相続法改正(その4)(便利な自筆証書遺言)
1 新制度の実施について
(1) 新しい自筆証書遺言については、平成31年1月には既に施行されていますので、現
行法として現在機能していることになります。
ただし、施行日(平成31年1月13日)以前になされたもの(自筆証書遺言の作
成)は対象外ということになります。
(2) 自筆証書遺言の遺言書の保管制度は、平成32年7月10日から施行されます。
2 新しい自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、従来の自筆証書遺言と同様に、全文、日付及び氏名を自書し、これに
印を押す必要があります。・・・・・ここまでは従来どおり
改正点は、財産目録にあります。
従来は、この目録も自書することが求められていました。反対に言えば、自書でないと
遺言としての効力が生じないということでした。
しかし、新しい自筆証書遺言では、財産目録については、自書する必要がなく、目録自
体は、ワープロなどのパソコン入力によるものや、預貯金通帳のコピーの添付、不動産登
記事項証明書の写しを用いることなどが可能となったことになります。
その際、遺言者は、その目録の各葉(各頁ということ)に署名し、印を押すことが求め
られています。
この改正により、遺言者がたくさんの不動産や多岐にわたる種類の預貯金、株式、有価
証券、その他の財産を有している場合に、いちいちそれら各財産の内容を特定するために
自書しなければならない負担が軽減されたことになります。特に不動産の登記情報を逐一
自書しなければならない苦労を考えた場合、だいぶ楽になったと言えるでしょう。
3 遺言書の保管制度とは
(1) 自筆証書遺言を作成した遺言者は、法務局に保管を申請できます。
(2) 効用(公正証書遺言に代わり、安く手間なく公のものとして保管可能)
これにより、従来のように遺言をいちいち公証人役場で公正証書にしなくても、公の
ものとして自筆証書遺言を機能させることができるわけです。
公正証書遺言を作成するには、公証人に手数料を支払わなければならないのと、公証
人役場で、遺言者の遺言能力の確認や、遺言内容の読み合わせ等による確認が慎重にな
された上で、遺言者がその公正証書遺言を保管するほか、当該公証人役場の公証人にお
いても当該公正証書遺言を保管してくれ、改ざんや偽造の心配のない公のものとして機
能しています。そして、公正証書遺言には、家庭裁判所の検認を経る必要がないメリッ
トもあります。
4 保管制度の具体的内容(効用)
(1) 遺言者にとってのメリット
今回の自筆証書遺言の保管制度では、
・ 遺言者みずからが法務局に出頭して、
・ 遺言保管官(法務局職員)に、
・ 自筆証書遺言(無封のものに限るとされていることに注意)の保管を、
申請できる。
・ どこの法務局へ保管申請できるか(管轄)
遺言者の住所、本籍、又は、遺言者が所有する不動産の所在地を管轄するいずれか
の法務局
(2) 遺言者保管官は
遺言書の画像情報、遺言者の氏名・生年月日・住所・本籍、遺言書の作成年月日など
を、遺言書保管ファイルに記録して管理
(3) 相続人等の関係相続人等は
・ 遺言者の死亡後に
・ 遺言書情報証明書の交付や遺言書の閲覧を請求できる
・ この関係相続人等には、
遺言による信託の受益者、帰属権利者、受託者、信託監督人、受益者代理人も含む
また、何人も、
・ 遺言書保管事実証明書の交付請求可
・ 遺言書の内容を知ることはできないが、
・ 遺言書の存在を知ることができる
※ 遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付がされると、遺言書保管官は、他の相続
人等に対し、遺言書を保管している旨を通知することになっていることに注意
(4) 家庭裁判所の遺言書の検認手続が不要
従来の自筆証書遺言は、相続人などその遺言の効力を主張したり、遺言執行者におい
てその遺言を執行しようとする場合、家庭裁判所の検認という手続きを経ることが求め
られていました。
しかし、新制度である自筆証書遺言の保管制度を利用すれば、後の上記(3)の関係相続
人等は、公正証書遺言と同様に、遺言書の検認は不要になりました。
5 今後期待される機能
自筆証書遺言の遺言書保管制度は、公正証書遺言の作成・保管に代わるものとして、そ
れよりもより安価で、利用しやすいものとして機能することが期待される。
身近で利用しやすい遺言ということになります。
6 最後に法務省のわかりやすい解説案内(PDF)を貼り付けておきます。
以上