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ダンス評.com

ジル・ジョバンGilles Jobin「VR_I」「Womb」スパイラルガーデン

2019.05.03 13:09

スイスの振付家・ダンサーのジル・ジョバンによるVR(バーチャルリアリティー)のダンス作品「VR_I」は、15分の体験型鑑賞作品で、料金は1000円。5月1日~3日の開催で完売。スイスの非営利団体「アルタニム(Artanim)」によるモーションキャプチャ技術も使われている。

同じジル・ジョバンによるダンスの3D映像作品「Womb」(「子宮」の意)も上映されていた。こちらは予約不要で鑑賞できた。


■VR_I

1回15分の体験者は5人。体験前にスタッフから簡単な説明があり、体験中にグレーに見える床の外に出ないこと、装着する機械にダメージを与えないように、ジャンプするなど激しい動きをしないこと、などの注意事項が伝えられた。

荷物は置いておき、スタッフに機械などを装着してもらう。両足に1つずつ、両手に1つずつ、モーションキャプチャのための装置を身に着ける。装置と手足の左右を間違えると動かしたときに見え方が変になるので、その場合は開始前にスタッフが着け直していた。次に、リュック型の結構重い装置を背負う。重いが、8歳から体験できるので、15分間動き回るのに支障はない。後は、VR用の眼鏡とヘッドセットを装着する。マイクが付いていて、体験中に体験者同士で話せるようになっている。ただし、誰が話しているのかは少し分かりづらい。

ヘッドセットから流れるスタッフの指示に従い、右手を挙げて「こんにちは」と言う。問題なければ、参加者たちはそれぞれアバターの姿になって現れる。このアバターは5人分決められていて、参加者が違っても同じなのだろう。参加者本人の人種や性別とは関係なく割り当てられるらしい。白人、黒人、ラテン系、アジア系といったところ。眼鏡のピントが完全に合っていないと、自分の体が少しゆがんで見えたりした。でも、手を動かすといつもの自分の腕や手とは違って見える腕や手が動くのが面白い。指先などにモーションキャプチャの装置は着けていないので、その部分は動かしてもアバターでは動かない。

残念ながら、自分のアバターの姿は見えないので、顔は分からない。もし、自分のアバターの姿を、鏡に映すようにして見られるなら、スタイル抜群の美貌のアバターになって、鏡(のようなもの)に映る自分の姿を見ながら踊ってみたい。テクニックはいつも通りなわけだが、美しい姿になった気分になれるだろう。技術の進歩で、こんなことはすぐに誰でもできるようになるんだろうな。でも、みんなが「美しい」姿になったら、外見の美しさなどどうでもよくなる気もする(笑)。

体験が始まると、狭い洞窟のような空間にいる。おもむろに、その周囲の壁や天井が持ち上がり、砂漠のような空間が周囲に広がる。洞窟のような壁や天井は、アミューズメントパークや映画のセットのようにひとまとめになっていて、それを巨人が持ち上げたのだ。周囲には巨人がたくさんいる。歩き回ったり、体験者を上から覗き込んだりする。漫画や映画の世界!

今度は、巨人たちが室内の壁や天井を体験者の周りに設置して、体験者たちは家の中にいるような状態になる。ベランダで動く人やテラスで踊る人などが見える。体験者がいる空間に小さな人々が現れ、踊っている。壁の絵に手を伸ばすと、手が絵の向こう側に消えて見えなくなってしまう。

壁や天井が取り払われると、今度は都市の公園のような空間が広がっている。体験者と等身大の人たちがあちこちでストレッチしたり踊ったりしている。体験者のいる空間に入ってきて、踊る人もいる。体験者のアバターと映像の人との区別は、見ているだけではつかない。触ってみると、触感があるかないかで判断できる。でも、もし映像の人にも触感を与えられたら(シリコンの人形みたいに)、本当に区別がつかなくなるかもしれない。

周囲の映像の人たちがみんな動いてダンスしているようなので、自分も踊りたくなる。機械を壊さない程度になら、もちろん踊ってもいい。動いた方が体験をより楽しめるだろう。

公園に巨人が現れて、最初の洞窟の物体を体験者たちのいる空間にかぶせた。ヘッドセットからスタッフが声で終了と告げる。装置をスタッフに外してもらって、体験終了。

体験後、一緒に体験した人たちと、体験についての感想を伝え合う場があるとより面白そうだ。アバターの姿で交流していたので、体験後に本来の姿になって顔を見合わせると不思議な感じがする。

体験中、映像の人が体験者のいる空間に入ってきて踊る場面があったが、実際のダンスパフォーマンスでも、ダンサーと観客がもっと交差するようなことがあってもいいのかもしれない。ただ、観客が思いも寄らない行動に出たりするなどの危険性があり、だからなかなか実現しないのだろうけども。

VRもモーションキャプチャも初体験だった。映像の中の人の動き自体はダンスや運動としてとにかく「普通」だったが、人の大きさがいろいろだったり場面転換の仕方に工夫があったりと楽しめた。

ジル・ジョバンとMIKIKOによるトークイベント「鑑賞者が踊る?テクノロジーで拡張するダンスの『今』」を聞けなかったのは残念だが、この作品は、踊る人(ダンサー)と見る人(鑑賞者)が交わるのが重要な要素の一つになっている。ライブで音楽を聞きながら踊りたくなるように、公演でダンスを見ながら踊りたくなるときがある。以前から、ダンスを見ながら一緒に踊ってもいい公演があるといいなと思っていた。そういうイベント、誰か企画してくれないか?もしかしたら、すでにあるかもしれない。


■Womb

テレビモニタに映っている映像を、3D眼鏡を掛けて見る作品。ジル・ジョバン自身を含む3人のダンサーが登場。

動きは「VR_I」に通じるところがあり、空間を確かめるように動いたり覗き込む仕草をしたりする。3Dらしい奥行きを際立たせるように、手前から奥へ何層にもなるセットを置いたりしている。黒い背景でダンサーたちが水中のような宙のような空間にいるように動く場面もあった。

ダンス自体に大きな特徴はあまりない。ダンサーの足の近辺にミニチュアを配置するなど、少しフェティシズムっぽい趣もある。「VR_I」で巨人や小人が登場したように、サイズを変えて世界を見てみたいといった願望が表れているのかもしれない。


※上記画像は上記サイトより。