きょうまでの『せんねん まんねん』
2015.05.22 09:42
まど・みちおさんの詩は、あまりに有名すぎる。
あまりに有名すぎて、あまり知らない人が多いと思う。
『ぞうさん』も『ふしぎなポケット』も『やぎさんゆうびん』も、全部まどさん。
どれもが、小さな世界での、ささやかな呟きのような詩。
私は、今でもふしぎなポケットを欲しいと思うし、いつまでも終わらないやぎたちの文通に嬉しくなる。
『せんねん まんねん』は、ちょっと違う。違うけど、同じ。
代表作と呼ばれている詩と比べると、少し渋い。
表題のとおり、千年、万年の月日の詩。
長い長い年月を辿る、壮大なお話。
けれど、その長い長い年月を物語るのは、たったひとつのヤシのみ。
いつかのっぽのヤシの木になるために、地べたに落ちたヤシのみ。
それは、やっぱり、小さな世界での、ささやかな出来事。
だから、違うけど、同じ。
いつかのっぽのヤシの木になるために
そのヤシのみが地べたに落ちる
その地ひびきでミミズがとびだす
そのミミズをヘビがのむ
そのヘビをワニがのむ
そのワニを…
リズムの良い、ことば遊びのように展開されるお話は、やっぱりあの聴きなれた童謡とおんなじで、歌と違うのはこの詩にはページをめくるリズムがあるということ。
新しい展開をページとともに開いていく。
でも、童謡と同じように、お話は頭に戻ってくり返す。
だから、終いまで歌い終わったら頭に戻って歌い続けた童謡のように、いつまでもページをめくっていられるんじゃないかと、そんな終わりのない感覚がここでも感じられるのです。
めくっては現れるそのヤシの木を、ヤシのみを、ミミズをヘビをワニを、描くのは柚木沙弥郎さん。
染色家であり、ポスターや版画、装幀やイラストも手掛け、多岐に渡る芸術活動をされています。
民芸の世界で培った伝統的な技法からは、牧歌的な素朴であたたかな雰囲気が感じられます。それでいて、突然ものすごくモダンに映ったりもする、ふしぎな魅力のある作品ばかりです。
この絵本の中でも、1ページ1ページ、染め物にできる独特な模様のような配色で描かれ、懐かしくも鮮やかにその色が目に飛び込んできます。
それは伝統工芸に携わってきた、柚木さんだから表せる世界。
描かれているのはまさに、千年万年の年月。
まどさんが描いた大きい小さいせんねんまんねんの世界。
懐かしい、新しい、せんねんまんねん。
ながいみじかいせんねんまんねん。なのだと思うのです。
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