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粋なカエサル

ギリシア神話の支配者9 ゼウス④三番目の妻ヘラ2

2019.04.24 01:41

  地続きのユーラシア大陸はアジアとヨーロッパからなるが、この両者の境はどこか?一般的には、ウラル山脈・コーカサス山脈、ウラル川・カスピ海・黒海そして黒海と地中海を繋ぐボスポラス海峡、ダーダネルス海峡をつなぐラインとされる。ところで、ボスポラス海峡の「ボスポラス」の名前の由来はヘラと大きな関りがある。

 ゼウスはアルゴスのヘラ神殿の美しい巫女イオも愛する。どうやってイオを誘惑したのか?「黒い雲」だ。これを描いた有名な作品がウィーン美術史美術館にある。コレッジョの最高傑作と名高い神話画連作『ユピテルの愛の物語』の中のひとつ「イオ」。ヘラの目を欺くように黒い雲に姿を変えたユピテルがイオの下を訪れ、抱擁とともに頬へと接吻するその動作や表情のなんと刺激的エロティシズムに溢れていることか。しかし、ヘラの知る所となり、ゼウスはヘラの嫉妬を避けるために,彼女を白い牝牛に変える。ところがヘラはこの牝牛に疑いをかけ,夫からこれをもらいうけて,百眼の怪物アルゴスに日夜怠りなく見張りさせる。ゼウスはどうしたか。ヘルメスを遣わし、その笛の音でアルゴスを眠らせた上、首をはねてしまった。イオは解放されたがヘラの怒りは収まらない。ゼウスに対してではない。イオに対してだ。今度は虻(アブ)を送 る。イオは半狂乱になり、各地を逃げ惑う。イオニア湾(現在のイオニア海。「イオの海」という意味)、イリュリアを通過し、ハイモス山を経て当時トラキア海峡と呼ばれていた海を渡った。後にこの海峡がボスポラス海峡と呼ばれるようになった。「ボスポラス」とは「牝牛の渡し」、「牝牛の通り道」という意味で、牝牛とされて逃げ惑ったイオに由来する。その後イオはエジプトに至り、元の人間の姿に戻った。そしてゼウスとの子エパポスを生んだ。しかしヘラがクレスたちに頼んでエパポスを異国に連れ去る。ゼウスはクレスたちを殺し、イオはエパポスを探し回って再会。その後イオはエジプトに戻り、エジプト王と結婚した。

 ゼウスと交わり酒神ディオニュソス(ローマ神話のバッカス)を身ごもったセメレ(テバイの初代王カドモスの娘)へのヘラの報復も凄まじい。ヘラは、セメレを育てた乳母の姿に変身してセメレに近づく。誰よりも自分に忠実な、昔の乳母の訪問を喜んだセメレは、すっかり心を許して自分がゼウスの愛を受け妊娠していることを打ち明ける。ヘラはその相手は本当にゼウスなのか、ゼウスだと信じ込ませてセメレの貞操を弄んでいるだけではないか、本当にゼウスかどうか確かめた方がいいとセメレを騙す。セメレはヘラの巧みな誘導に乗ってしまう。ゼウスがセメレに正体を見せたとき何が起こったか。手に燃えさかる雷を持ったゼウスの灼熱に、一瞬たりとも耐えることができず、たちまちのうちにセメレは焼け死んでしまった。この時すでにセメレのお腹の中には6か月になる胎児ディオニュソスがいたが、ゼウスはその胎児を見るも無残に焼け爛れたセメレの遺体から取り出し、ヘラから守るために自分自身の太ももに傷をつけ、傷口を開けて、その中に縫い込んでしまった。その子は順調に成長を続け、生まれるときになると、ゼウスは縫い目を解き、彼を取り出した。ディオニュソスは、神々の王であるゼウスの身体から、二度目の誕生をしたのである。人間の母から生まれながらディオニュソスがオリュンポス12神に名を連ねるのはこうした誕生の経緯に基づいている。

 しかし、ヘラの怒りはセメレを焼き殺しただけではおさまらなかった。ゼウスは赤子のディオニュソスをヘルメスに預け、セメレの姉イノに養育を命じる。ヘラはこのイノと夫でオルコメス王アタマスを発狂させてしまう。二人には息子が二人いたが、そのうちの一人をアタマスは矢で射殺。もう一人の息子も、イノが煮えたぎっている熱湯の釜に投げ込んで殺してしまった。そしてイオ自身も、その息子の死骸を抱きながら、海に身を投げ死んでしまった。

 (ピーター・ラストマン「イオと一緒のユピテルを見つけたヘラ」)

(コレッジョ「ユピテルとイオ」ウィーン美術史美術館)

(ボスポラス海峡地形図)北が黒海、南がマルマラ海

(ギュスターヴ・モロー「ユピテルとセメレ」)

(「ディオニュソスの誕生」)ゼウスの雷霆で焼かれるセメレ

(ヘラのセメレへの復讐)