14歳
開店と同時に常連さんとの話が盛り上がり
急に猛烈に「それ」が飲みたくなって
「ちょっと待ってて下さい」なんて
「すごくおいしいのが作れそうです」とクギを刺してひとり
近所のスーパーまで急いでレモンを買いに行きました
初めて女の子をデートに誘った中学2年生
近所の公園で待ち合わせをして
自転車で街の映画館まで
簡単に「好きだ」なんて口にもできずその代わり
ちゃんとハッピーエンドで終わる恋愛映画を見に行って
主人公がテレながら告白するシーンを指して
「あそこのあのシーンすごく良かったよね」と
ほんのすこしばかし自分の「好き」もほのめかしたりして
慣れた顔して背伸びをして初めて入った喫茶店
昼間から白熱電球が点いている薄暗い店内で
注文を取りに来た店員さんを前に何を頼んだら良いのか見当も付かず
すぐに注文を決めてしまった彼女のマネをして
急いで注文した「レモンスカッシュ」
十数年も経った今では
それがどんな味だったのか
どんな風に出てきたのか
考えても考えてもイマイチちっとも思い出せないのですが
きっとそれは「恋の味」がしたことでしょう
グラスには
たっぷり大きめの氷
ふたつに切ったレモンを丁寧に絞り
その上からシロップをたっぷり
キンキンに冷えた炭酸水を注いで
初めて作った「レモンスカッシュ」
すごくおいしかったはずの「それ」は
「甘い」より「酸っぱい」の方が勝っていて
そう言えば僕は
あれからたくさん恋をしたんだったなーと
14歳の自分をすこしだけ羨ましく思いました
「恋の味」を思い出したくなった時ボクは
だから猛烈に「それ」が飲みたくなるのでしょう
閉店間際
1~2度お店に来てくれたことのある
近所の中学生の女の子
本棚から僕のお気に入りのどうしようもないコラムを選び
時折すこし含み笑いをしながら
静かに静かに苺のショートケーキを食べていました
こっちが緊張しながら
初めて話し掛けてみると
「14歳です」の返答
レモンスカッシュの1日
それはまるで初恋のあの娘と話しているような気分でした