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KANGE's log

映画「芳華-Youth-」

2019.04.21 06:23

スチル写真を1枚見ただけで、「これは良い映画に違いない」と感じる作品が、たまにあります。本作がまさにそれ。 

なんだか、いいですよね。 別に「美人の水着だから」というわけではないですよ。何か「こういうものを見せたい」って思いが伝わってくるんですよ。

ひとことでいうと「時代の激しい波に翻弄される、若者の美しくも悲しい群像劇」です。 

群像劇なので、まずは人物把握が大変でした。同じアジアでも海外のものだと、とたんに誰が誰だか分からなくなっちゃうんですよね。しかも、芸能部隊なので、みんな顔立ちが整っていて、さらに判別が難しくなっている。一応の主人公であるリウフォンとシャオピンでさえあやしい。

それでも、いろいろなエピソードが重なっていくと、キャラクターも分かってきます。「あれ? このナレーターは誰の目線で語っているんだ?」とかも気になってきます。そこも後の展開のためには重要です。

シャオピンの境遇は厳しいですね。彼女の実父は、「労働改造中」なのだそうです。「改造」…なんだか禍々しい響きです。つまりは、反共産党の思想を持つ者を収監して強制労働ということなのでしょう。後から分かりますが、そんな彼女にとって、軍に入隊するということは、自分の人生を変える一世一代の大勝負なわけですね。

軍とは言っても、芸能部隊である文工団は男女混合で、ずいぶん緩い雰囲気です。戦闘訓練などもありますが、ほとんど全寮制高校のようなノリです。そうなると、当然、恋愛沙汰や友情、若気の至り、マウンティングの取り合いに仲違い、嫉妬にイジメ…まあ、全部盛りです。

シャオピンは、出だしからつまずいてしまいます。模範兵として皆から慕われているリウフォンも大きな挫折をしてしまいます。でも、それぞれ原因を作ったのは自分自身です。善悪を一面的に描いていないところもいいと思いました。ディンディンがやったことも、「このままだと、自分が完全に悪者にされてしまう」と思ってしまったのでしょうから、賛成はできませんが理解はできます。どこかでちょっと歯車がズレてしまって、どんどん悪い方向に進んでしまう感じです。

リウフォンとシャオピンは、全く違う性格ですが、「器用には生きていけない」というところは共通していたのでしょうね。

物語の折り返し地点である高地での公演のシーンでは「え? そこを映像にしないの? どうして、どうして?」と思ってしまいましたが、ずっと後になって、「まあ、そうか。あれでよかったのか」と思えるシーンが用意されていました。

後半は、一転して、戦争スタートです。ワンカット・ワンテイクでの撮影だと思われる戦闘シーンは圧巻。凄惨な描写に容赦がない。しかも、敵が描写されず、どこから狙われているのかさえ分からない、ゲリラ戦の混乱と恐怖感が倍増です。

これは、中国としては、あまり触れたくないであろう中越戦争ですね。映画の中では、勝った負けたではなく、「戦争が終わった」ということになっていますが。カンボジアに侵攻したベトナムに対して、兄貴分としてお灸をすえてやろうとしたら、ベトナム戦争でアメリカを相手に実戦を積み上げたベトナム軍に返り討ちにあって撤退せざるをえなかったという戦争です。今でも領土問題を引きずっています。この戦争は、アメリカにとってのベトナム戦争と同じように、中国にとって、癒しようのない傷になっていることでしょう。

「ああ、こうやって、終わっていくのか…」と思っていたら、その後もどんどん話が進んでいきます。これも、ひとりひとりでは抗うことのできない時代の流れを感じます。それでも、時代は進んでいき、人生も続いていく。

表現の統制が厳しいであろう中国において、ここまでの作品が作れるというのは驚きでした。