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髙橋 三保子

12センチの宇宙

2019.04.21 00:22

世界に3つしかないという国宝のお茶碗「曜変天目」に会いに行く。


今、偶然にも、国内で三碗が同時に公開されていて、そのうちのひとつが東京・静嘉堂文庫美術館にあるのです。


電車とバスをがたごと乗り継いで、二子玉川へ。


ふだん滅多に降りない駅なので、小旅行きぶん。




閑静な住宅地を抜け、緑ゆたかな坂道を登ったところに、静嘉堂文庫美術館(…とても素敵な名前の美術館だと思う)がこじんまりとたたずんでいます。



中へ入ると、展示室前のロビーに人だかりができていて、ガラスケースの中に、お目当ての曜変天目茶碗が!


第一印象は「案外小さいな」でした。


ふだん、お茶室で茶碗に触れるときは、目の前に置いて抹茶を点てたり、両の手のひらで包んでお茶を頂いたりするので、ガラスケースの向こうに鎮座しているお茶碗を、遠く感じたのかもしれません。


人だかりをかき分けて近づき、茶碗の中を覗き込んで、息をのみました。


茶碗の中に、星空が。


ガラスケースの周りを歩きながら視点を変えると、虹色の輝きがゆらめいて、まるで生きているよう。


…というかたぶん、本当に生きているんだと思う。


『銀河鉄道の夜』で、ジョバンニが、ショーウィンドウの星座早見盤に心奪われたように、茶碗の中の星空から、完全に目が離せなくなってしまった。


こんな茶碗が、この世界にあるなんて。


「茶碗の中の宇宙」って、比喩表現だと思っていたけど、曜変天目の中には、本当に宇宙があった。


これまで誰も、この茶碗でお茶を点てた人がいないというのも、よく分かる。


希少価値が高いというだけじゃなく、どこか道具であることを超えた気品があって。


仮に、これが無名の天目茶碗に混ざって、何気なく水屋に置いてあったとしても、修行中の未熟な自分では到底手には負えないという感じがして、こわくて手に取れないだろうな、と。


刀剣の展覧会に、お茶碗が出品されているというのでふしぎに思っていたんだけど、その迫力、背すじがぞくっとするような、こわいほどの美しさ、通じるものがあるのだなと、実物を見て納得。


すごいものを目撃してしまったという興奮とともに、家路につきました。

そして帰宅後、曜変天目の絵葉書を眺めながら、京都と奈良で公開されている残り2つの曜変天目も、見たくてたまらなくなっている自分がいる。



ひとつの扉を開けると、どんどん次の扉が開いて、思いがけない地点に連れていかれる。


人生ってつくづく「やれやれ」の連続で、そして本当に、面白い。