは、「相続全体の道筋を整える」という言葉を使っています。これは、手続きの順番だけを意味しているわけではありません。
【箇条書き】※5行を選択して箇条書きの書式を当てる
- 今進めるのか、少し待つのか
- まず何を確認するのか
- 誰から相手に伝えるのか
- 何を、どこまで伝えるのか
- どのタイミングで次の手続きに進むのか
こうしたことも含めて整理することが、私が考える「相続の進め方」です。
あわせて読む
【箇条書き】※3行を選択して箇条書きの書式を当てる。各行の「:」の前だけを太字にする
- 最初の相談で描く道筋:遺言・遺留分・不動産が絡む初回の相談で、道筋をどう描いたかの例です
- 全部まとめて遺産整理:財産の洗い出しから、遺産分割協議書、名義変更まで、まとめてお任せいただく場合のご案内です
- 相続登記:進め方・費用・期限から、次の相続の準備までのご案内です
最初の相談で描く、相続の道筋|遺言・遺留分・不動産が絡む初回相談の実際
相続登記のご案内|進め方・費用・期限から、次の相続の準備まで
まだ揉めていない相続だからこそ、順番が大切です
すでに激しい争いになっている場合には、弁護士をご紹介します。 一方で、「まだ揉めてはいないけれど、少し話しにくい」「このまま進めてよいのか不安」という段階であれば、進め方を整理することで、余計な行き違いを減らせることがあります。 相続登記をする。遺産分割協議書を作る。預金を解約する。もちろん、どれも大切な手続きです。
でも、その前に。「何をするか」だけでなく、「いつ・誰に・どう伝えるか」まで、一度考えてみる。
司法書士田中康雅事務所では、相続登記や遺産整理のご相談を入口として、法・税・暮らし・想いの4つの視点から、ご家族にとって無理のない相続の道筋を一緒に整理しています。まだ揉めてはいないけれど少し話しにくい、という段階でも、ご相談いただけます。初回のご相談は無料です。