ギリシア神話の支配者10 ゼウス⑤三番目の妻ヘラ3
ゼウスが交わった女神、女性やその間に生まれた子どもへの迫害で最も有名で、最も凄まじいのはヘラクレスに対するものだろう。ゼウスは、ディオニュソスの他にももう一人、どうしても人間の腹から生まれさせねばならなかった。ゼウスはティタン神族との戦いに勝利したが、彼らをタルタロスに閉じ込めたことでガイアの怒りを買い、ガイアが生み出した巨人族(ギガンテス)と戦うことになる。しかし、オリュンポス神の力だけでは勝てない。「勝利のためには人間の協力が必要」との予言(ギガンテスは神々と違って不死身ではない。しかし、彼らを神々の力だけでは滅ぼすことができず、人間が神々に力を科すことによってはじめて滅ぼせるように生まれついていた)。
ゼウスは、ミュケネ王エレクトリュオンの娘で非凡な美貌のアルクメネに目をつける。彼女にギガントマキア(ギガンテスとの戦い)を勝利に導く息子の母親にすることに決める。しかし、そこには一つの大きな障害があった。彼女にはアンピトリュオンという婚約者がおり、しかも非常に貞節であり、たとえゼウスが言い寄っても貞節を汚すようなことは決してないと思われたからだ。しかし、絶好の機会がやってくる。アンピトリュオンが戦争に出かけることになったのだ。そして出陣前にアルクメネは「戦争に勝って凱旋されたら、私をあなたの妻にしてください」と約束した。アンピトリュオンの軍勢は輝かしい大勝利を収める。そしてアンピトリュオンが凱旋してくる前夜の事。まず、ゼウスは太陽に「今から三日間、空に出るな」と命令する。そして、アンピトリュオンに変身してアルクメネのもとへ。実際に起きた通りの戦いの模様を話して、自分をアンピトリュオンと信じ込ませ、思いをとげる。こうしてゼウスはアルクメネにヘラクレスを宿らせたのだった。
ヘラクレスがうまれて間もなく、寝ている部屋に毒蛇が送り込まれた。もちろんヘラの仕業。しかし、ヘラクレスは平然と毒蛇の首を捕まえると、苦も無く絞め殺してしまった。やがてヘラクレスは、人並外れて巨漢で、逞しい英雄に成長。18歳の時には、キタイロンの山に住み、牛の群れを荒らしていた巨大なライオンを退治し、勇名を天下にとどろかせた。その後、テバイのために大手柄を立て、テバイ王クレオンの長女メガラと結婚。子どもにも恵まれ仕合せな暮らしを送っていた。しかし、そんな幸福な暮らしを続けることをヘラは絶対に許さない。ヘラはヘラクレスを発狂させる。そして発狂したヘラクレスは、自分の子どもたちを敵と思い違えて、一人残らず射殺してしまった。正気に返った彼は、自分の犯してしまった罪に気づき、愕然としてデルポイに向かう。「自分は何をしたら、この罪を償うことができるのか」と尋ねるヘラクレスにくだったアポロンの神託はこうだった。
「ティリュンヌへ行きエウルステリュス王に仕え王が命じる仕事を果たせ。」
こうして有名なヘラクレスの冒険「十の難行」(後に二つが追加され「十二の難行」)がスタートする。
①ネメアの怪物のライオン退治 ②レルネの毒蛇のヒュドラ退治
③ケリュネイアの鹿の生け捕り ④エリュマントス山の大猪の生け捕り
⑤アウゲイアス王の畜舎の清掃 ⑥スチュンパロスの森の鳥退治
⑦クレタ島の暴れ牡牛の退治 ⑧ディオメデス王の人食い馬の生け捕り
⑨アマゾン女王の宝の帯奪取 ⑩ゲリュオンの牛の群れの生け捕り
⑪ヘスペリデスの園の黄金のリンゴの入手 ⑫冥界の番犬ケルベロスの生け捕り
ところでヘラクレスとヘラの物語。最後はギリシア神話には珍しくハッピーエンド。長い苦難の一生を終えたヘラクレスはオリュンポスに迎え入れられる。ゼウスは、ヘラクレスが人間であった間、彼を苦しめ続けたヘラにも、ヘラクレスと和解するよう命じる。ヘラは過去をすべて水に流し、ヘラクレスを以後は自分の息子の一人と見なすことを約束。そして、ヘラクレスを、自分の娘ヘベ(青春の女神)と結婚させた。
(ブールデル「弓を引くヘラクレス」オルセー美術館 ) スチュンパロスの森の鳥退治
(「毒蛇を絞め殺す幼子ヘラクレス」ローマ カピトリーノ美術館)
(スルバラン「メネアのライオンを倒すヘラクレス」)
(ポッライウォーロ「ヒュドラと戦うヘラクレス」ウフィツィ美術館)
(ルーベンス「ヘラクレスとケルベロス」プラド美術館)
(「ファルネーゼのヘラクレス」ナポリ国立考古学博物館)