10.競合状況
市場の現状把握を把握するには、まずは競合状態に関するデータを入手します。
競合状況を知らずして競争に勝つ戦略を構築することができないからです。競合状況は競合ブランドの数とその規模によって多占・寡占・独占と分類されます。
多占市場は小さな売上げの企業またはブランドが多くひしめき合っている状況で、典型的な多占市場が農業の領域です。全国には小規模の農家が百万以上もあり個々の農家は市場を動かす発言力がありません。それが多占市場の特長で、多占市場に参入するには、「製品差別化戦略」があれば大きなビジネスチャンスがあります。単に参入するだけではビジネスを大きくする機会はありません。
寡占市場は大きな売り上げのブランドが少数競合している状況で、航空サービスやビール市場などに多くみられます。現在では多くの市場が寡占状態にあります。そしてさらに寡占の中に「ガリバー型寡占市場」といわれる競争形態があります。その名称は童話物語の「ガリバー旅行記」が由来です。ガリバーが漂流して着いた島は、ガリバーだけが大きく周りの人はすべて背の低い人々がいる島でした。つまり多数の小さな生産者が存在する中でたった一企業だけが巨大な市場を意味します。寡占市場に参入するには難しいように見えますが、反面、機会は工夫によって大いなる可能性があります。「製品差別化戦略」が無くては不可能ですが、相手の弱い領域を見いだすことができれば大いなるチャンスがあります。
独占市場は、ひとつのブランドが市場を独占している状況で、独占市場は競争相手が皆無なので無条件で売ることができます。買い手としても売り手が一社しかないので購入選択の余地がありません。独占市場は価格決定の主導権が売り手側にあり健全な状態だとはいえません。そのために独占禁止法によって市場が独占市場にならないように政府が管理しています。
インターネット通販大手のアマゾンジャパンが2018年、同社のサイトに出品する企業に値引き販売した額の一部を補填させていた疑いがあるとして、独占禁止法違反(優越的地位の乱用)容疑に問われました。日本におけるEC市場における競合状況は、「JETRO 2017」によると、20.2% アマゾン、20.1% 楽天、そして三位のソフトバンクの8.9%でトップ3社の合計がほぼ市場の半分をしめる典型的な寡占市場です。
百貨店の店頭には化粧品ブランドが40前後あり競合状況は多占のように見えますが、現実には上位集中型で寡占状態に近いのが現状です。店頭を観察すれば厳しいシェア獲得が日々展開されている様子がうかがえます。表面的には優雅にみえる売り場ですが、裏では各ブランドの製品差別化戦略が火花を散らしています。それが百貨店の化粧品売り場です。
競争に打ち勝ちシェアを上げるには大変な努力と工夫が必要です。競争はできれば避けたいと感じるのが人情でしょうが、競争は需要を喚起し技術を向上させる原動力になる一面もあります。競争のあり方から日本の幼少時代の教育方法を観察すると問題を感じます。教育とは何かに関しては各人各様の見方がありますが、ビジネスの観点からすると、教育とは競争に打ち勝つための準備をすることだと思います。一般的なことですが、日本の小学校(公立)の教育現場は競争を否定しているように見えてなりません。子供の成績表を見ると相対評価が記載されていないからです。運動会の徒競走でさえも順位をつけません。幼少時代の思い出ですが、3位以内に入るとリボンやノートが賞品として授与されました。なんとかリボンがほしいと願って頑張った記憶がありますが、最近はすべてが平等主義のために順位を付けることから生じる競争意識が否定されているようです。これは誤った平等主義で個性をつぶし、やる気のある人間を育てることはできません。平等主義とは平等に扱うことではなく、誰にでも「機会を平等に提供する」ことだと解釈すべきです。
社会では熾烈な競争が行われています。競争に負ければ残念ながら惨めな生活に甘んじなければなりません。競争社会で勝ち抜くためにベストを尽くせば必ず報われる社会が日本には存在しています。競争意識の乏しい人間が、心の準備もなく社会に飛び出せば大変なストレスを経験することになります。
福沢諭吉先生の「独立自尊」の精神は、競争に負けない強い心と自立できる知識を持てと言っていると思います。