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一号館一○一教室

ザナック製作総指揮『史上最大の作戦』

2026.09.03 02:20

神は
どちらの味方なのだ?


834時限目◎映画



堀間ロクなな


 新聞の記事で、今年(2026年)7月にフランス北西部のノルマンディー海岸一帯の戦争遺跡が国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の「世界文化遺産」に登録されたことを知った。いうまでもなく、第二次世界大戦下の1944年6月6日、米英を中心とする連合国軍が約4000隻の艦船で約20万人の将兵をこの地に上陸させ、ナチス・ドイツへの反攻の火蓋を切った「史上最大の作戦」にちなむものだ。ユネスコは当初、戦地の登録には消極的だったものの、ヨーロッパがファシズムから解放されて民主主義の確立につながった歴史的な意義を認めて決着がついたという。



 かくして、ノルマンディー上陸作戦は第二次世界大戦のエピソードにとどまらず、人類史におけるエポックメーキングなメルクマールとして位置づけられることになったわけだ。われわれはこれをどう受け止めたらいいのだろう? そこで、運命の一日を連合国軍側とドイツ軍側の双方からドキュメンタリー・タッチで再現した映画『史上最大の作戦(原題 THE LONGEST DAY)』を久しぶりに見直してみた。



 ハリウッドの伝説的なプロデューサー、ダリル・F・ザナックが製作総指揮にあたり、ケン・アナキン、アンドリュー・マートン、ベルンハルト・ビッキーの3人の監督を起用して1962年に完成させたこの作品は、その後いくつものノルマンディー上陸作戦を扱った映画が出現したいまなお特権的な地位を占めているといっていいだろう。それは、スタッフやキャストばかりでなく、当時の観客たちが第二次世界大戦を生き、「史上最大の作戦」が実施された空気を肌身で知っていたとの意味で、まさしくこの映画自体が時代の証人に他ならないからだ。



 そうした観点であらためて眺めたときに、わたしは壮大なスケールで描かれる数々の戦闘シーンよりもずっと琴線を刺激される場面と出くわした。そのあまり、つい笑いだしてしまったほどだ。



 いよいよノルマンディー上陸作戦の発動が迫るなか、アメリカ軍第82空挺師団のバンダーブーアト中佐(ジョン・ウェイン)は煩悶していた。かれが率いる落下傘部隊の使命は深夜にフランス内陸部へ侵入して早朝の上陸作戦の支援にあたることだったが、悪天候のもとでのパラシュート降下はわずかな誤差によって敵軍のまっただなかに流されて格好の標的となってしまう可能性があった。そんな状況を部下に強いることについて、かれは問いかけずにいられなかったのだ。



 「神はどちらの味方なのだ?」



 それから数時間後、ドイツ西部軍参謀総長ブルメントリット少将(クルト・ユルゲンス)もまた煩悶していた。ノルマンディー海岸周辺でさまざまに不穏な動きが報告され、ただの陽動作戦なのか、本格的な上陸作戦の前兆なのかと見解が割れるなか、かれは万全を期して機甲師団の派遣をベルリンに要請したところ、その権限を持つヒットラー総統は睡眠薬を飲んで就寝中につき判断が仰げないと拒絶される。かれは電話を切ると、肩をすくめて副官に向かってつぶやくのだ。



 「神はどちらの味方なのだ?」



 攻めるアメリカ軍側と、守るドイツ軍側のそれぞれのメイン・キャラクターに同じセリフを与えるとは! わたしはそこに映画制作者のユーモア感覚を見て取ったのだが、しかし、あとになってこれはただの笑い話ではないことに気がついた。つまるところ、「史上最大の作戦」がいくら途方もない規模いであったとしても、それは古代ギリシア・ローマ時代から連綿とつづいてきた神の意思をめぐっての戦争の系譜につらなるものだったのだ、と――。しかし、このときから1年あまりのち、広島と長崎に核兵器が使用されたことによって、もはや戦争は神ではなく科学の支配するところとなり、ついには現代のAI(人工知能)やドローンが戦場の主役となる状況を生みだすに至った。その意味では、神の意思をめぐる戦争の掉尾を飾る一幕としてノルマンディー上陸作戦はまさに「世界文化遺産」にふさわしいといえるかもしれない。



 ただし、冒頭で触れた新聞記事はさらにこんなことも伝えている。近年の地球温暖化にともなう海面上昇や波風による断崖の浸食によって、いまや海岸一帯は80年前とすっかり景観を異にして、アメリカ軍が上陸した激戦地のひとつ、ユタ・ビーチは砂浜が10メートルほども後退したため、そこに残された戦争遺跡はもはや消滅の危機に瀕しているのだとか……。