<Unused Ideas> / 第9話 ’26 宝塚記念・メイショウタバル
▼レジェンドを、挑戦者に変える男▼
最終的に、ロゴケイバではこのコピーを採用した。
宝塚記念連覇を達成した、メイショウタバル。
鞍上は、武豊騎手。
数え切れないほどの大記録を持つ、日本競馬を象徴する騎手である。
彼をこんなにも魅力的にしているのは、レジェンドであるにも関わらず、挑戦者であり続けることなのだと思う。
彼にはまだ叶えていない夢があり、それは競馬ファンの夢でもある。
ーー凱旋門賞制覇。
そんな彼をもう一度、挑戦者にする馬こそ、メイショウタバルだ。
▼言いたいことが、最初から決まっていた▼
この回での、AIとの付き合い方は、これまでの8話とは違った。
発想の核は、最初から決まっていたからだ。
「レジェンドなのに、まだ挑戦者でいられる。」これである。
これは、宝塚記念への出走が決まった時点で、すでに決めていた。
メイショウタバルが勝つのなら、これしかないだろうと。
武豊騎手の実績を考えれば、もう何かを証明する必要などない。
それでも、凱旋門賞を勝ちたい。
何度敗れても、世界最高峰の舞台を夢見続けている。
その姿こそが、長く尊敬を集める理由のひとつだと思う。
そして、メイショウタバルが宝塚記念を連覇したことで、その夢に挑戦できる権利を得た。
だから、「レジェンドを、挑戦者に変える男」。
この方向性は、最初から全く動かなかった。
▼AIに、考えてもらわない▼
ここからが、今回の本題である。
ロゴケイバは、レース終了から120分以内に制作する。
コピーと本文を書き、デザインを作り、投稿まで終わらせる。
当然、文章に使える時間は限られる。
さらに言えば、文字数も限られる。
Xのファーストビューで表示できる文字量は、全角で約140文字。
ロゴケイバのG1通常投稿は、この文字数に収めている。
そこで今回、AIに求めたのは、「壁打ち相手になってもらい、より良いアイデアを最速で作り上げること」…ではなかった。
むしろ、「言いたいことは決まっている。意味を変えずに、Xの文字制限に収めるべく短くしてほしい」という使い方だった。
例えば、本文の締め。
当初は、「日本競馬の象徴である、天才騎手。多くの人々の思いを背負い、さぁフランスへ。」という趣旨で考えていた。
しかし、長いのだ。
ただでさえ、今回のコピー「レジェンドを、挑戦者に変える男」だけで、15文字も使っている。
ここは削減できない。
そこで、AIと短文化のラリーを始めた。
ところが、文章を短くすると、意味まで削られてしまう。
私が残したかったのは、「レジェンドを、挑戦者に変える男」に加えて、「日本競馬を代表する騎手が、みんなの夢を背負ってフランスへ行く」という大意である。
新しい解釈も、格好いい別案も一切いらない。
必要なのは、意味を変えずに文字だけを減らすことだけだった。
加えて言うならば、一度でも制限文字数に文章量を収める闘いをしたことがある方なら、お分かりだろう。
意味を変えずに、文章量を削るのはとても難しい。
なんとかかんとか、削れる一文字を見つける。
その積み重ねを人力でやっていれば、確実に締め切りに間に合わない。
そこで、AIの出番なのだ。
▼「大意は変えるな」と指示する▼
とは言え、AIは、文章を短くしようとすると、意味まで変えてしまうことがある。
だから何度も、「それは意味が違う」「ここは、10文字で収めたい」などと、何度も何度も指示をした。
これはAIに正解を探してもらっているようで、実際には違う。
正解は、こちらが持っている。
これは意味が変わった / これは情報量が無さすぎる / ここが、削っていいラインの限界だ…などと、判断しながら圧縮していく。
今回のAIの役割は、アイデア出しに伴走してくれるスタッフというより、細かな作業を引き受けるアシスタントに近かった。
そして最終的に、「さぁ、みんなの夢はフランスへ!」まで短くなった。
たとえこれだけでも、それまでの文章を読み取れば、「みんな」が誰を指しているのかは伝わる。
つまり、文章を短くするとは、削った意味を預けられる場所を、文脈の中から探すことでもある。
▼突然の豪雨を、物語にする▼
レース直前、阪神競馬場に突然の豪雨が降った。
これは事前に決め打ちできない要素であり、レースを見て初めて得られたものを、どう文中に取り込むかが重要になる。
この要素を外して書く選択肢など、ありえない。
テレビでずぶ濡れになる人馬を見ながら、そう考えていた。
さて、メイショウタバルは、重賞4勝すべてが道悪。
この馬にとっては、恵みの雨だった。
更にメイショウ軍団の故・松本好雄会長。
2008年、メイショウサムソンで凱旋門賞へ挑む際、当時の主戦だった石橋守騎手に頭を下げ、武豊騎手への乗り替わりを願ったというエピソードもある。
その石橋氏は、現在はメイショウタバルの調教師である。
そこから18年の時が流れ、今度は武豊騎手と石橋守調教師が、メイショウタバルとともに凱旋門賞へ向かうため、宝塚記念の勝利を目指している。
豪雨に打たれながら。
だから、「松本会長が、天国から降らせたようだ。」と書いた。
だから、“勝って、凱旋門賞へ行こうや”と、松本会長が言っている気がした。
▼説明を削り、物語を残す▼
最終的に本文は、こうなった。
ーーーーー
「レジェンドを、挑戦者に変える男」
突然の豪雨。
松本会長が、天国から降らせたようだ。
“勝って、凱旋門賞へ行こうや”
そう言っている気がした。
“当然だ!”と言わんばかりに、
道悪巧者の愛馬は、期待に応える。
さぁ、みんなの夢はフランスへ!
ーーーーー
これで、Xのファーストビューに収まった。
松本会長、武豊騎手、石橋調教師の18年前から続く関係も、ここでは説明していない。
メイショウタバルの道悪実績も、数字では書いていない。
それらは補足で説明すればいいと、判断した。
メインの文章とコピーで優先したのは、情報ではなく物語だ。
何を本文に残し、何を外(補足のコーナー)へ逃がすかを決める。
これもまた、圧縮の技術である。
▼AI時代だからこそ、減らす▼
AIを使えば、文章はいくらでも増やせる。
饒舌に詳しく説明できるし、別案も無数に作れる。
だからこそ、どこまで減らせるかという能力も、重要になる。
冗長となってしまっては、価値がないからだ。
ただし、意味まで削ってはいけない。
今回、最も大切だった、「レジェンドなのに、まだ挑戦者でいられる」という発想は、最初から人間側にあった。
だから、AIに考え直してもらう必要は、そもそもなかった。
余計な言葉を削り、文字数に収める案を出す。
AIにはこれしか期待しなかった。
自分の考えを壊さず、文章量を圧縮することこそが、AIを使う目的だったのだ。
逆にいうと、意味が変わっていないか確認し、何を本文に残すか決める。
これは絶対に人間の仕事である。
今回のように、発想の核は自分で持ち、AIには圧縮だけを任せる。
一方で、どこまでをAIに任せるかを判断する力も、クリエイティブの一部なのだ。
これも、無数にあるAIとの付き合い方のひとつだと思う。