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砕け散ったプライドを拾い集めて

雨を感じられる人間もいれば、ただ濡れるだけの奴もいる

2019.03.27 13:07

フロリダはマイアミにいた。ここは基本的に避寒地だから7月のそのときはいわばオフシーズン。昼間の打ち合わせの時、一転にわかにかき曇り、強い風、雨、鋭い稲妻。相手の女性がキャーと怯える。ハリケーンなの?と訊くと、
「ハリケーンなんてこんなヤワじゃない。これは毎日ご挨拶にやってくるスコールね。まあ、トロピカル・ストームかな?」と。

なんだ、そのカクテルの名前のようなのは……。日本語にすれば「熱帯性低気圧」と味気ない。勢力が大きいのが「ハリケーン」で、中型が「トロピカル・ストーム」になり、ザーッと来て 終わりはスコール。

夕刻、ディナーに出かける。ダウンタウンの海岸通りにあるシーフードで定評のあるレストラン。 その通りにはレストランが軒を並べて、そしてそれぞれがカフェテラスを歩道際まで拡げている。その歩道をどこから湧いてでてきたのか大勢の人たち。カフェテラスって人に見られるため、人を見るために存在している。友人と二人のわれわれも当然カフェテラスに陣取る。南国の海岸通りをさしたる目的もなくぞろぞろと絶え間なく人が行き交っている。BGMはカリプソかレゲエがいい。
歩く人々のその向こうにはバハマへと続く海が見えている。

食前酒が終わった頃、なんだか海の様子が怪しい。ただならない。不気味な風もでてきた。ウエイターが慌しくやってきて、
「この様子だと、10分後には嵐が必ず来ます。店内に移って貰った方がいいんですが……」
もちろん、雨に濡れて食事をするほどの酔狂ではない。あたふたと室内に移動する。間もなく、予告通りにザーッ!とスコールがやってきた。だが、海岸通りを歩く人たちは傘もささず、急ぎもせず、むしろ雨に濡れることを楽しんでいるようだ。

このマイアミから1,175km南にジャマイカがある。(北九州から那覇くらいの距離)やはり彼の地もトロピカル・ストームの支配地域。その首都キングストンのスラムで育ったレゲエ・ミュージシャンのボブ・マーリーは、

「雨を感じられる人間もいれば、ただ濡れるだけの奴もいる」

と言っている。
日本の子供たちも雨が大好きだ。ある秋口、天気予報通りに本降りの雨となったのが、ちょうど小学校の下校時間と重なったのに遭遇したことがある。傘がなくて濡れている子もいたが、傘があるのにささずにわざと濡れている子もけっこういた。中には両手を広げて上を仰ぎ、「天の恵みだ!」とやっている子もいた。
中学生、高校生でも以下同文。ずぶ濡れで雨の中を喜び勇んで自転車を漕いでいく。

「人が大人になるのは?」
「雨に濡れるのが嫌いになる頃」
というのがある。……ということは「雨を感じられなくなる」ことが大人になるってこと?
……悲しいね。