「宇田川源流」【日本報道検証】 アメリカのイラン制裁は21世紀型冷戦の始まり
「宇田川源流」【日本報道検証】 アメリカのイラン制裁は21世紀型冷戦の始まり
毎週火曜日と木曜日は、「日本報道検証」として、まあニュース解説というか、またはそれに関連するトリビアの披露とか、報道に関する内容を言ってみたり、または、報道に関する感想や社会的な問題点、日本人の文化性から見た内容を書き込んでいる。実際に、宇田川が何を感じているかということが共有できれば良いと思っているので、よろしくお願いいたます
さて今回は「アメリカのイラン制裁は21世紀型冷戦の始まり」と題して、日本の報道では全く見えてこない、というよりは、単純に左翼的なトランプ批判に終始している日本のメディアでは、全くわからない世界情勢を見てみましょう。
今回の内容は、単なる「イラン制裁」ではなく、イランと取引する第三国まで圧力の対象にする二次制裁へと拡大していることです。トランプ政権は8月24日、イランとの取引を続ける国々に二次制裁を科す可能性を警告しました。ただし、この段階では直ちに制裁を発動することまでは見送っています。
そして、ここで中国が非常に重要になります。「イラン制裁なのに、なぜ中国が最初に反応するのか」理由は極めて単純で、中国がイラン産原油の最大の買い手だからです。ロイターによれば、2025年の中国によるイラン産原油の購入量は推定で日量約138万バレルに達しています。しかも中国は過去10年間、米国の制裁を回避できるような独自の製油所・金融・物流システムを構築してきました。中国の独立系製油所、いわゆる「ティーポット」がイラン産原油を購入することで、米国の制裁網をかなりの程度すり抜けてきたわけです。
したがって、アメリカが「イランの経済的生命線を切る」と考えた場合、どうしても中国に行き着きます。
ここが今回の問題の核心です。
アメリカから見れば、「イランを制裁する」⇒「イランの原油輸出を止める」⇒「最大の買い手である中国をどうするのか」という問題になります。逆に中国からすれば、「イランに対するアメリカの制裁」という話ではなく、「アメリカが中国企業、中国の金融機関、中国のエネルギー調達に直接手を突っ込んでくるのではないか」という問題になるわけです。
だから中国政府は、今回も「一方的な制裁」に反対すると表明しています。中国はイランとの経済関係を「合法的な貿易」と位置づけ、米国による制裁拡大が中国の利益に影響するなら必要な対抗措置を取るという姿勢を示しています。
つまり、中国がイランを守っているというより、中国自身の経済的主権を守ろうとしていると考えたほうがよいでしょう。そしてここから「米中報復合戦再燃」の可能性が出てきます。米国が中国企業を制裁する。中国が米国企業や米国製品に対抗措置を取る。米国がさらに制裁を拡大する。中国がさらに対抗する。こうなると、かつての米中貿易戦争とは少し違った形の「金融・エネルギー・制裁戦争」になっていきます。
実際、ロイターも今回の措置について、中国を新たな制裁対象にすれば「報復は避けられない」と指摘しています。そして非常に興味深いのが、1か月後には習近平国家主席のワシントン訪問が予定されているという点です。つまりトランプ政権としても、中国を本格的な二次制裁の対象にするタイミングは慎重に考えざるを得ません。
<参考記事>
米国の対イラン制裁、中国への影響は?米中「報復合戦」再燃の恐れも
ロイター 2026年8月25日
https://news.yahoo.co.jp/articles/c3dd6f35de39efdbc4161db875b2df654a756e43
「イランの勝利認めるなら戦争終わらせる」 ペゼシュキアン大統領、米制裁の回避が狙いか
8/22(土) 9:30配信 産経新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/4af57f0dd0b32b782d629dabb09e419dfd51f0ce
<以上参考記事>
では、なぜロシアとは話をしているのか。こが今回のアメリカ外交を見るうえで非常に面白いところです。8月25日、CIA長官ジョン・ラトクリフがモスクワを訪問しました。ただし、ここは一つ事実関係を訂正しておく必要があります。現時点で確認されている情報では、**ラトクリフ氏がプーチン大統領本人と面会したわけではありません。**ロシア側によれば、ラトクリフ氏はロシアの情報機関関係者と会談し、その結果についてプーチン氏に報告されたとされています。
これは非常に重要です。アメリカとロシアは敵対関係にあります。しかし、敵対しているからこそ、情報機関同士の接触が必要になることがあります。しかも現在のロシアは、イランとの関係を持っています。ロイターも、ラトクリフ氏のモスクワ訪問の背景として、ウクライナ問題だけではなくロシアによるイランへの支援も論点になった可能性を報じています。
つまりアメリカからすると、「ロシアを完全に敵として固定する」より、「ロシアとは話をする」「ウクライナ問題を処理する」「イランとの関係についてロシアに圧力をかける」「場合によってはロシアと一定の取引をする」という外交のほうが、戦略的には自由度が高いのです。ここにトランプ外交の特徴があります。敵国を全部まとめて敵にするのではなく、それぞれを分離して交渉する。これは中国に対するアメリカの戦略を考えるうえでも重要です。
北朝鮮についても同じ構造が見えてきます。8月19日、トランプ大統領は金正恩氏と2026年中に会談する予定があると発言しました。ただし、ここも「会談が決定した」とまでは言えません。むしろ現在の北朝鮮側の反応を見ると、金正恩氏がすぐに応じる状況ではありません。金与正氏は米国を依然として敵視する姿勢を示しており、北朝鮮側からはトランプ氏の呼びかけに冷淡な反応も出ています。しかし、トランプ氏が金正恩氏との会談を模索していること自体は重要です。なぜなら北朝鮮は、ロシア、中国、イランとそれぞれ関係を持っているからです。
特に北朝鮮とロシアの軍事関係はウクライナ戦争を通じて強くなっています。北朝鮮はロシアに兵員や軍事支援を提供しており、最近ではドローン運用要員を含む部隊派遣も報じられています。したがってアメリカが北朝鮮と直接話をするということは、単に「北朝鮮の核問題を解決する」という意味だけではありません。ロシア、中国、北朝鮮の間に存在する連携を、それぞれ別々に切り離していく外交とも見ることができます。
そう考えると「イラン中心」という見方がかなり面白くなります。現在の中東情勢を見ると、イランは単独の問題ではありません。イランには中国とのエネルギー関係があります。イランにはロシアとの軍事・外交関係があります。そしてイランをめぐる情勢は、北朝鮮、ロシア、中国を含む「米国に対抗する国々」の連携にも影響します。
そのため、アメリカがイランに圧力をかけると、その影響が中国、ロシア、北朝鮮へ波及していきます。逆に言えば、アメリカから見るとイラン問題は、中国との競争を行うための一つの戦場にもなります。ただし、ここで「アメリカの本当の敵は中国で、イランはその代理戦争に過ぎない」とまで言ってしまうと、少し単純化しすぎます。
イランにはイラン独自の核問題、イスラエルとの対立、中東における地域覇権、ホルムズ海峡、原油市場という非常に大きな問題があります。しかも今回の戦争はすでに半年に及んでおり、ロイターは8月27日時点で、トランプ政権が軍事攻撃を開始したものの、戦争が長期化し、経済制裁による圧力を強めながらも中国への直接的な攻撃は避けていると報じています。中国はイラン産原油の最大の顧客だからです。
ここが非常に重要です。
アメリカは中国を敵として認識しているからこそ、イランをめぐって中国と直接衝突することは避けたい。これは一見矛盾しているようですが、実際には合理的です。私は現在のアメリカ外交を「三層構造」で見ると分かりやすいと思います。一番下にあるのがイランへの直接的圧力です。軍事力、経済制裁、金融制裁、原油輸出規制によってイランを締め上げ、イランに交渉を迫る。その上にあるのが、ロシアとの交渉です。ロシアとウクライナの戦争を終わらせる可能性を探りながら、ロシアとイランの関係にも圧力をかける。
そして、そのさらに上にあるのが、中国との長期的な戦略競争です。中国がイラン産原油を買い続ければ、アメリカの対イラン制裁には穴が開きます。したがって中国をどう扱うかが問題になります。
しかし中国と全面的な経済戦争を始めれば、アメリカ自身も大きな損害を受けます。だからこそ、米国は中国に対して「制裁するぞ」と圧力をかけながら、実際の発動については慎重にしている。これはかなりトランプ的な外交です。「戦争をする」のではなく、「戦争できる状態を見せながら、相手を交渉のテーブルに座らせる」。そして、この外交を中国だけに対して行うのではなく、ロシアにも、北朝鮮にも行っていると考えると、現在の一連の動きが一本につながって見えてきます。
実は「中国包囲網」と少し違う。ただ、私は「中国包囲網」という言葉も少し違うと思います。むしろ現在のアメリカは、中国を中心とする連携を固定化させないことを狙っている可能性があります。中国、ロシア、北朝鮮、イランが完全に一つの陣営になれば、アメリカにとって非常に厄介です。
ところが、ロシアとは話す。北朝鮮とも話す。イランとは制裁と軍事圧力をかけながら交渉の可能性を残す。そして中国には最大限の圧力をかける。このやり方なら、4カ国を一つの「反米ブロック」にまとめさせないことができます。これは地政学的にはかなり重要です。言い換えるなら、「敵を一つにまとめて戦う」のではなく、「敵同士を分離して、一国ずつ交渉する」という戦略です。そして、その中心に現在イランが置かれている。
私は、今回の一連の動きを見るうえでは、この見方がかなり有効だと思います。そして日本にとって非常に重要なのが「原油」です。日本にとってこの問題が遠い中東問題ではないのは、ここです。イランへの制裁が中国のイラン産原油購入にまで波及し、中国が報復措置を取るようになると、単なる米中外交問題ではなくなります。中国は世界最大級のエネルギー消費国です。そこで中国がイラン産原油を買えなくなる、あるいはホルムズ海峡の混乱が続けば、原油価格、海運、保険料、電力・ガス価格などを通じて日本にも波及します。
さらに米中の「制裁合戦」になれば、半導体、レアアース、金融、海運、エネルギーなどにまで問題が拡大する可能性があります。ですから今回のニュースは、表面的には「アメリカ対イラン」のニュースですが、その奥には、「アメリカ対中国」「アメリカ対ロシア」「アメリカ対北朝鮮」という複数の問題が同時に動いている。そしてトランプ政権は、それらを一つの巨大な戦争として戦うのではなく、イランを軍事・経済圧力の中心に置きながら、ロシアと北朝鮮には交渉の窓口を開き、中国には経済・金融面から圧力をかけるという、非常に複雑な外交を展開している、と見ることができます。
ただし一点だけ、今後かなり注目すべきなのは、中国に対する「二次制裁」を実際に発動するのかどうかです。ここを越えれば、今回の問題は「対イラン制裁」から「米中経済・金融戦争の再開」へ性格が変わります。逆に、習近平氏の訪米などをにらんで中国への直接制裁を抑え、イランとの交渉に持ち込むことができれば、トランプ政権としてはかなり大きな外交的成果になります。その意味では、今後の焦点は「イランがどうなるか」だけではありません。「中国がイランを守るのか、それとも中国自身の利益を守るためにアメリカと取引するのか」そして、「トランプはロシア・北朝鮮との交渉によって、中国・ロシア・北朝鮮・イランを一つの反米陣営にさせないことができるのか」この二つです。
ここまで視野を広げると、今回のイラン制裁は、単なる中東政策ではなく、2020年代後半の国際秩序を決める「大国間の陣取り合戦」の一部として見ることができると思います。