ショートショート 471~480
471.神様が人間を作ることに成功した世界では、神様がその新人含めた過去を概念規模で更新し、その用意された素敵な過去を背負い暮らしている。
そんな事は世界の誰も知らなくて、隣の親友が昨日生まれた人だとも気付かない。皆問題なく幸せに暮らしており、しかし何か物悲しさを埋める事が出来ずにいる。
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472.自律天誅型阿修羅像、阿修羅を降ろしたこの巨大なロボットのおかげでこのスラム街も犯罪数は随分と減ったらしい。今や四方から糸をつけられ洗濯物を干されたり、剥き出しになったカラクリの中で暮らす不労働者もいる。
ゴグン、昼になった為首が回り、鳥達が飛びだった。
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473.息をしてから死んだ後まで人間など皆不完全
幼児仙人男女変わらず
脳味噌叩いて震わせて
完全完璧完完云々
求め諦め持て余す
人とは何か
人とは阿保だ
この世は何だ
この世は阿保だ
同じ阿保なら踊らにゃ損損
この世はディスコと見極めたり
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474.夜トイレへ行こうと取手を掴むと手が空を掻いた。掴み損ねたかと探り、遂に掴むとそれは斜め下を傾いていた。
ドアの外でだれかが取手を握っている。
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475.応募券にて入道雲が当たった。
箱からニュルンと出てきたそれは丁度一抱え程のクッション程の大きさだった。私は今、お風呂場にて入道雲を使っている。雲から垂れた紐を引くと、ザァと降るのでそれを貯め追い焚きし、風呂に入る。入道雲で入れた風呂は炭酸水の様な澄ました匂いがするのだ。
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476.気付かなかった。只それだけ。
潰した角砂糖の様に世界は崩壊していたのだ。絡まる糸は燃やされ塵と吹かれ、カナリアの笛の音は断末魔の続くのみ。草花は悠然と二酸化炭素を吐き、山の水は緩やかな毒へと変わった。刃物の輝きは笑う満月の巡るたびに増す
気付かなかっただけなのだ
狂腐ったこの破滅に
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477.夢を見た。
私は白黒な活字らに溺れていた。足も付かず、ザブザブと活字は私の手足を絡みとり、目に入り口に流れ、遂に顔を掴まれた。
諦めた私は、ざんざんと活字らに揉みくちゃにされ深く落ちたのだが、ふいに下から何かが見えた。活字の塊だった。「あれは幻の本だ」、そう思った途端目が覚めた。
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478.動物園へ行くと狸がいた。
もそもそと歩き、その丸さを存分にアピールしている。満場一致の可愛さだ。
「狸の真似が上手いですね」
こっそり私が伝えると、狸は緩く目を輝かせ、「私の真骨頂はライオンです。次の月曜がそうなので是非」と言った
月曜日、猛獣館にてやたら丸いライオンが私を見ていた
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479.「この茶釜ですね。良いのですか?大変古い物ですけど…
そういえば、こんな話がありまして
茶釜狸の話です。その狸は長く茶釜に化けた為か、ある茶釜に恋をしたというのです。そして物が故離れ離れになった茶釜をその狸は今尚探しているという…
あらお客さん?帰ったのかしら
やだ、葉っぱだらけ…」
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480.大きな黒蛋白石を落とすと、卵の様に綺麗な割れ目が出来て、中から石と同じまるで宇宙の様な液体がとぷとぷと流れてきた。
絶え間なく流れるそれをしゃがみ込んで眺める私は、この宇宙が運命線ごとそっくり、人間が気付かない程の恐ろしい勢いで宇宙外へ流れ出している事を知らない。