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内子町立大瀬中学校

2019.04.03 09:00
ここに新しく建築された中学校を先頭にした集落が,村の風景を新しく整えているのである。破壊されたものを恢復させる仕方で。その中学校を中心にすえた風景が,新しい意識において総合されなおした,つまり新しく社会化された自然の景観を村にもたらしているのである。(大江健三郎)

「GA JAPAN01創刊号」(1992)エーディーエー・エディタ・トーキョー p.39


「GA JAPAN」という建築専門誌をご存知でしょうか?一般にはあまりなじみがないかもしれませんが、「新建築」とともに建築デザイン界を牽引する専門誌として知られています。1992年にGA JAPAN創刊号が出版された際、ノーベル文学賞を受賞した大江健三郎の文章とともにその巻頭で紹介された建築が、この「大瀬中学校」です(記念すべきGA創刊第一号)。

大江健三郎が「村の風景を新しく整えている」というように、私も実際に訪れてみて、大瀬中学校が近代的な建築物でありながら、新たな風景、あるいは新たな集落を作るように場が整えられたような印象を受けました。


内子町大瀬は大江健三郎の故郷です。その大江の故郷に古くなった中学校の建替えとして設計を依頼されたのが、大江の古くからの友人である原広司でした。原は「JR京都駅ビル」「梅田スカイビル」「札幌ドーム」をはじめ国内外に多数の建築を手掛けた建築家として知られています。近作として、愛媛県には今治に「みなと交流センター(はーばりー)」がありますね。


航空写真(Googleマップより)

航空写真を見ると、山沿いの斜面になった土地に建物が配置されていているのが分かります。運動場側に普通教室があり、中庭を挟んで特別教室が配されています。校舎・中庭・特別教室棟が土地のレベルを変えながら建てられることで、校舎を目にしたときにそれらの校舎が重なり合い、集落のような景観を形作っているといえるかもしれません。

少しマニアックな話になりますが、設計者である原広司は集落の持つ多層構造を「オーバーレイ」と呼び、彼自身が世界中の集落調査を経て得た集落の基本原理のひとつとして紹介しています。

[66] 重ね合せ
事物や空間は、幾重にも幾重にも重ね合わせよ。

オーバーレイは、集落のつくり方の基本原理である。繰り返しや反復も重ね合せの一種であるが、変形の集合の重ね合せ、異なったものの重ね合せなどが、集落の得意とするところである。
重ね合せを直接的に構造化すると、多層構造になる。

原広司『集落の教え 100』(1998) 彰国社 p.138


大瀬中学校を訪れて、単体の建物というより「集落」的な印象を受けたのは、建築物が山の斜面に沿って分棟により配置されているために層状に重なって見え、さらに屋根の形状が多様であるなど、単一の建築物ながら複数のボリュームが織りなす多層の構造を持つからでしょう。


こちらは中庭の様子。建築物は全体的にはコンクリートや金属板を用いた近代的な印象ですが、屋根に瓦を乗せていたり、軒下の空間を設けるなど、地域の景観に応じた表情を形作っています。


中庭に敷かれた屋根瓦。旧校舎に使われていた瓦を利用したもの。


中庭。西側の様子。


廊下を拡張したような多目的室。理科室や視聴覚室といった特別教室が、この多目的室を挟んで上下に階段状に配置されています。ひとつながりの空間が、高さのレベルを変えながら分節されています。


屋根のデザイン。形状や勾配の異なる屋根の重ね合せは原広司の建築によく見られますが、ここ大瀬中学校でも雲形など様々なパターンが確認されました。


室名を示すサインのデザインも独特で面白い。


オマケ:大瀬中学校の近くに、同じく原広司の設計した住宅がありました。



内子町立大瀬中学校