3月6日(水)「3月大歌舞伎夜の部」
平成31年の3月大歌舞伎は、盛綱陣屋、雷船頭、弁天娘女男白浪の三本。
最初の盛綱陣屋は、近江源氏先陣館の八段目に当たる。この幕は良く出る芝居だ。仁左
衛門の当たり芸を期待して見に行った。時代は、鎌倉時代にしているが、実際は大坂夏の陣を題材にしていて、佐々木盛綱、高綱兄弟は、真田信幸、幸村兄弟の事である。
兄弟が敵味方に分かれて戦っている佐々木兄弟。兄盛綱の陣屋には、弟高綱の子の小
太郎が生け捕りにされている。ここで弟の高綱が戦死したという報があり、本物の高綱
の首なのか、兄の盛綱陣屋で、時政の前で首実験が行われる事なった。首実験は弟の顔
を知り尽くしている兄の盛綱に命じられる。家康に当たる北条時政の前で首実検する
と弟の首は偽首だった。その時、高綱の子供が飛び出して来て、いきなり切腹する。兄
の盛綱は、それを見て、高綱の策略と判断し、この首は高綱に間違いないと時政に話す。
2時間近い芝居だが、見どころが多く、眠くならない。小太郎は勘太郎が勤めたが、台詞が普通の子役の様ではなく、ちゃんと台詞になっていて驚いた。切腹して、盛綱をじっと見つめる視線がずれず、しっかりと見ている。さすが勘三郎の孫だ。盛綱は、小太郎が生きていると、高綱が自在に活躍できないと思い、小太郎に自害するように、母に頼むが、祖母と孫の愛情もあり、小太郎は母の顔を見るまで死ねないと話すなど、いじらしさに溢れていて秀逸。勘太郎のこの先が、楽しみだ。
盛綱は仁左衛門の当たり芸だけに、充実していた。錦絵から抜け出たような仁左衛
門のきりっとした表情が刻々と、心を映して、まさに湧き出るように様々に変化してい
くところが楽しい。首実験が最大の見所であるが、顔の表情の変化だけで、心の内面を
表していく。決してわざとらしくなく、ナチュラルに、表情が変化していくのはさすが、
小太郎が切腹し、高綱の作戦と見破ったあたり、思わずにやっと笑う所が不気味でもあ
り、不敵でもあり、知勇優れた大将振りを見せていた。最後本心を明かす場面で、実は
豊臣に味方するつもりだと言うのは、史実と違うので、首をかしげたが、あくまで芝居
なので、まあよしとしよう。
雷船頭は常磐津舞踊、船頭と空から落ちてきた雷が一緒に踊る趣向が楽しい。日替わ
りで、今日は幸四郎と鷹之助が踊った。浴衣の下に、ちらっと見え隠れする刺青が粋で、
美男の幸四郎にあっていた。
最後が弁天娘女男白浪。幸四郎と猿之助の日替わりだが、今日は猿之助が弁天小僧
菊之助を演じた。私は、色んな人の弁天娘を観たが、菊五郎の後は、猿之助で決まりだと思った。すでに猿之助の当たり役と言ってもいいのではないかと思う。娘姿で登場する時には、実にしおらしく、男と見破られてからの太々しさは、猿之助の独壇場となった。特に視線の変化が目まぐるしいし、ゲイ関係に在る南郷力丸との目との会話が悩ましくて素敵だった。猿之助が弁天娘を楽しく演じていて、これでもか、これでもかと熱演するので、観客も大盛り上がりだった。娘と見えて、実は男で、しかも刺青を纏った太々しい美少年であったという趣向が、楽しい芝居だ。こんな太々しい役を演じられるのは、今や猿之助しかいないのではないかと思う。