佐東利穂子「update dance #61 泉」カラス・アパラタスB2ホール
「アップデイト・ダンスNo. 61」は、KARAS APPARATUSの勅使川原三郎氏の振付で一緒に20年以上踊ってきた佐東利穂子氏が初めて振り付けた自身のソロ作品。6月には同作品をフランスのパリ日本文化会館にて上演予定。
公演のチラシなどで使われていた写真には本物の泉のようなに見えるものに佐東氏が相対していたが、舞台には、薄布などでできているのだろうか、そのオブジェがあった(つるされていた?)。公演冒頭、真っ暗になり、水の流れる音が聞こえてきて、薄ぼんやりと白いものが上手(かみて)に浮かび上がる。目をしっかり開けているはずなのに、本当に開けているのか自信がなくなってくる。一瞬のうちに自分の目の視力が落ちてしまったのだろうか、それとも自分は実は目をつぶっていて、見えていると思っているものは幻影なのだろうか。そう心配になってきたころ、再び暗くなり、徐々に光が見えて、佐東氏の姿が見えた。
音楽に疎い私には曲名は分からないが、クラシックっぽい音楽が幾つか使われていた。バイオリンの音色だろうか、一日働いた後の夜の耳にはあまりに心地よく、このまま目を閉じて夢の中の世界でダンスを見ていられたらどんなに幸せだろうかと思った。
静謐な泉への憧れを表出するように、川の流れのように動く。クルクルと円を描くように激しく動いたときの弧を描く腕が重力から解放されたように空間に溶け込むかのように透き通って見えたこと、生物に命を与えてくれる水をいとおしむかのように両腕で体全体で何かを包む込むようにしていた動きなどが印象に残った。床を這う動きでは、地中にしみ込む水のような力強さを感じ、汗を飛ばして激しく動く場面と同じく、祭礼の踊りのように神聖でありながらエロスが漂っていた。
佐東氏はダンサーとしてものすごく恵まれた身体を持っているというわけではないかもしれないが、年齢を超えた透明感のある身体だと思う。踊っているときも、公演を終えてマイクで観客に向かって話しているときも、ダンスへの飽くなき好奇心とあせることのない真摯な態度が感じられる。
私の感じ取る力が足りないせいだと思うが、もう少し変化をつけたり展開させていってもいいのではないかとも思った。しかし、奇をてらった派手さではなく、静かに、でも激しく、泉の本質に迫ろうとしている作品なのだろう。
今後も作り続けたいとおっしゃっていたので、期待したい。