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【Rural Actインタビュー】自粛ではなく、楽しみながら支える。人吉「Rural Act」の挑戦

2026.09.14 06:00
熊本県南部の人吉球磨で去年初開催された「Rural Act」。令和2年7月豪雨から6年、令和8年熊本地から2カ月。「フェス開催することで地域を支え、被災地を支える」。この強い思いを持って、今年の開催が決まった。音楽を通じて人と人をつないでいく。そしてRural Actでは音楽を楽しむだけではなく、誰かを支えるひとりにもなれる。Rural Act実行委員会メンバーで一般社団法人らぞLABO代表理事の北貴之さんにメールインタビュー。


––– 今年の熊本地震での人吉での被害状況を教えてください。

 人吉市でも7月28日の地震で震度5弱を観測しました。幸い、建物への大きな被害はなかったんですが、市内の広い範囲で断水が発生しました。また、九州自動車道も通行止めになったことで物流が止まり、物資がなかなか入ってこないという状況もありました。直接的な建物被害以上に、市民生活や地域の経済、観光にも大きな影響があったと感じています。

––– 地震から1カ月が経ちました。人吉ではどんな変化がありましたか。

 迅速な対応のおかげで高速道路も通行可能となり、生活はもとに戻りました。しかし、無意識の自粛ムードがいまだに影響しており、観光業や飲食業の多くは厳しい状況が続いています。

––– 今年、Rural Actは2回目の開催を迎えます。復興へのひとつとしてのフェスというアイデアはどう生まれたのですか。

 実は、私自身、学生の頃から音楽フェスの開催にとても興味がありました。面識はありませんが、FUJI ROCK FESTIVALの創始者である日高正博さんが人吉市出身だということを学生時代に知りました。バンドブーム全盛期に学生生活を送っていた私にとって、日高さんの存在は憧れであると同時に、同じ人吉出身であることをとても誇らしく感じたことを覚えています。

 その気持ちは大人になってからも変わりませんでした。仲間と飲んでいるときには、今でも「もし自分たちがフェスをやるなら、誰を呼びたい?」なんて話で盛り上がることがあります。FUJI ROCKは、決してアクセスが便利とはいえない苗場という場所で開催されながら、毎年、日本中から多くの人が訪れます。

「1年間、フジロックを楽しみに仕事を頑張っている」。そんな声を耳にすることもあります。

 人吉市も、決して立地や交通の便に恵まれた地域ではありません。でも、音楽には、そうした距離や不便さを超えて、人をその場所まで動かす力があると私は思っています。

 もちろん、FUJI ROCKとは規模も歴史もまったく違います。それでも、人吉の自然や歴史、温泉、食、そしてこの土地ならではの空気感を生かした「人吉らしいフェス」をつくり、それがいつか全国の音楽ファンから「毎年行きたい」と選ばれるフェスになれば、人吉を訪れる大きなきっかけになり、復興にもつながっていくはずです。

 そして、もう一つ大切にしていることがあります。私たちが学生時代に日高さんの存在を知り、「人吉出身の人がこんなことをやっているんだ」と憧れ、誇らしく思ったように、今この地域で暮らしている子どもたちにも、「自分たちのまちって、面白い」「自分たちも、いつか地元を盛り上げることをやってみたい」と思ってもらいたい。

 音楽をきっかけに人吉に人を呼び、地域の復興につなげる。そして、その姿を見た次の世代が、また新しい挑戦を始める。そんな未来をつくりたいという想いから、Rural Actはスタートしました。

––– 去年開催したことによる手応えはどんなものがありましたか。

 正直、大変なことばかりでした。収支面での苦労もありましたし、初開催ということで認知度もまだ低く、集客面でもかなり苦戦しました。出演していただいたアーティストの皆さんにも、満員の会場でステージに立っていただくことができず、自分たちの広報力や運営力の不足など、振り返れば反省点ばかりです。それでも、実際に会場で楽しんでくださっている皆さんの姿を見て、少しずつ気持ちが変わっていきました。

 音楽を楽しむ人、家族で芝生に座って過ごす人、お酒や食事を楽しむ人。それぞれが思い思いにRural Actという一日を楽しんでくれていました。そして開催後のアンケートでも、出演アーティストのラインナップや会場の雰囲気などについて、多くのうれしい声をいただきました。

「まだまだ改善しなければならないことはたくさんある。でも、自分たちが目指しているフェスの方向性は間違っていない」

 初開催を終えて、そう確信できたことが一番大きかったと思います。だからこそ、一度きりで終わらせるのではなく、2年、3年、5年、10年と続けていきたい。Rural Actを人吉の新しい文化として育てていきたいという気持ちが、初開催を終えてさらに強くなりました。

––– 初開催だった去年を踏まえ、今年はどんなフェスにしたいと思っていましたか。

 今年のRural Act’26は、昨年の来場者アンケートでいただいたご意見を参考に、さらにブラッシュアップしたフェスを目指して準備を進めています。ステージや音楽だけでなく、会場までの動線や会場内での過ごしやすさなど、「一日を通してRural Actをどう楽しんでもらうか」という視点で、昨年の課題を一つひとつ改善しています。

 もちろん、今年出演していただくアーティストの皆さんも、Rural Actの雰囲気にぴったりの方々ばかりです。音楽を楽しむことはもちろん、人吉の自然や食、お酒、そしてこの土地ならではの空気感まで含めて、昨年以上に「人吉に来てよかった」と感じてもらえる一日にしたいと思っています。昨年来てくださった方には「去年よりさらに良くなった」と感じてもらい、初めて来てくださる方には「また来年も人吉に来たい」と思ってもらえる。そんなRural Act’26にしたいですね。

––– そして熊本地震の後に、中止(あるいは自粛)ではなく開催することを決めました。今の開催への思いを教えてください。

 開催まで約2カ月というタイミングで地震が発生し、正直、Rural Actを開催するべきかどうか迷いました。結果的には交通インフラなども早期に復旧しましたが、私たちは復旧の見通しが立つ前に、開催することを決めました。もちろん、「今年はかなり苦労するだろう」という覚悟もありました。

 それでも開催を決めた一番の理由は、令和2年7月豪雨のときに、人吉球磨が全国の本当に多くの方々から支えていただいたことを忘れてはいけないと思ったからです。私一人で被災地のためにできることには限りがあります。でも、Rural Actという場所をつくることであれば、私たちにもできる。フェスを開催し、そこに足を運んでくださる皆さんと一緒に、被災地を想い、支援の輪を広げていくことができるのではないかと思いました。

 令和2年7月豪雨で全国からいただいた支援を、今度は人吉から返していく。そんな想いも込めて、今年のRural Act’26を開催したいと思っています。

––– クラウドファンディングが実施されています。その中に「関わることが、支えになる」というメッセージが記されています。これは被災地に向けても大きな、そして優しいメッセージのように思います。このメッセージは、令和2年の人吉球磨地域での豪雨での経験からもたらされたものなのですか。

 はい。大規模な災害が起きると、被災していない地域の方々も被災地を想うからこそ、イベントや旅行、娯楽などを控える「自粛」の空気が広がることがあります。令和2年7月豪雨のときも、私たちは実際にそうした状況を経験しました。

 でも、被災地にいる多くの方が「みんなにも自粛してほしい」と思っているわけではありません。今回の地震発災後、私自身も被災地域へボランティアに入りました。その際、Rural Actについてお話しすると、被災された方々からも「ぜひ開催してほしい」という声をたくさんいただきました。とはいえ、大きな災害のニュースを目の当たりにした直後に、「じゃあ、気にせず楽しもう」と簡単に気持ちを切り替えられるものでもないと思います。だったら、楽しむことと支援することを分けるのではなく、楽しむことそのものが誰かを支える力になる仕組みをつくれないか。そう考えたことが、今回の「楽しむこと・関わることが支援になる」という取り組みのスタートです。

 フェスに来ること、音楽を楽しむこと、地域で食事をすること、SNSで発信すること。さまざまな形でRural Actに関わってもらうことが、被災地や地域を支える力につながっていく。

「自粛するのではなく、楽しみながら支える。Rural Actだからこそ、そんな支援の形をつくれたらと思っています。」

––– より多くの人にRural Actのこと、そしてRural Actが投げかけていることが伝わればと思っています。

 本当に多くの方に、Rural Actというフェスの存在を知ってほしいですし、単に音楽を楽しむだけではなく、このフェスが何を目指しているのか、その想いまで知っていただきたいと思っています。

 今年は私たちからの発信だけでなく、ご来場いただく皆さんの力もお借りしながら、Rural Actの会場の雰囲気や、人吉で過ごす一日の楽しさを、もっと多くの方に届けていきたいと思っています。写真を撮ったり、SNSに投稿したり、「楽しかったよ」と誰かに話してもらったり。そうした一人ひとりの発信が、次に人吉を訪れる人を増やしていく力になると思っています。

 Rural Actは、まだ2年目です。まだまだこれからのフェスだからこそ、主催者だけでつくるのではなく、出演者の皆さん、地域の皆さん、そして来場してくださる皆さんと一緒に育てていきたい。そしていつか、全国の方から「Rural Actがあるから、人吉へ行く」。そう言ってもらえるフェスにしていきたいと思っています。

––– 今年の10月11日は、どんな場所になればいいと思っていますか。

 今年のRural Actも、まずはご来場いただく皆さんに、思い思いのスタイルで自由に楽しんでいただける空間をつくりたいと思っています。素敵な音楽を聴きながら、美味しいご飯を食べる。自慢の球磨焼酎を楽しむ。家族や仲間とゆっくり過ごす。そして何より、豊かな自然に囲まれた歴史ある場所で音楽フェスを楽しむという、Rural Actならではの時間を味わっていただきたいです。音楽だけではなく、食やお酒、自然、歴史、そして人吉球磨の空気そのものまで含めて楽しんでもらう。

「フェスを楽しみに来たら、人吉球磨まで好きになっていた」。そんな1日になれば嬉しいですし、Rural Actを通して、人吉球磨の魅力を全身で感じていただきたいと思っています。

––– 「小さな奇跡」は今年も起こりそうですか。

 黙っていても「小さな奇跡」を起こせるほど、甘くない世界だということを、この2年間で痛感しています。特に、まだ開催2年目のRural Actには、ゆったり構えている暇なんてありません。知ってもらうことも、足を運んでもらうことも、そして「また来たい」と思ってもらうことも、すべて自分たちから動いて、ひとつつひとつ積み重ねていかなければならないと思っています。だからこそ、今年も当日までできることを全部やります。

 田舎だからできない、ではなく、田舎だからこそできることがある。Rural Actが掲げる「田舎に、小さな奇跡を」を本当に実現するために、当日まで全力で走り続けたいと思います。

Rural Act 2026

開催日:10月11日(日)

会場;人吉城跡ふるさと歴史の広場(熊本県人吉市)

出演:奇妙礼太郎BAND、在日ファンク、スチャダラパー、AAAMYYY、DJダイノジ、DJやついいちろう、IMALU、TENDOUJI