子宮をマッサージしても人工授精の確率が改善するというデータはありません③
おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。
前々回から、リハ専門職、整体師や、カイロプラクターなどが謳う、『内臓マッサージ』、『子宮マッサージ』、『産後の骨盤矯正』、『妊活整体』、『妊活ヨガ』に関して書いています。
前回、『子宮 マッサージ』で見つけた治療院のweb siteとその中で引用された論文に関して書きました。
この論文に対する私の解釈は
「現段階ではマッサージを追加コストを貰って提供する合理的な理由は無いな」です。
もう少し詳しく書くと、
「体外受精の直前にマッサージを受けることは、明らかに目につく危険な副作用はなさそうだな。結果が改善した効果とマッサージの因果関係に関しては言えないから、もう少しキチンとした研究が欲しいな。」です。
続きです。
そのweb siteからの引用です。
・子宝マッサージは体外受精の効果を副作用なしに高めることが医学的に立証されています
・(アメリカとイギリスの研究をを示して)鍼灸は体外受精の妊娠率・流産率ともに改善しないとしています。
・そこで効果があったという論文と効果がなかったという論文を併せて200本近い論文を比較し、鍼で妊娠しやすくするための条件を見出しました。それが当サロンの「子宝はり」です。 某治療院のホームページより
と書いてあり、『マッサージが体外受精の確率を上げる』ことを謳った論文のリンクが張られていました。
前回の最後に、 この論文の中で、『マッサージを受けたグループ』は、体外受精の確率などが上昇しました。ただ、この研究からはマッサージと確率上昇の間の因果関係を知ることは出来ないです。ということを書きました。
その中で、研究の質を高めるための大切な要素として『ランダム化』と『盲検化』をあげました。
なぜこのようなことが大切なのか? 今日は、ランダム化に関して書きます。
ランダム化とは、グループ分けをする時に、『マッサージを受けるグループ』と『受けないグループ』に分ける時に、無作為に(くじ引きの様な形で)分けることを意味します。
なぜ、この様な事が必要かと言うと、一つは、両方のグループの前提条件を合わせるためです。 例えば今回の様な妊娠に関する処置であれば、年齢は大きく結果に影響を与える条件になると思われます。 もしも『マッサージを受けたグループ』がもう一方のグループより、かなり若かったとします。この場合、もしも結果が良かったとしても、「それは、マッサージを受けたグループが若かったからじゃないの?」と突っ込まれてしまう可能性があります。
この研究では、年齢や、いくつかの妊娠に影響を与えそうな条件に関して両グループを比較しており、その結果、両方のグループで差はなく、前提条件は同じであると報告しています。
ただ、体外受精の成否に影響を与える因子は他にもたくさんあるでしょうし、そのすべてに関して両グループで同様だという保証はありません。
少し意地悪な見方をすれば、『差の出なかった項目を報告して、差が出てしまった項目に関しては書かなかったのではないか?』と言われてしまうかもしれません。
グループ間で前提条件に差が出てしまった場合は、統計的な手法を使って、その差を揃えることが出来ます。 「年齢に差があるから、統計的な手法を使って、揃えよう」みたいなことが可能なわけです(詳しい説明を避けてザックリ言ってます)。
「じゃあ、この手法を使えば、ランダムにグループ分けする必要はないんじゃないか?」と思われるかもしれませんが、まだ明らかにされていない『未知の因子』が結果に影響してしまう可能性があります。 ランダムにグループ分けを行えば、『未知の因子も含めて、両グループの前提条件は均一になる』と考えられています。
もう一つ。
このような「前提条件が揃っていたか?」という問題に加えて、この研究のグループ分けのやり方は、研究をする側の作為的な操作が入り得るという問題があります。
詳しく書きます。
この研究チームには、「マッサージを事前に行うと体外受精の確率が上がる」ということを証明したい動機があります。 これは、
①比較的安価な手法で確率を上げて、お子さんが欲しい夫婦に貢献したいという社会的な動機
②マッサージを体外受精と併用するという初の試みらしいので、自身の仮説を証明したい自己実現の動機
③この研究で使われている機械を売りたいという商業的な動機(会社からの資金提供などはないとなっていますが)
などが考えられます。
こんなマッサージ機を使っています。
このような場合、体外受精が成功しそうな女性には、熱心に「マッサージを受けるグループ」に勧誘し、そうでない女性にはあまり熱心に勧誘しないといった意識的・無意識的な操作が生じてしまう余地があります。
ランダム化の話だけで終わってしまいました。。。
次回は盲検化に関して書きます。このシリーズ、いつ終わるんだろう。。。(;’∀’)
今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。
理学療法士 倉形裕史
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