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「ヴァイタルなもの」

2019.04.02 18:12

 80歳まで作品を作り続けた版画家、長谷川潔は技法の探求とともに自分のエネルギーを保持するための「自分の在り方」も研究したのではないか。

 イチローが引退を決めるまで、そして引退後もその身体の運用の研究を止めないのも、自分が何処まで「能力が高まる」のではなく「どうなっていくのか」を自分をもってして研究しようという態度の現れだ思う。

 

 内面の表出を願う者も、やはり外界と関わることは避けられない。


 作品と向き合った長谷川潔と、生身の「相手」と向き合ったイチローとでは全く話しが違うと思うかもしれないが、「時間の経過」という「経験したことのないこと」に向き合うとき、彼らは共に抗えない「外界」の影響を感じたはずだ。

 

 イメージした「ぼんやりしたもの」を浮かび上がらせるために、心血を注ぎ、継続する行為を繰り返す。はじまりは空疎なものにエネルギーを注ぎ、「ヴァイタルなもの」に仕上げようとする行為。

 長谷川潔の作品の制作年も見ながら、「深い黒」が展示された静かな空間をゆっくり歩いた。