『地球の終電』著者:ちあき
死んだ街に、雨が降り続いている。
廃墟の駅で男が一人、ベンチに座って遠くを眺めている。
電車は13分前に出発してしまった。次に来るのは1週間後で、それが本当に最後の電車になる。
というのも、その電車を最後に人類の移住化計画が完了したとみなされるからだ。
男は考えた…。これは選択の問題だ。自分が生活していく為に地球を捨て、自然災害がなく、快適な惑星で暮らすか。それとも「母なる地球」に、景観は変わり果ててしまったが、自らの記憶の中に思い出が残っている地球に留まり続けるのか。
「生きることと、生きていくことは違うのだ。そうして両者はけっして、相容れないのだ。」
男は初めてこのことに気がついた。つい口からでた独り言を、頭の中で繰り返す。
実際、あの大災害、ー誰が言い出したのかはわからないが、通称「最後の審判」ーの後、地球から遠く離れた惑星へ移住することが決まった際には、少数だが反対派がいた。諸々の議論の後、その決定は強制ではなく、任意で移住することに落ち着き、1年の間だけ「船」が地球から別の惑星へ向けて出航するので、移住を決めた者から乗って良いことになった。移住反対派は、信憑性の低い噂だが、彼らはある場所に集まり、共同で暮らしているらしい。
雨の中で考え事をしていると思い出が蘇って来る…少年時代の夏、父や母の顔、妻の顔、そうしてまさしく天地がひっくり返ったような未曾有の大災害。
生きることと生きていくこと、人間はそれらのどちらかを選ぶ事ができる。しかし、どちらの方が幸福か、真実かはわからない。いや、そもそも幸福や真実を選ぼうとする事自体が間違いなのかもしれない。選択の結果など、その後にしかわからないのだから。
「1週間だ」
「まだ1週間はある。その間に、決断しなければならない」
雨は降り続いている。
(了)