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ダンス評.com

平山素子 etc.「POISON リ・クリエイション」世田谷パブリックシアター

2019.03.23 15:15

シェイクスピアの戯曲が描き出す人間模様を、6人が、触れ合う身体とわずかな言葉で表現する。ダンサーと、主に演劇で活動する俳優とが共演し、言葉・声と動き・体が高いレベルで共鳴する。「コラージュ」したというシェイクスピア作品のエッセンスが見え隠れし、しびれる!

暗闇の中、椅子に座った男が浮かび上がる。その上にはブランコからぶら下がる別の人物の脚があり、男の顔をかする。その脚に翻弄されるような、何かを恐れているような、落ち着きがない男。

男の前にテーブルが置かれ、一緒にそのテーブルに就く男と女。シェイクスピアの言葉が書かれている設定の数冊の本を、最初の男と後から登場した男女とが奪い合い、奪った人が言葉を読む。『ハムレット』や『リチャード三世』からの言葉だったようだ。

ブランコに乗っていたのは平山素子氏だと思うが、フロアを中心としたそのソロ。

太鼓の音やピアノの音楽、ハムレットの「To be or not to be」のせりふの歌などの音響、シンプルだが大きく印象を変える照明、シェイクスピアということで選んだという大きな1枚の紙が次々と表情を変える美術など、ダンスを取り巻く要素もどれも秀逸だ。

高揚感、カタルシスのつくり方がとてもうまい。それでいてユーモラスな場面も入れて「外す」ことも巧みに取り入れている。

ハムレットとオフィーリアを思わせる美しく切ないデュエット(ロミオとジュリエットや他のカップルでもいいのかもしれないが、私としてはハムレットとオフィーリア)。道化や『十二夜』のマルヴォーリオを思わせる人物たちが入れ代わり立ち代わり登場するコミカルなシーン。血がまだ付いていると思い込み手を洗い続けるマクベス夫人のダンス。魔女(『マクベス』の魔女か。最後に魔女の一人がマクベスのように王冠をかぶせられる)だという金色のドレスを着た男女の踊りは、シェイクスピアの男女の性の行き来も思わせる。

コンタクトのような、接触から流れるようにつながる動きが多いと思ったが、横たわった人が足や手で別の人の腰などを支えてリフトする動きなどは、今回の再演で新たに取り入れられたアクロヨガのものらしい。触れる中で感情が動いているような、微妙な関係性が変化しているような、会話しているような、面白い感覚が生まれ続ける。アクロヨガは映像でちらっと見たことはあったが、一緒に行う相手との関係が大事という話だったと思う。シェイクスピア戯曲という濃い人間関係の固まりをモチーフにしたダンスで、このようにアクロヨガを取り入れたのはまさにぴったりだ。

リチャード三世がアンを誘惑して「落とす」場面では紙が巻かれ、ついには紙に穴が開けられる。公演のビジュアルイメージに使われている不吉なカラスも登場。

最後、全員が一緒に踊るシーンは予想より長めに続いたが、いつまででも見ていられる動きが繰り出され、人間界の縮図を眺めているようだ。

ポストパフォーマンストークには、平山素子氏、河内大和氏、竹内梓氏、美術の乘峯雅寛氏、衣装のsuzuki takayuki氏が登場。ダンスを知らないから、踊りにくい「紙」を美術として提案できた。衣装はあえて露出を少なくし、「誰でもないし誰でもある」ような服にした。シェイクスピアをやると言うと「どの話を?」と言われるので、どの話でもありどの話でもないように、「コラージュ」した。初演時は出演者に「どの役をやりたい?」と聞いて、その役のエッセンスを入れた。オープニングとエンディングでは、特定の役や場面ではなく、「人間模様」を提示した。紙は、稽古で踊っているときにに偶然破れしまったのを見て、動くにつれて紙が破れたりぐちゃぐちゃになっていくのは自然だなと思って、振付と演出に取り入れた。毎回、紙は違う形になる。85パーセントは初演時と同じ。初演時よりもシンプルに素直に反応して動けるようになった。平山氏が、初演時は4人だった出演者を今回の再演では6人に増やしたのは、自分が踊るパートが多くてきついため、一部を他の人に踊ってほしかったから。6人もいれば、観客がそのうちの誰かに自分を投影できるだろうから、そうなるように出演者の年代などがばらけるようにした。出演者は初演時の4年前と体型など外見が変わっていないが、中身は変わっているところもあるから、また4年後に再演してほしい。今後、体が今よりも動かなくなっても、その時の体でまた新たな表現を見せてほしい。といった話が出た。

シャイクスピア好きでダンス好きの人にとっては願ったりかなったりの企画だが、期待以上の素晴らしいダンス公演だった。シェイクスピアのドロドロと美しさと卑猥さとおふざけといった真髄を感じさせながら、あなたでもあり私でもありあの人でもあるという、人間とその関係の形を見せてくれる。今後も進化させながら上演し続けてほしいプログラムだ。

著名な振付家による公演だったのに、満席になっていなかったのは、何が原因だろうか?題材がシェイクスピアで、かつ特定の一つの戯曲を扱っているわけではないのが敬遠されたのか?でも、演劇では、著名な俳優が出るシェイクスピア作品は人気なのだが。前売りチケット4000円が高かったせいか?しかし、安くはないが高過ぎる額でもない。ハイレベルで楽しめる公演だったので、もったいないと思った。


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ダンサー・振付家の平山素子による2015年初演作が、 “リ・クリエイション”版としてよみがえります。シェイクスピアの残した言葉や劇世界をモチーフにした同作を、俳優の河内大和ら初演メンバーに加え、ダンス集団TABATHAの四戸由香、Noism退団後初舞台となる中川賢の出演でおおくりします。

初演:2015年1月 穂の国とよはし芸術劇場プロデュース公演「POISON~シェイクスピアを喰らう~」

【演出・振付・出演】平山素子

【出演】河内大和、竹内 梓、宮河愛一郎、中川賢、四戸由香

美術:乘峯雅寛(文学座)、照明:高田政義(RYU)、音楽:茂野雅道、音響:牛川紀政、suzuki takayuki(衣装)

ワードローブ:菅井一輝、ヘアメイク:上田美江子(Mieko Ueda STUDIO)、舞台監督:柴崎大

制作:NPO alfalfa

2019/3/22(金)~3/24(日)

一般4,500円/当日5,000円

高校生以下2,000円

U242,500円

友の会会員割引4,300円

せたがやアーツカード会員割引4,400円

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※下記画像は下記サイトより。