運命な土の中で
また今日も雨で、いったいどれだけ降れば気が済むのだろうと、この雲行きには以前として暗澹たる思いですが、合間合間にかろうじてトラクターでの耕運だとか植え付けだとかの外作業ができる日もなくはなく、実はそれだけでもありがたいくらいで、というのも一度降れば向こう一週間くらいはもう降らないで、ピーカン晴れがしばらく続かないことには土が乾かず畑に入ることすらできない農家だってけっこういるので、そういう畑に無理に入ろうものなら、踏み入れた長靴に濡れた粘土が絡みつき、一歩一歩を引き抜くのももう大変で前にも進めず、このぬかるみは人さえ寄せ付けないのですからトラクターなんかもっとダメなのは当然で、重みでみるみる深みに入って、抜け出そうとすればするほどタイヤが空回り、いつかどこかで摩擦に出会うその時まで空転し、結局出会うことなく埋まっていき、そしたら最後、近所の大きいトラクタ―を呼んできて引っ張り上げてもらうことになり、そうとなれば、後日菓子折り片手にお礼に行き、そもそもそんな時間がないくらい季節に追い込まれていたからこそ、無理を承知でトラクターをかけようと思ったにもかかわらず結果これでは、もちろんむしろマイナスで、だけどこれは破れかぶれで何も考えないからトラクターがぬかるみにハマるのではなく、むしろ考え抜いたからこそハマるのです。
今時期にトラクターがかけられないとなると、定植や種まきから始まるその後のプロセスのスタートすら切れないということで、つまり何もできないということで、それでいて秋冬作の定植や種まきというのはだいたい10月頭くらいにはけりをつけ、寒さの前にある程度大きくしとかないといけないものですから締め切りというものがあり、今がまさに締め切りの直前のタイムリミットぎりぎりの時期でして、露地野菜農家の頑張り時なのですが、毎日毎日こんな天気で作業が進まず、みんないったいどういう気持ちなんだろう?と、うちがそうなのだからうち以上にもっとぬかるむ畑の人のことを思うと心配でたまりません。ぬかるみやすさはひとえに土質の関係でそうであり、砂と粘土の割合が決め手になり雨が降った後いつ入れるか決まるのですが、与えられた土質というのはほとんど運命的に決まってしまい、変えようにも簡単には変えられず、変えられたとしてもそれは運命の内で多少の努力できるというだけで、根本的にはその土の性質は受け入れるほかありません。
ただ商売柄、立地が悪いからといって簡単に引っ越して、さぁ心機一転というわけにもいきませんから、運命な土の中でもがいて、もがくほど埋まっていくのですが、「仕事とはそういうもので、普通負わないリスクを引き受けることが仕事であり、だからこそその分のリターンでそこそこ暮らしていけるんだ」と割り切るには農業はあまりに背負ったリスクと見返りのバランスが悪すぎる気もするので、必死にリターンの方をかき集め、鳥のさえずりだとか、肌をすり抜ける心地よい風だとか、今の世に強制的にパソコンだとかスマホだとかと離れられる身体的な作業性だとか、そんなものまで持ち出して、心のバランスをとろうとしているこのぼくは、今まさに案の定泥にハマり、畑から出られなくなった軽トラの中でスタッフの救出を待っています。