ショートショート 481~490
481.街に怪獣型女子高生が現れた。
彼女はその巨大な尻尾で線路を塞ぎ、この国の最重要的大道路で体育座りをしている。
ふと、下を見た。
大混乱極める人間を見向きもせず彼女はゆっくりと「通行止め」の標識を引っこ抜き飴の様にがぶがぶと噛み始めた。
まるで自由。
不意にネクタイが重くなるのを感じた。
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482.お辞め下さい、頭を上げてください。
私は何様なんですか。私など貴方が無下に投げ捨てた人間ですよ、何様でも御座いません。許す許さないも私が左右させる話ではないでしょう。
立ち上がって、お帰りください。
私如きが貴方を絶対に許さない事など、貴方に関係ありませんよ。
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483.私は透明でした。色なく透ける私は休み時間になると人知れず浮いていました。寂しくはありません。傍観というものは虚しいものではなく、いわば額縁から世界を見るようなものなのです。
ふと、彼女と目が合いました。
「ねえ、」
その途端、私にも重く色が付き、あっという間に世界へ着地しました。
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484.ゴトゴトと、初心者セットの如き中古のワゴン車を走らせた。
段々といやらしく背の高い建物がいなくなり、松とカモメの声が増えてくる。錆びたトタンが目立つ。
高速道路と下道の重なる四角いトンネルを慎重に越すと、青寒く清々しい光が広がって、─海だ。
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485.君が遺言を時代遅れなカセットテープなんかに入れたせいで、私は未だ君の声を聞けないでいる。
今やどこにもプレイヤーなんか無くて、あては何故か君が壊した、君のプレイヤーだけなのだ。
それからずっと、私はプレイヤーを直している。全くもって直らないけど、それでもいい気がするのは何故だろう。
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486.ある山で複数人の行方不明者が出た。捜索隊が探し回り、やっと発見されたが残念な事に全員遺体であった。
それからその山は立ち入り禁止となっている。
どうすれば人間を加工した跡のない崖の真ん中の壁に足首、靴だけを飛び立たせた状態で埋め、圧死させる事が出来るのかわからなかったからだ。
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487.殺意限界極まった為、いざ奴の命の灯火を消してやろうとある穴に入り込んだ。「名前順に並んでるよ」と死神が言うので さ行を探す。…あったぞ。
す、はどこだ。
す、す、す…あった、あったけど、
「鈴木宏」
そこに広がる同姓同名
「ほら、僕らはプロだから」
カタカタ、後ろで死神が笑った
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488.「あら、貴方現実過剰ですね。
フィクションが足りていません。
こちら処方しておきますねえ」
そう言って渡されたのは、手塚治虫の火の鳥と、古谷実の稲中卓球部と、星新一のボッコちゃんだった。
全て読んだが現実で何の役にも立たない話であった。
しかし今、私が笑い、泣いているのは何故だろう。
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489.私は昔から同じ人にストーカーをされている。そして何回か軟禁もされている。
しかし何故私が無事かといえば、この天才的ピッキングの才能のお陰だ。針金一本マスターキーである。
さあ今回も彼は鍵のクオリティを上げてきた、が私の手にかかればものの五分。次回に期待し、私は悠々と戸を開け放った。
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490.それは通り道なし、都会の人のごった返す道にいた。人は無意識に彼を避ける。「昔ここに神社があったのだ」と薄汚い彼は言った。
「汚川となり埋められ、そして忘れられる。だが仕方なき事。子よ健やかであれ」そう笑う彼は確かに氏神であった。