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Pink Rebooorn Story

第5章 その10:「リ・ボーーーン」【完結】

2020.02.01 07:39




日に日にガーゼは小さくなっていった。手術が無事に終わったことを泣いて喜んでくれる親族もいたし、快気祝いを送って下さる方もいた。ひとつひとつがあたたかく、励みになった。




心配をかけたくなかったのでなかなか病気のことを言い出せないままだった祖母は、この頃には親族に聞いてすべてを知っていて、術後初めて会った時、私の手を握って、

「まあまあ、こんなにやさしい手をして…」

と言った。私は、自分で思っている以上の愛に包まれていたのだと知り、胸がいっぱいになった。




本格的に再開した仕事も、あれよあれよという間にまた手いっぱいになってしまった。ありがたいことだ。とくに、乳がん発覚時に受けた絵本ディレクションの仕事が形になってきていたことがうれしかった。




そんなある春の終わり、仕事をなんとかひと段落つけて私たち夫婦が向かったのは、大阪。夫と私は、15周年記念で盛り上がるユニバーサル・スタジオ・ジャパンにいた。

「ミニオンズのリボーンパレードが見たい」

と、常日頃から言っていた私に、最後の手術を終えた「ごほうび」を夫が計画してくれたのだ。




人生のひとつの大きなうねりを終え、ふと考え込むことがあった。




「どうして私は乳がんになったんだろう」ということ。





それはいつも違う形をしてやってきた。悲しみ、苦しみ、達成感、喜び…。

確固たる答えはなかった。

乳がんにならなかった方が良かっただろうか。




分からない。




分からない。簡単に答えを出せるわけではないということだけは、分かる。

ここで、小堀昌子さんの『乳がんを抱きしめて』から、再び文章を引用させていただきたい。




小堀さんは、最後の病理結果を聞き、体に残ったがん細胞が「悪性のもの」ではなかったと知り安心すると同時に、改めて「なぜ自分が乳がんになったのだろう」と考える。

肉体的にも精神的にも仕事がハードになった一・二年前と、乳がんが最初にできたと思われる時期が重なることを自覚した上で「あのとき、私はどうすればよかったのか?」と自分に問いかける。




仕事を放り出してしまえば、乳がんにならなくて済んだだろうか?そんなこと誰にもわかりはしない。今の時点で私に言えることは、あの時期も、私にはなくてはならない大切な時期だったのだと思う。あの場から逃げ出した後の私の人生など、考えたくもない。そして、乳がんになったことも、私にとっては、決してマイナスだけの出来事だったとは思っていない。乳がんになって、あらためて自分自身を見つめ直すことができ、また、私を取り巻く環境に正面から向き合うこともできた。そして、これまで縁のなかった病院という世界にかかわるだけでなく、縁あって、私にとって最高の、信頼できる病院と医師にめぐり会えた。この乳がんだった1年は、私の素晴らしい経験という財産である。




そうなんだ。




「意味」を見出したなら、それはどんなに苦しい思い出でも、素晴らしい経験という「財産」に変わる。そうすることによって、心の中で泣いている小さな私を、やっと救ってあげられるのだ。




「どうして私が…?」というふうにしか考えられなかった、7カ月前。




でも今は、歩んできた足あと、やりきったことの全部が、私が私であるという証だと胸を張って言おう。




ここまで来たのだから、この先だって。




USJで、念願だった紙吹雪の舞うパレードを眺めながら、私はそんなことを考えてい

た。ありとあらゆる色のかけらが宙に光って、とてもまぶしく、美しかった。




「リ・ボーーーン!」




2016年6月 化学療法開始からちょうど1年




ミニオンたちが私を祝福するかのように、目の前でくるくると踊っていた。誰もが笑っていた。隣で夫も笑っていた。とても、とても幸せな光景だった。




そして私は、病気が分かった時、夫が私を元気づけるために「いつかスペインに行こうよ」と言ってくれたことをふと思い出した。




いつかスペインに行けるかな。




その時、一羽の鳥が、「ついておいでよ」と言いたげにひゅーんと空を横切った。




行ける。私はそう思った。空がつながっているなら、私の足の一歩も行きたいところにつながっている。絶対に。




「リ・ボーーーン!」




一人のミニオンが私の目の前にやってきて、かけ声に合わせ、両腕をめいっぱい広げた。まるで、見えない花束を私に向かって捧げるように。




リボーンとは、Re(再び)born(生まれる)で、<再生>。




何かが胸にこみあげてきた。私はそれを解放するように大声で「リ・ボーーーン!」とさけんだ。「リ・ボーーーン!」と何度も。




この日を待っていた。ずっとずっと、待っていた。




思い切り泣きたいような笑いたいような、この上もなく幸せな気持ちだった。







【Pink Rebooorn Story/完】