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暮らしの道場

清掃員の画家

2013.09.29 15:00

たまたま付けたNHKで放送していたドキュメンタリー。


髭のおじいさんが映っていた。

どうやら商店街の清掃員をしているらしい。何十年も。

白髪頭は無造作に乱れ、シャツの裾も出ちゃっているような、一見小汚いようにも見える姿のおじいさんが

清掃したトイレの、綺麗なことといったらなかった。

便器に素手を突っ込んで磨き上げ

見落としてしまいそうなパイプの部分までもピカピカに光っていた。



はじめはトイレを汚す人に怒っていたのだが、ある時やめたという。


“怒ったらだめ

こちらから挨拶するようにした

「おはよーざいあっす!!」「ちゃんと食べてる?」って

不思議なんだけどそこから

酷く汚す人は雪解けるようにいなくなった

そこまでくるのに20年くらいはかかったかな”


「何も言わなくても、こちらが思っていることが相手に映るんやね」



そのおじいさんは絵を描く人で

使いこんだ掃除用具を描く。

便所ブラシやモップ、擦り切れたデッキブラシ、灰色になった雑巾

汚れたものを綺麗にする、それらが汚いはずはない、と。

それらを描く道具は捨てられたクレヨンや鉛筆だった。



おじいさんはすべてに生命を見ていた。

秋には商店街を落ち葉が舞い、一際掃除に苦労する。

その楠を切ってしまえ、という人もいる。

しかしおじいさんは言う

「全部があってこその我々なんじゃけぇ」

おじいさんの目には、自然に生命、掃除用具にも生命。



原爆ドームも描いている。

被爆した父は原爆について語らなかった。

おじいさんは原爆ドームに足を運ぶ。

原爆ドームについて聞かれても、自分は答えられるだけのものをもたない、分からない

だから、正面から、描くのだという。

おじいさんの絵は、ムンと、異様な力強さで迫ってくる。



息子が独立し、夫婦二人暮らし。小さな借家。夕御飯を作るのはおじいさんの担当。

食卓の前で一所懸命取材に答える奥さんに向かって

「まず食べてよ」って、にこにこしながら気遣う様子があたたかくて。




偉大。

あのおじいさんが何十年と、夏に汗をかき、冬に指を真っ赤にし、体を痛めてまで商店街を磨き続ける、その在り方がちっぽけであろうはずがない

いや、ちっぽけ、だけれど偉大。


あぁ。

自分を省みざるをえない…

とにかく

ただただ、ただまっすぐに、全うすること


あのおじいさん

もし道ですれ違っていたとしても、わたしは何も感じはしなかっただろう

むしろその風貌から、見下しさえしたかもわからない

その人がこんな天使のようであることなど

あんな風に人生を生き抜いてきたことなど

ちっとも知ることもなく



それぞれが人生を生きている

それぞれがちっぽけでも温かい心を抱えて



おじいさんの姿がわたしの心に大切なものを残した

今おじいさんのことを少し調べてみたら

ガタロさんというそうだ。

ガタロさんの素晴らしさを捉えているドキュメンタリーを、製作してくれた方々にも感謝。