Novel Therapy『宝物の記憶』
『宝物の記憶』
ARUK CIRCUS Emily 著
私の名前はアブラキーダ。
5歳の妖精の女の子。人間の年齢と大きさも同じ。
髪はふんわり腰まであって、背中に七色の羽がキラキラしている。
ピンクに、水色、黄色のワンピースがひらひら揺れている。
妖精の国に住んでいるけど、私はある町が大好き。
そこは愛媛県東温市の下池、中池、上池がる山の中。
下池と中池の間にあるれんげ畑が私のお気に入りの場所。
なぜならそこにはあの女の子がいるから。
私が探している、友達になりたい人間の女の子。
私が住む世界にも同い年の妖精はたくさんいるわ。
でも誰とも友達にはなれないの。
ママは、わたしがワガママだからっていうわ。
誰も私を誘ってくれない。
誰も私のそばにいようとしない。
だから私、時々冒険したくて、飛び出したくて、私のことを分かってくれる子がどこかにいるんじゃないかって、それで、時々人間の世界にくるの。
でも、あんまり遅くなるとママが叱るの。
だから、ママに嘘をついて飛び出した。
あのれんげ畑にあの子がいたらいいなって、会えたらいいなって。
そしたら、その子がいたの。
いつものようにその子は一人で遊んでる。
今日は話しかけたようと思って、羽をつけたまま透き通った体から人間と同じ姿になって彼女に声をかけたの。
「何しているの?」
するとその女の子はこう答えた。
「れんげの花束をつくってるの」
私もしよう、一緒にしていい?、一緒にしない?、そんな言葉がなくても、
私たちは歌を歌いながられんげやシロツメクサを摘んでは「かわいいね」「きれいだね」ってスキップしながら夢中になった。
ただ、ただ、私たちは笑っていたわ。
とっても楽しいの。
しばらくすると彼女が私に聞いた。
「なんて名前?」
「アブラキーダよ」
「アブラキーダ?!すごい!いい名前!いいなー!そんな名前!」彼女はつぶらな目を丸くして羨ましそうに私を見つめた。
「あなたのお名前は?」
「えみよ」
「私の名前をいいなーって、どんな名前がいいの?」
「ペルシャ!ペルシャってなんかかわいいでしょ」
「うん、かわいい!じゃあ、私はペルシャって呼ぶわ」
「ほんと?!嬉しい!アブラキーダ!」
「ペルシャ!」「アブラキーダ!」「ペルシャ!」「アブラキーダ!」・・
私たちは手を繋いで、れんげ畑を走り、スキップし、遊んだ。
こんなに楽しくて、私と一緒にいることを喜んでくれる。
嬉しくて、すっごく嬉しくて、楽しい時間だった。
日が暮れてきて私たちはお別れすることになった。
「またね。バイバイ。」それだけ言って別れたアブラキーダとペルシャ。
アブラキーダは幸せで、親友になれたことが嬉しくてたまらなかった。
ペルシャに出会えたことが嬉しかった。
妖精の世界に戻ったアブラキーダはとっても優しくなった。
たくさんの妖精たちと友達になった。
お母さんと手を繋いで話し、お手伝いもするようになった。
お母さんはアブラキーダに微笑んだ。
アブラキーダはいつもにこにこ笑う優しい妖精になった。
アブラキーダとペルシャはあれから一度も会っていない。
一度。たった一度きりの出会いで生まれ変われるほど満たされた時間だった。
次に会う約束はしていない。
二人は、別々の世界を生きている。
あのれんげ畑で遊んだいつかの親友がいることを、どこか懐かしい記憶と共に生きている。同い年のアブラキーダとペルシャ。
一度きりの、一瞬の時間。
ずっと、
ずっと、
ずっと先に二人はまた再会する日があるのかもしれない。
あの時と同じように、
離れた時間なんてなかったかのように、
会って瞬く間に、二人は微笑みの時間を共にするのだろう。
そして、思い出すのかもしれない、まるで宝箱を開けるように。