６．学生気分からの脱皮

序章で述べたとおり化粧品は高級化粧品（プレステージコスメ）から日用品（トイレタリーズ）まで幅広い領域にまたがっていますが、このコスメ・マーケティングでは、特に、高級化粧品のマーケティングを念頭にいれながら進めていきます。筆者からの願いは、貴方がコスメ・マーケティングを修得し、お客様に愛されるビューティアドバイザーになっていただくことです。そして一人でも多くのお客様が幸せになるようにお手伝いをしてください。また、貴方のマーケティングに磨きをかけて、マーケティングスタッフにチャレンジすることもよいでしょう。さらに、化粧品ではなく他の高級品マーケティングに興味を持つかたにとっても、このコスメ・マーケティングは参考になる読本になるはずです。そして、最終的には、一番大切なことですが、マーケティング思考を、貴方自身の人生設計の為に応用することです。「マーケティング」はビジネスに成功する学問だけでなく、人間の成長にも大変に役に立つ学問です。

学生から社会人となる過程で、誰でも大きな環境の変化に直面します。ビジネスの社会では組織と共存することが要求されます。学生時代の価値観はそのまま社会では通用しません。それが原因で誰もがこのギャップに悩み続けるようです。どのようにして解決するか、貴方が最終的に取り得る方策は2つしかありません。貴方の価値観を見直し、新たに組織の価値観に適用させるか、または逆に組織を個人の価値観に適用させるかです。後者の場合を望むならば貴方自身で起業するしかありませんが、ほとんどの社会人は前者の道を歩むことになります。悩み悩みながら時間をかけて適用策を見出すことになりますが、もし事前に学習ができていれば時間をかけずにこの壁を乗り越えることができるはずです。何を学べばよいか、それは意外に簡単なことです。ビジネス社会にはビジネス・ルールがあることを理解することです。それはスポーツやゲームにルールがあると同じことで、野球のルールを知らなければ野球をプレーできません。「ビジネス」というゲームに必要なルールが「マーケティング思考」です。社会人として修得すべきビジネスの基本ルールをいくつか列挙しました。

(1) 収入は労力の対価として会社より支払われます。学生時代は授業料を支払いながら勉強する期間ですが、ビジネス社会では、お金の流れが逆になり、時間、労力、知力を提供し、その対価として給料が支払われます。そして、その給料は製品やサービスを購入する「お客様」から代金として支払われています。

(2) 独立自尊の精神を持ち、家族など他人に依存する生活から自己依存に変化する必要があります。それを成すには各個人が自己管理・自己啓発をしてゆかなくてはなりません。社会人となり、これからが真の勉強がはじまることを覚悟しましょう。

(3) 組織のニーズに適応しなければなりません。学生時代は、社会との関わりに注意を払わなくても自己の興味だけでやってこれましたが、社会人になるとその考え方が通用しません。組織との調和の中で、初めて自己主張が認められるからです。

(4) 今までの価値観を見直して修正しなければなりません。学生時代は売上や利益をあげることとは無縁の関係でしたが、社会人になると突然、それらが重要な関心事になり上から強制されます。社会人になり、急に売上を上げろ、利益を上げろなどと言われてもどうしてよいかわからなくなります。どうすれば売上があがるのか、どうすれば利益を最大にできるのかを勉強するのが「マーケティング」です。

(5) コミュニケーションの重要性を認識すること。コミュニケーションは仕事を円滑にすすめるために必須条件です。その重要性は私生活も同様で、人類の歴史を数千年前まで遡ってみても常に人類はこの問題で悩んできました。コミュニケーションの問題は更に進化した世の中でも永劫不滅の課題です。紫式部は「源氏物語」の中で千年以上の前の貴族社会のコミュニケーションを著わしていますが、当時の社会のコミュニケーションの問題は現代でも寸分の違いもなく同様に生じています。ここに過去の歴史を学習する意義があります。歴史を学習し過去から学び、現在を把握できれば、良き未来をつくりだすことも可能になるでしょう。学ぶ重要性を福沢諭吉は「学問のすすめ」の中で述べています。「人間は誰でも学ばなければ知識を得ることができない。知識がない者は愚人です」私たちは終生学び続けなければなりません。