イノベーションのジレンマ
少し古い本ですが以下の本を読みました。企業が陥りやすい罠のようなものについて汎用的な理論が書かれており、とてもおもしろかったです。データ量はそこまで多くないかもしれませんが、「ビジョナリー・カンパニー」とかと同じようなアプローチの匂いを感じます。
本書では、技術革新が2通りあるとして、二項対立で書かれます。
1.性能の向上を「持続する」技術で(漸進的な改良、抜本的イノベーション)
2.性能の軌跡を「破壊」し塗り替えるもの
まず例として、イノベーションのジレンマによる事例が沢山出されています。書籍の中では、「持続的イノベーション」が「破壊的イノベーション」に飲み込まれる、という表現が多用されています。
固定電話⇔携帯電話
オフセット印刷⇔デジタル印刷
総合病院⇔在宅医療
ハロゲン写真⇔デジタル写真
…etc
この書籍がカバーしていない直近の事例だと、デジタルカメラをイノベーションで凌駕したGoProなんかも挙がってくるのでしょう。
■破壊的イノベーションの手順
世の中で破壊的イノベーションが産まれて市場に浸透するまでに、6つのステップがあるとされており、そのフローが以下です。
1.破壊的技術は、まず既存企業で開発される
2.マーケティング担当者が主要顧客に意見を求める
3.実績ある企業が持続的技術の開発速度を上げる
4.新会社が設立され、試行錯誤の末、破壊的技術の市場が形成される
5.新規参入企業が上位市場へ移行する
6.実績ある企業が顧客基盤を守るために遅まきながら時流に乗る
この中で、1のように、既存企業(≒優良企業)の中でせっかく産み出されたアイデアがいつの間にか無くなってしまうのは何故でしょう。それには以下の3つが挙がります。
■安定企業が破壊的技術に積極投資しない理由
1.低価格/低利益率
2.新市場/小規模市場
3.優良顧客に受容されない
上記の両者の共通項としてまず出てくるのは、「顧客」が邪魔になるケースです。
本来は顧客の声に耳を傾ける事が優良企業の証であるのに、何故それがいけないことになってしまうのか、その矛盾はなんなのか。
■既存の優良顧客による束縛(ジレンマ)
書籍内では、
1.顧客に耳を傾けすぎる
2.顧客は既定路線からの意見しか持っていない(顧客すら潜在的なニーズを理解していない)
3.既定路線の中での改良にとどまる(それでも凄い努力の結果なのだけど)
4.新規市場に参入する戦略的決定が遅れる
と言ったジレンマが紹介されています。確かに、基本的には「顧客は無知」である(悪い意味ではなく事実として)ので、そこに向き合い続ける事は破壊的なイノベーションからは離れたアプローチとなってしまいます。
また、イノベーションが起こる過程での問題として、今度は社内に焦点を当てて、社内マネージャー、及び、経営層の問題点を指摘しています。個人が悪いというよりは、優良企業であるがゆえに統率された組織体制自体が自らの首を締めている、という正にジレンマです。
■マネージャー層が抱えるジレンマ
・破壊的アイデアと優秀なマネージャー
例えば事業企画会議において、市場ニーズ、収益性、トレンド、競合などを理路整然とプレゼンされる持続的技術と、それらが曖昧な説明でプレゼンされる破壊的技術とが机上に載った場合、優秀なマネージャーは当然のごとく前者を選ぶ。
・マネージャーの失敗
組織内でマネージャーは失敗出来ないと考えている。彼らは自分のキャリアを危険に晒したくないと考えているし、優良企業では厳格な評価制度が存在するからだ。
■経営層が抱えるジレンマ
・根本原因は「優秀な経営陣そのもの」である
実績ある企業の意思決定プロセスと資源配分プロセスが、破壊的技術を拒絶する。優良企業は顧客の声に熱心に耳を傾け、高性能・高品質の製品設計・開発に資源を投入する。結果、曖昧な市場ニーズが見えていないプロダクトへの投資判断は見送られる。
この話でふと思い浮かんだのがAppleです。違うかもですが、彼らの狂気なまでのプロダクトへの愛と、廉価版は絶対に出さない、という拘り。それこそが将来の足かせになるのかな、と。
逆に思い浮かんだのがAmazonで、彼らは徹底した値下げやサプライチェーンの革新など、顧客を良い意味で裏切るような破壊的なイノベーションをいくつも起こしています。
では、最高経営責任者である経営層は、破壊的イノベーションに対してどのような対処を講じて行くべきなのでしょうか。ここからは処方箋についてです。
・破壊的技術が出現したら経営者はどうすべきか
1.破壊的技術を追求し、収入源である顧客が拒否しようと上位市場の技術より収益性が低かろうと、長期戦略にとって重要である事を全社員に伝える
2.独立した組織を作り、その技術を「必要とする」新しい顧客のなかで活動させる
・破壊的イノベーションに経営者はどのように対処すべきか
1.新しい市場が、大企業の増収・増益の軌跡に有意義な影響を与えるほどの規模に短期間で拡大するように、市場の成長率を高めようとする
2.市場が形成され、正確が明らかになるまで待ち、「十分に旨味のある規模」に達した所で参入する
3.破壊的技術を商品化する業務を、初期の破壊的事業による売上・利益・僅かな注文を十分に業績に活かせる小規模な組織に任せる
→1.2.には問題が多い。3にも欠点があるが、可能性が高い。
上記で言われている中での共通項は、「新たな小さな組織を作り対応させる」ことです。
最後、纏めという訳では無いですが、「破壊的技術を受容し勝利した5つの基本原則」を転載して終わります。個人的に、自分が仮に(そこそこの)優良企業でトップ(orマネージャー層)だった場合、実際にどのように対応できるか、考えさせられる内容でした。かなり難しいジレンマだと思うし、いまこれが出来ている企業ってGoogleくらいなのかな。。
■5つの基本原則
1.資源の依存。優良企業の資源配分パターンは、実質的に顧客が支配している
2.小規模な市場は、大企業の成長需要を解決しない
3.破壊的技術の最終的な用途は事前には分からない。失敗は成功への一歩である
4.組織の能力は、組織内で働く人材の能力とは関係ない。組織の能力は、そのプロセスと価値基準にある。
現在の事業モデルの核となる能力を産み出すプロセスと価値基準が、実は破壊的技術に直面した時に無能力の決定的要因になる。
5.技術の供給は市場の需要と一致しない事がある。確立された市場では魅力のない破壊的技術の特徴が、新しい市場では大きな価値を産むことがある。