子宮をマッサージしても人工授精の確率が改善するというデータはありません②
おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。
前回から、リハ専門職、整体師や、カイロプラクターなどが謳う、『内臓マッサージ』、『子宮マッサージ』、『産後の骨盤矯正』、『妊活整体』、『妊活ヨガ』に関して書いています。
悪質な顧客誘導を行っているホームページを見つけてしまい、記事を書くことにしました。
2019年4月7日追記:記事に修正と追記を加えました。修正部分の元の文は、文の上に線を引いて消し、追記した部分には下線が引いてあります。私のブログのシステム上、文字の色を変えるなどが出来ないため、やや見にくいかも知れません。申し訳ありません。
特定のホームページに意義を唱えることが目的ではないため、文章の引用などはしますが、どこのweb siteかは書きません。
ここからは、『内臓マッサージ』、特に『子宮マッサージ』に関して書きます。 体の外から内臓にマッサージを加えることでなんらかの症状が良くなったり、予防できたりする。
私達リハビリ専門職にとっては非常に魅力的な話です。
手術や薬の処方が出来ない私達リハビリ専門職にとって、社会や患者さんに貢献できる幅が広がります。
また、患者さんにとっても、薬に頼らなくて良くなる、継続的な運動や食生活を見直す必要がなくなる(もしくは少なくなる)ということは魅力的です。
ただ、私は安易にこう言った行為を勧める人達を非常に軽蔑しています。
残念ながら、同じ理学療法士も整体院の様なものを開業して、こういった行為に加担している人がいます。 現状では法にはひっかからないので、『犯罪』ではありませんが、悪行ではあると思います。
もしも体の外から、マッサージ程度の優しい刺激を加えることで簡単に(?)内臓の状況を改善できるのであれば、逆方向から見れば、外から優しい刺激を加えることで内臓にダメージを与えることが可能なはずです。内臓は生命維持に最重要な臓器群であるため、胸の辺りにある臓器は肋骨や胸骨で守られており、腹部は、皮下脂肪、腹部、背部の筋で保護されています。こういったことから考えると、内臓にマッサージを加えて変化を引き出すというのは非常に確率の悪そうな『仮説』です。
ただ、私がどう考えたかは関係なく、実際の患者さんで効果があったかというデータが一番大切です。
私が見た治療院(整体院?)のページでは以下の様な文章が堂々と書かれていました。
・子宝マッサージは体外受精の効果を副作用なしに高めることが医学的に立証されています
・(アメリカとイギリスの研究を示して)鍼灸は体外受精の妊娠率・流産率ともに改善しないとしています。
・効果があったという論文と効果がなかったという論文を併せて200本近い論文を比較し、鍼で妊娠しやすくするための条件を見出しました。それが当サロンの「子宝はり」です。
某治療院のホームページより
治療院でこの文献へのリンクが貼られていました。
タイトルは
『マッサージは、クライオサイクルでの胚盤胞移植を行う患者の体外受精の結果を改善する』
なかなか攻めたというか、刺激的なタイトルです。
補足
私は不妊治療の専門家ではありませんので、インターネットで簡単に調べたところによると、胚盤胞移植というのは、体外受精の一種で受精卵の成熟度によって分類されるもののようです。また、クライオサイクルというのは、体外受精に使用する機械で、内部を低温・真空に近い状態にできる装置のようです。
専門家の友人から『クライオサイクルは、受精卵を一旦凍結保存しておき、子宮内環境やホルモン状態を整えた後、ベストなタイミングで胚移植する周期治療のことではないか?』というご指摘を頂きました。論文の該当部分を再確認したところ、その説明が正しそうでしたので修正させて頂きます。ちなみにこの目的で使用される装置「Cryocycle」は実在します。
補足終わり(間違いがあれば適宜修正します)
ただ、内容としてはこのデータをもって、子宮マッサージと体外受精の確率の上昇に関して因果関係を証明するというモノではありません。
この部分は少し専門家向けです。
研究の骨組みとして、論文のPICOを書いておきます。
(P)どんな患者を:体外受精(胚盤胞移植)を受ける患者に
(I)どんな治療を:腹部のマッサージを行うと
(移植の日に、通常の予約スケジュールより前にクリニックに来て、マットレス型のマッサージ機を使って30分間のマッサージを受ける)
(C)どの様な方と比べて:行わない患者と比較して
(O)何を調べる?:妊娠の確率、妊娠継続率、出産の確率は変化するか?
です。専門家用の部分終了。
結果としては、
『マッサージを受けたグループ』は『マッサージを受けなかったグループ』と比較して体外授精の確率、妊娠継続率、出産の確率が統計的な有意差をもって高かったようです。
ここまで見れば、何も問題なく、ホームページでも書かれている様な
子宝マッサージは体外受精の効果を副作用なしに高めることが医学的に立証されています
という主張は正しいように聞こえます。
ただ、この論文をもって子宮マッサージが体外受精に効果があると言ってしまうのは大きな問題があります。
なぜかというと、この研究でのマッサージを『受ける』か『受けないか』のグループ分けが、ランダムに行われておらず、
①患者がマッサージを希望した場合は、『マッサージを受けるグループ』に割り当てられた。
②患者がマッサージを希望しない場合に、『マッサージを受けないグループ』に割りあてられた
という方法がとられています。
つまり、『ランダム化』も『盲検化』も行われていないという問題があります。
この論文を基に『マッサージをすることで体外授精の確率があがると証明されました』と書くのは良くて無知による勘違い、少し厳しく言えば、『無理やり自分に都合の良い論文を引っ張ってきて、それを基に患者を騙して自分のサービスを売ろうとしたのではないか?』と疑われてもおかしくないレベルです。
長くなりましたので次回に続きます。次回はなぜこの論文では因果関係が言えないのかに関して詳しく書きます。
今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。
理学療法士 倉形裕史
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